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1-3 前章の内容

「そーいや聞いたけど、委員会のヤツらと大変だったらしーじゃん」


 二人だけで教会の敷地の木の下でくつろぎながらアリドが言った。

 女官みんなは気を利かせて白の館に撤退。


「巳白も清流も翼族界に行って、まだ帰ってきてないんだろ?」


 リトは頷く。

 巳白と清流は人を喰うといわれている異生物「翼族」と人間のハーフだ。 先日、翼族調査委員会メンバーがやってきて彼らの罠にはまり巳白とリトは検査を受けることになった。


 そこで巳白はリトを守るために自らの翼を負傷し、現在、迎えに来た翼族に連れられて翼族界に治療に行っている。 同行を許された清流はとても上機嫌だった。


「早く帰って来ねーかなぁ、巳白たち」


 アリドが本当に待ち遠しそうに呟き、ちらりとリトを見る。


「んで、あんまり詳しく聞けてねーんだけど、やっぱりラムールさんが最後に助けに来た訳?」


 リトは、頷く。

 リトはこの話題には触れたくなかった。

 思い出せば思い出すほど「ある事実」が胸に重くのしかかる。


「そういえばオルラジア国の南の方に行ったんでしょ? 何か収穫はあった?」


 リトは話題を逸らそうとした。

 アリドは背伸びをしながら答える。


「いーや。 オヤジの仇のジンについては何も。 やっぱり裏ハンターなんてヤツらの情報、そー簡単に入らねーなぁ」


 それはそれで、アリドが危険な目に遭わないのだろうから、嬉しい。


「新世さん達を殺した翼族調査員会メンバーって奴のことも全く分かんなかったし」


 それについては――触れたくない。

 孤児となったアリド達を拾って育ててくれた新世さん。

 彼女はおよそ2年前に何者かの手により、死んだ。

 新世は翼族だったので、その経歴が名簿に載っており、リトはたまたまそれを目にする機会があった。

 新世を殺した相手は、翼族調査委員会ゴールドメンバー、g-∞。

 メンバー名は通称なので、それだけだと何処の誰か分からない。

 しかし、リトは気付いてしまったのだ。

 先日、ラムールが助けに来てくれた時に出した印が――∞だったのだ。

 そうなると、新世を殺したのはラムールということだ。


 ラムールはアリドも育った陽炎の館の保護責任者だ。

 いいや、新世の死後、館の責任者になったのだから、新世を殺して館の責任者になったというべきか?

 頭脳明晰、容姿端麗、品行方正、褒め言葉すべてを使っても足りないと讃えられるラムールが、そんなことをするのだろうか?


 こんなことは誰にも――相談できなかった。


 そしてラムールはここのところ相変わらず、しょっちゅう留守にする。

 どうやら他国から重臣にならないかと誘われているようだし、教育係になったのは権力を得ることで新世という翼族を守るためだったのに、新世亡き今、ラムールが教育係でこの国に留まる理由がない。 おそらく新天地に移住するための準備をしているのだとリトは考えていた。


 だがしかし、それでは新世を守るために頑張った人間が新世を殺したことになる。

 邪魔になったのだろうか?

 他国に行くのならテノス国のことなんてどうでもいいだろう。

 だからこの魔物騒ぎも、あえて面倒とばかりに手を出さないのでは?

 いや、ラムールは本当にそんな人間か?


 リトはここ数日、何度も繰り返し問いかけた疑問の迷路に再び迷い込む。




 不意に、ポン、と、アリドの手がリトの肩を叩いた。




 我に返りリトはアリドを見る。

 アリドがまっすぐ見つめる。


「相談したくなったら、いつでも聞いてやるから」


 そう言ってニコリと笑う。

 嬉しくて、胸がドキリと音をたてた。


「んじゃー、オレは魔獣退治に行ってこよーかな♪」


 アリドは元気よく立ち上がり指笛を吹いた。


 空から空気の固まりが飛んでくる。 そう、周囲の色にとけ込んだ変化鳥だ。 アリドはまるで変化鳥の体がきちんと見えているかのようにその背に飛び乗った。


「アリド!」


 リトは立ち上がった。


「清流が帰ってきたら魔獣は簡単に全滅できるからもう少しの辛抱だって。 もう、無茶すんじゃねーぞ?」

「うん、ねぇ、アリド、魔獣退治、するの?」


 もっと話していたくて、会話を切りたくなくて、リトは尋ねた。

 アリドが目に見えぬ変化鳥を撫でながら言った。


「この魔獣、変化鳥の大好物なんだな、これが」

「えっ? 変化鳥、魔獣たべちゃうのっ?」


 クルル、と変化鳥の嬉しそうな鳴き声が聞こえた。

 そうか、さっきアリドが空に放り投げた魔獣が消えたのは、変化鳥がパクッといっちゃったからなのね?

 納得してしまったのがいけなかったのか、アリドは「んじゃ」と一言だけ残して飛んでいった。

 弓にヨロシクな、って響きが、風に乗って微かに耳に届いた。

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