第四章 選択
フアナと二人でいくつかやり取りしたあと、ボルジアは帰った。そのあとのことだった。アリシャールはエンマに家の外へ呼び出された。
エンマは家から少し離れた場所で身を潜めるように待っていた。夜分一人で外にいるのは危ないと思ったのか、それとも自分がここにいるのは家の中の者に気づかれたくなかったのか。辺りは静かで、他に人の姿は見えない。雲の狭間から漏れる月明かりのおかげで、なんとか周りを見ることが出来た。
アリシャールはエンマの深刻そうな暗い顔をしていることに気づいた。それは決して昼殴られたときの痣のせいではないだろう。気遣うように優しく語りかけた。
「……ボルジア卿に言われたことを気にしているのか?」
――それは、ボルジア卿が帰ろうとしたときのことだった。エンマは彼を呼び止めた。
「……あの、ありがとうございます。……本当にありがとうございます」
その時のエンマはボルジアを前に緊張していた。なぜか気恥ずかしくて顔が熱い。しかしボルジアは出口で足を止め、彼女に背を向けたまま返した。
「勘違いしないでほしい。イスパニア半島での異教徒への迫害は不当であると思うし、君の身の上にも同情する。しかしわたしはヘブライ人が嫌いだ。わたしの国にも君の民族はいる。金儲けのことしか考えていないような連中ばかりだ」
「君には衝撃的な言葉だったかもしれないが――あれでも彼は聖職者の中では俺たち異教徒に寛容なほうだ」
正教徒の中でも過激な思想な持ち主は、異教徒であれば皆殺しにしても良いなどという恐ろしいことを平気で言う者もいる。それに比べれば、彼の言葉はずいぶん理性的だ。
エンマはボルジアにあこがれを抱いていたようだが、それはあの異端審問で追いつめられた状況が見せた錯覚だ。彼の態度で早く事実に気づけて良かっただろう、とすら思う。
しかしエンマは首を横に振った。
「テルネロ・ボルジアのことはいいの。どういう経緯であれ、助けられたのは事実だから、感謝はしている……それだけ。私が気になるのはフアナのこと。彼女は簡単に信頼しないほうがいい」
「彼女が何かしたのか」
エンマが話したのは、フアナも『英傑の血』を引いていること。それを意図的にアリシャールに隠していたということだ。
「本当にそんな力があるなら……それはおそろしいことだ」
アリシャールは考える。今までのフアナとのやりとり。そのときの自分の心中がすべてフアナに筒抜けになっていたのだとしたら――自分が彼女の都合のように利用されていたのではないと、どうして言い切れるだろう。
しかしその力を使えば、絶対的に不利な今の状況でもイザベルを倒す手だてはあるのではないだろうか。それさえ出来れば、アリシャールの目的――カスティーリャにおけるモーロ人の生活を守ることは成し遂げられる。フアナがアリシャールとの約束を守るとは言い切れないが、アリシャールの力を認めているのは確実だ。簡単に約束を破るとは思えない。
「確かにフアナの力を使えば、彼女はイザベルから女王の座を取り戻す事もできるかもしれないわ。……わたしが危惧しているのはそのあとよ」
「……そのあと?」
「彼女は本当にイザベルよりすばらしい女王になるのかしら。イザベルは今までカスティーリャにおける正教による統一を押し進めてきた。それを百八十度かえるのは簡単ではないと思うわ」
エンマの言葉には一理あった。たとえフアナが女王になったとして。そしてモーロ人に保護されたとして。国が傾いては、意味がない。
変革には犠牲が付き物だ。イザベルはモーロ人やヘブライ人を犠牲に強固な正教の国を作ろうとした。フアナもまた何かを犠牲にするのだろうか。それはいったい何なのか。
フアナが女王になれば、という考えはあまりに楽観的すぎる。
「間違いなく今までイザベルを支持してきた者から反発があるだろうな。異教徒との融和政策を進めれば、正教徒の過激派と対立することになる。果たしてフアナにそれを押さえつけることができるか……」
「押さえつけるでしょうね。どんな手を使ってでも。イザベルが私たちを追放しようとしたように。大義名分が変わるだけ」
「……結局は変わらない、ということか」
どんな手段を使っても目的を達成する。アリシャールはその思想を否定しない。犠牲なしには何かを得ることはできない。アリシャールも覚悟の上で、この国のモーロ人の安寧の為に尽力を尽くしてきた。
彼にはその覚悟に至るまでの葛藤があった。絶望的な現実があった。
そこまで考えてふと疑問に思った。フアナがそのような葛藤はあるのだろうか。
「これはわたしの考えだけど、フナナに女王としての手腕が欠いているということはないと思う。でも彼女は国民の三分の一を殺せば残りの三分の二が幸せに暮らせるとしたら、迷わず三分の一を殺す女王になるのだと思う。……それが正しいのか分からない。だからあなたにも考えてほしい。この国のモーロ人……いえ、この国に住むすべての人の為に。あなたにも『英傑の血』が流れているんでしょう?」
エンマが疑問視しているのは、フアナの王としての手腕ではなく人格だった。アリシャールにはそれが意外だった。エンマのことをよく知ったつもりになっていたわけではないが、彼女なら国を治める技量があるなら、その者の人間性は重要視しないと考えていた。
「女王としての素質は政治的な手腕だけではない、と」
「昔の――父母と一緒に暮らしていた頃のわたしなら、フアナをこんな風に疑いはしなかった。たとえ道ばたで飢えて死んでいく人がいてもそれは仕方がないって言ったと思う。富める者もいれば、貧しい者もいる。それは当然のことだって。でも今は理屈じゃ納得できないものがある。それは捨てちゃいけにないものだって思うわ」
きっとそう思うようになったのは、彼女が両親と別れて今日まで虐げられ続けたから。そしてトルケマダの裏切りを目の当たりにしたからだ。
なぜ、正教徒たちが自分たちを虐げるのか。なぜ、トルケマダがヘブライ人を裏切ったのか。エンマはその理由を、頭では理解している。しかし感情では受け入れられないのだ。
「それに……彼女は信頼できない」
「……なぜだ?」
躊躇いながらも、彼女は言った。
「…………女の勘よ」
アリシャールは声を上げて笑った。エンマはうんざりした顔をしている。言わなければ良かったと思っているようだ。
「いや。バカにしてるわけじゃないよ。おまえは賢い。心からそう思っている」
エンマはまだ機嫌を直さない。アリシャールは続けた。
子供であること。女であること。異教徒であること。そういうことは無視して彼女と話をしていることを分かってほしかった。
「そうじゃなきゃ、母さんは今頃焼け死んでるよ」
それを聞いて、エンマは口の端で小さく笑った。
「そうよ。ヘブライ人は賢いの。長い歴史の中で、いつの時代もどの地域でも迫害され続けたから。だから生き抜くために賢くなった」
ヘブライ人は金貸しや商人、そして学者が多い。それもまた迫害ゆえだった。そして、そうやって蓄えた知識や財力ゆえにさらに嫌われた。
金貸しは特に嫌われた。金貸しという行為自体、正教では教義に背く行いとされている。それで富を築いたものは妬まれ、疎まれた。彼らから金を借りるのは正教徒だから、それで憎むのもおかしい話だが。金銭に関わるトラブルが多いのも嫌われた原因だった。
それでも彼らは、生き残ってきた。知識や財力といった、自らの力で。
アリシャールは強く思っていた。エンマも彼女の民族も賢く、そして誇りを持っている。
自分達も生き抜く為には賢くならねばならないのだ、と。
エンマとアリシャールが家に戻ろうとしたのを待っているものがいた。
「まさかこんな夜更けに外で二人に会うなんて思ってもみませんでした」
フアナは白々しい口調で言った。
「エンマ、夜更かしはいけませんよ? アリシャールも夜遅くに子供を外に連れ出すのは良くないです」
「もしかして、さっきの話を聞いて……」
エンマが言おうとしたら、フアナはエンマの口に人差し指を当てた。
「ここから先は大人の時間ですよ」
フアナはエンマを家の中に押し返した。そして、彼女がこっそり話を聞いているかもしれないと思ったのか、「少し歩きましょうか」と言って歩きだした。
フアナは無言のまま、目的もなくぶらついている。幸運にも街をうろつくならず者に目を付けられるようなこともなかった。しびれを切らしたアリシャールが単刀直入に問いかけた。
「エンマが俺に話したことは本当か?」
「わたしの体に流れる『英傑の血』――〈慧眼〉ことですか。あの子が嘘を言ったとは思いませんか」
「異端審問のとき殴られても必死に母さんをかばってくれたエンマと、何もせずに黙って笑っていたおまえなら、エンマを信じるよ」
それももっともです、とフアナは言った。
「相手の心が分かるなら、その相手をだますことなどたやすいこと。そしてその逆はとても難しい。そう考えれば、だれがわたしを信頼するというのでしょうか」
その考えには一理ある。今のアリシャールも、彼女を信頼する気にはなれない。
「加えてわたしの力は完全ではありません。……もし完全だったなら、イザベルに幽閉されたりはしませんでしたよ」
「じゃあその不完全な力でどうやってイザベルに勝つんだ。そもそもおまえは、女王になることを望んでいるのか? 俺は同胞の為に命を尽くすと自分に誓っている。お前はどうなんだ」
「わたしは……」
彼女は迷っているようだった。それが演技かどうかまでは分からないが。アリシャールは黙って言葉を待つ。目を瞑りしばらく考えてから、エンマは口を開いた。
「カスティーリャの未来の為、自らが王位につくことを望みます」
そう言うフアナの目は微塵の迷いもなかった。凜とした顔立ち。堂々としたたたずまいはまさに一国の王女のものである。
「イザベルは正教徒にすばらしい女王だと支持を集めています。彼女の政治的手腕は確かなのかもしれない。もしかしたらわたし以上の素質を持っているかもしれません……しかし彼女が進むその先にある未来が明るいものだとは思えないのです。今までこの国でモーロ人やヘブライ人が培ってきたものは、間違いなくこの国の繁栄の基礎を作るでしょう。それらすべてを否定して、この国はこれから先も栄えることができるのでしょうか。わたしは、この国の王として、カスティーリャの未来を作りたい――わたし自身が生き抜くため、だけならイザベルに勝つ必要はありません。あなたとの約束を破って一人国外へ逃走することもできるのです。それは簡単ではないかもしれませんが……打倒イザベルに比べたら危険は少ないでしょうね。ですがわたしは決めました。わたしはイザベルに代わり王位に就いてこの国を変えます。だからあなたも選んでください」
自分はどうするべきか。アリシャールは選択を問われていた。一つはフアナに協力するという選択肢だ。今までイザベルさえ王の座から降ろせば何とかなるのではないかという楽観的な気持ちがどこかにあったが、いまはそう思えなかった。モーロ人が自由に生きる希望と、国が衰退する危険が隣り合わせにある。国の衰退は、結局はモーロ人達にとっても暗い未来を意味しているのだ。
もう一つの選択肢は彼女には協力しない。今まで通りイザベルの治世下でもモーロ人が生きることができる道を探す。それは容易でない。長い間道を探してきたがそんな方法は見つからなかった。だが可能性がないわけではない。
……いや違う。選択肢は二つではなく三つだ。
フアンに協力しない場合は、さらに二つの選択の必要がある。
それは今フアナをこの手で殺し、彼女が女王となる未来を阻止するか。それとも殺さず、協力することもせず、だれが女王の座に就くかは成り行きに任せるかだ。
イザベルが王である未来とフアナが王である未来。どちらも大きな懸念がある。今ここで決断するのは無理だ。自分の手で、そんな責任ある決断は下せない。
――だとしたら、自分に選べるのはフアナを殺さず協力もしないという道だけなのか?
そこまで考えて、アリシャールは心の中で己を叱咤した。
……いや、違うだろう!
それは自分にとって都合のいい無責任な消去法で選んだ回答だ。回答の先にある未来は自分だけのものではない。
エンマはフアナのことを教えてくれた。選択を自分に託したということだ。彼女だけではない。母や子供たちは、自分を信じている。
アリシャールは指の先で剣に触れる。今ここで決断せねばならない。彼女を生かし王にするか。それともここで殺すか。
フアナを見れば、射抜くような視線がまっすぐこちらに向けられている。
「迷っていますね。よく分かります。何を選ぶべきかあなたにも分からないようですが、わたしにもあなたがなにを選ぶか分かりません」
彼女の〈慧眼〉の前では、下手に打算的な答えを返して回答を後回しにはできない。
……いや、むしろ自分が決断した瞬間、相手にもそれが筒抜けなんじゃないか?
そのとき、フアナはふっと微笑んで目を閉じた。
「今は公平なやりとりをしましょう。これであなたが迷う顔も見えません。あなたが何を選んでもそれを表情で察することはできません」
ただ自分自身の心に従って、決断せよ、ということだ。
今こそ運命の時なのだ、とアリシャールは唾を飲んだ。フアナと対峙するこの瞬間。トルデシーリャスの小屋で初めて出会ったときと同じだ。その時は彼女を生かすことを選んだ。彼女の言葉に従い、ボルジアの元へも赴いた。しかしずっと彼女を信頼できずにいたのも事実だ。その判断を保留にしていた。しかし、今はそうもいかない。
そして今、彼が下した決断は――
「これが答えだ」
その刹那、アリシャールは剣を抜いた。夜の闇の中、赤い炎がほとばしる。銀色の刃は、炎を纏い、フアナの白い首筋へと向けて曲線を描き、そして。
アリシャールの剣は、フアナの首の薄皮一枚だけを割いた。
風圧を感じ、思わず瞼をきつく閉じたフアナは、やがてゆっくりと目を開けて、炎をまとう白刃、そしてアリシャールの顔へと視線を移していく。アリシャールは正面からその視線を受け止めた。
「フアナ・カスティーリャ。お前はこの国の王になれ。モーロ人もヘブライ人も正教徒も関係なく、すべての民衆とこの国の未来のために力を尽くせ。もし力が及ばなかったときは――」
アリシャールの覇気に同調するかのように、赤い炎が波打つように揺れる。炎自体が一つの命を持っているかのようだった。
「そのときは俺がお前を殺す。この命をかけて、何があってもだ。お前の首には常にこの剣が向けられている……そう思え」
「その言葉、しかと胸に刻んでおきます」
アリシャールはそれを聞くと、ゆっくりと剣を降ろした。二人はお互いの顔を見合わせ、安堵の息を漏らしあう。
それは殺す殺されるの関係から、ひとまず和解した合図だった。
「さすがに殺されるかと思ってひやりとしました」
笑いながらフアナはそういうが、あまりそうは見えなかった。今だけではない、彼女の心は何があってもほとんど動じていないような印象を受ける。
「お前は迷わないんだな。いや、それどころか自分を幽閉したイザベルへの怒りすらないように思える。お前のような超越した人格こそ本当の強さではないだろうか」
それに比べてなんと自分は迷いが多いのだろう、と思う。『英傑の血』なんて名前だけだとすら感じる。
「買いかぶりすぎですね。この十年、わたしはひたすら思考に思考を重ねてきました。あの狭い小屋から出られなかったわたしは、ひたすら考えることしか出来なかった。そこで十分すぎるほど怒り、嘆き、呆れ、恐れ、悩んできました。そしてどういう状況で、自分はどうするべきか……いく通りも考えてきたのです。今のわたしはその結果ですよ」
その精神力がすごいのだ、アリシャールは思う。
他に誰もいない、何も出来ない小屋の中で何年も何年も閉じこめられていたら――きっとまともではいられないだろう。普通の人間なら、生きることを放棄して、まともではいられない。
それに比べれば自分の〈火焔〉の力など、大したことがないように思えた。
「自身の選択に迷いながら、それでも進んで行く。――あなたのほうがホンモノですよ。『モーロ人の英雄』なんて呼び名も決して誇張ではない。アリシャール、あなたは間違いなく英傑です」
アリシャールの表情を見て、フアナは付け足す。
「……気休めならもっと上手くいえますよ」
その言葉に少し気を持ち直した。〈慧眼〉を持つフアナは自分を信頼している。そう考えれば、まだ気がマシだったし、なによりそんなことで落ち込んでいる場合でない。
「でもよかった。これであなたに計画を話せます。打倒イザベルの作戦はずっと考えていました。ボルジア卿にも協力を仰いだのですが、あなたに話すのはきちんと信頼していただいてからだと決めていたのです」
アリシャールが真剣な顔で頷くのを確認して、彼女は続けた。
「あまり時間がないので手短に。わたしは明日の大異端審問でイザベルと直接対決します。ボルジア卿に勝負の舞台は整えていただきます。アリシャールには、わたしが舞台に立つまでの手引きをお願いしたいのです」
「手引き……どうすればいい? 人前に立つまでに邪魔してくる警備兵をけちらすぐらいはできるかもしれないが、それで果たしてお前がイザベルと対決できるようになるんだろうか」
「難しく考える必要はありませんよ。あなたはあなたの考えにしたがえばいい」
フアナはアリシャールの手を両手でつつみこむように取った。
「アリシャール。これからのことですが……あなたならきっと大丈夫。いっしょにがんばりましょう」
意味ありげな言葉だ。どういう意味だとフアナに問おうとしたときだった。
彼女はアリシャールの手を持ったまま、いきなり悲鳴をあげた。
「……おい! なんのつもり……」
「いや! 助けて!」
戸惑いを隠せないアリシャールを無視して、フアナは叫ぶ。彼にはその意味が理解できなかった。
まもなく、彼女の悲鳴を聞きつけるように大勢の人間が近づいてくるのが分かった。異端審問所の警吏達だ。あっというまに、彼らに取り囲まれる。数は十を越えていて、逃げ場もない。
警吏の一人が叫ぶ。
「動くな! 彼女から離れろ」
悲鳴をあげる修道女の格好の女。その手を掴むモーロ人の男。今の状況、間違いなく自分がフアナの手をつかんで無理矢理どこかへつれていこうとでもしているように見えるだろう。
アリシャールはフアナを離す。大して力も入れていないのに、フアナは倒れるように離れた。演技だと気づけたのは、この場でアリシャールだけだろう。
彼女の真意が、未だにつかめなかった。
彼らを手引きしたのはフアナ。そしておそらくボルジアだ。ここで自分が捕まえられるのにも、なにか考えがあるのだと予想はできる。できるならもう一度、その考えをしっかり確かめたい。そのために、今は警吏達を退けるべきか、それともフアナの意志に従うべきか――
迷ったのが命取りだった。警吏達はアリシャールの予想以上に彼の力を警戒していたのだ。
アリシャールの後頭部に衝撃が走る。よろめくアリシャールを速やかに地面に押さえつけると。両手の自由を奪った。
「剣は取り上げろ!」
警吏の一人がアリシャールの腰から剣を取ると、地面に投げた。
彼らはアリシャールの力を知っているということだろう。もみくちゃにされながら、アリシャールはフアナを見た。すると彼女の唇がわずかに動く。
――未来のため。
そう、動いたように思う。
今捕まることは、自分の望む未来につながっている。そう信じることしかできなかった。