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終章


 その直後、フアナはこっそりと広場を抜け出した。

 目の前で起こった、あまりにも予想外の出来事の連続に、警備の兵たちもどうすればいいのか分からなかった。また外套をかぶり、人ごみに紛れていった彼女をだれも止めなかった。

 この辺りに住んでいるものは、みんな異端審問の見物に向かったのだろう。近くの路地に入れば人通りはない。高い建物に囲まれた、狭い通り道であるここは、普段から人通りもまばらなのかもしれない。建物の陰で薄暗い路地を、フアナの足音だけが響く。

 そんな彼女に、後ろから声をかける者がいた。


「カスティーリャの新しい王が、こんなところにいてもいいのですか。いきなり姿を消しては皆心配しますよ」

「それはあなたも同じでしょう」


 振り返れば、そこにはアラゴン王のフェルナンドが立っていた。従者も連れていない。温和な表情を浮かべていたが、今はそれが不気味だ。


「フェルナンド様。わたしに何か用ですか?」

「……言わなくても、あなたは分かっているのでしょう」

「イザベルの王位をわたしに奪われて、さぞ悔しいでしょうね。長い時間をかけて、彼女を自分にとって都合のいい女王にしたてあげたのですから。――それを、指を咥えて見ているだけにもいかない、ということですね」


 皮肉めいた言葉にも、彼はわざとらしい動作で肩をすくめて見せた。


「さすがです。あなたには敵いません」

「わたしの〈慧眼〉を使えば容易いことです」


 その力のことですか、とフェルナンドは含みのある笑みを浮かべる。


「〈慧眼〉……『英傑の血』……はじめてイザベルから聞いたときは、そんな空想じみたことがあるものかと思いましたよ」

「空想ではありませんよ。アリシャールの力を見たでしょう。……わたしも彼の力を初めて見たときは内心びっくりでしたが」


 彼の力が無ければ、フアナはあの舞台に立つことが出来なかった。アリシャールはあの力で敵を倒したわけではないが、確かに歴史を動かしたのだ。『英傑の血』――その名に相応しく。

 しかしフェルナンドは考えるところがあるようだ。


「……イザベルはあなたの『英傑の血』が本物だと信じて止みませんでした。それがあなたへの劣等感に繋がっていた。だからわたしはイザベルに、『英傑の血』という自分も特別な力を持っていると信じ込ませた」

「信じ込ませた……まるで、イザベルが本当はそんな力を持っていないみたいな言い方ですね」

「まさに、そうだと言いたいのですよ」

「それではおかしいことがあります。『英傑の血』を持っていると偽っていたというのに、『ミカエルの天秤』は動かなかった。あの聖具は偽者だと言いたいのですか?」


 異端審問の最中、天秤は最初から最後まで動かなかった。

 あの天秤は未来まで予言できるわけではない。だから、フアナが語った理想が実現することを意味しているわけではない。それでも身分を偽ったりすれば、必ず反応する。


「それはないでしょう。それが明らかになれば、責任を取らなければいけないのはボルジア卿です。彼の人格を鑑みるに、彼があなたのためにそこまでするとは思えない。しかしそもそも、あなたはあの時、『英傑の血』を持っているとははっきりと言っていない。イザベルもあなたと同じだと言っただけです。……つまり、あなたにも『英傑の血』なんて流れていない」


 フアナは笑う。それは今まで見せなかったような笑顔――いたずらに成功した子供のような表情だ。


「さすがです。イザベルをとりこにしただけのことはある。――その通りですよ。そもそも、本当にそんな力があるのだとしたら、イザベルの策略にはまって幽閉されるようなことになりませんよ」

「イザベルだけでなく、あのモーロ人の英雄も騙していたのでしょう? なんとも罪深い方だ」

「最初から人を騙そうと思って考えたわけではないのです。ほら子供の頃、誰だってあるでしょう。自分は人と違う、そんな妄想を抱くことが。まぁ王位継承者である時点で、かなり特別だといえますが、もっと圧倒的に特別な何かになりたかったのです。実際、わたしは人より他人の心の変化に敏感でした。きっと生まれ育った環境のせいですね。古い文書で『英傑の血』の存在を知った時、わたしの力はそれなんだと信じたのです。イザベルにも騙そうと思って言ったわけではありません――妹に幽閉され、自分の力は本物ではないと思い知らされたわけですが」


 アリシャールと初めて会ったとき、表面上は悠然と振る舞いながらも内心は驚いていたものだ。まだ今の世にもそんなものが残っているということに、期待感を抱いた。

 ――あなたのほうがホンモノですよ。

 昨夜言ったこの言葉も、本当に気休めではない。

 そして、彼の力が本物だからこそ、信頼することも出来たのだ。


「わたしの〈慧眼〉は偽者でしたが、もう一つ知っていることがありますよ」

「……それは興味深い」

「イザベルに異教徒を追放し、異端審問所を設置させるように仕向けた目的です」


 フェルナンドは呆れたように頭に手を当てた。わざとらしい仕草が妙に様になっている。


「そんなことは誰でも知っていますよ。『血の純潔』――正教の教えで半島を支配するためです」

「もちろんそれは目的でしょう。しかしあなたにはもう一つ――わたしが幽閉されたくらいの頃、アラゴン王家は借金で首が回らない状態でした。その後のグラナダ陥落にも、さぞかし軍資金が必要だったでしょう。それはカスティーリャも同じことですが。そこで追放する異教徒や異端として裁かれた者から財産を没収した。さらに王家に金を貸していたのは、ヘブライ人の金貸しです。彼らを異端として罰せれば今までの借金までチャラにできる――なんとも良いことずくめですね。まさに錬金術。一国の王のすることとしては、あんまりにせこいというのがわたしの感想ですが。正教徒の国民達も、王にこんな思惑があったと知れば、さすがに王を卑怯者と非難すると思いますが」


 フェルナンドはそれらを否定しなかった。


「――金は手段であって目的でない。あなたはそう言っていましたね。あなたは現実が見えていないのです」

「あなたこそ未来が見えていません。彼ら異教徒は、例えるなら林檎の木です。あなたは切り倒して薪にしてしまった。その果実の味を知らぬままに。わたしなら切らずに毎年果実を収穫することを選びます」

「随分皮肉なたとえですね。知恵の実の味を知らぬままでいたら、人間は楽園を追放されなかったかもしれない」


 フェルナンドが出したのは、正教やヘブライ教の聖書の有名なエピソードだ。知恵の実――それは林檎であったとされている――をかじった人間は神の怒りを買い、楽園を追放される。


「ですが、ずっと楽園で怠けて暮すよりマシでしょう? 何よりそうしなければ、人間の歴史は始まりませんでした」


 フアナの返した言葉が面白かったのか、フェルナンドはくつくつと笑った。


「たとえ本物の『英傑の血』を引いていなくても、あなたは大したものですよ。イザベルから王位を取り戻した。……本当に、あの時イザベルを行かせなければ良かった。いくら後悔してもしたりません」

「――後悔、ですか。わたしの〈慧眼〉は本物ではありませんが、わかりますよ。まだあなたが諦めていないということが」

「……民衆はまだ新しい王を受け止めきれていない。今あなたが死ねば、イザベルは今までと同じように女王になれる」


 フェルナンドは静かに剣を抜いた。その微笑みの裏側には、本物の悪意と殺意が揺らめいている。

 フアナは一歩後ずさり、周りを見た。逃げられるようなところはなく、叫んでも人は来そうにない。彼の剣の腕前がいかほどかは分からないが、フアナの人並み以下の体力では敵わないのは確実だ。自分を殺し、姿をくらます。それだけなら、人が来る前に簡単に出来てしまうだろう。


「さようなら……フアナ様。カスティーリャの新しい王」


 そして、フェルナンドの凶刃がフアナに振り下ろされる――その直前。


「そこまでだ」


 フェルナンドの背後に立っていたのは、アリシャールだった。サーベルを向けて、フェルナンドを睨みつけている。フェルナンドは少しだけ顔を後ろに向けて、彼を確認する。そして溜息を漏らして、両手を挙げた。


「体よくおびき出されたというわけですか。いろいろと話していたのは時間稼ぎだったのですね。まったくもって敵いません。降参です」


 次の瞬間――アリシャールが僅かに油断した一瞬をフェルナンドは見逃さなかった。フェルナンドは上半身を捻り、自分の剣先でアリシャールの剣を押しのける。

 驚きながらも、アリシャールはのけぞり、剣を引く。続けざまに繰り出した、フェルナンドの刺突を、上半身をよじってかわした。

 アリシャールは地面と水平に、剣先を走らせる。狙いは剣を持つ手。フェルナンドは間一髪のところで、自分の剣でそれを受け止めた。金属と金属を交わる音が、耳をつんざく。

 彼の剣の腕前はなかなかのものだ。加えて腕の怪我のせいもあって、思ったように戦えない。アリシャールのこめかみに冷や汗が流れた。

 フアナは二人と距離をとった。巻き込まれたり、人質にとられたりしないためだ。


 力が拮抗しあう、二つの剣。アリシャールは剣を引くと同時に、後ろに飛びのいた。

 そして腰を低くして、剣を構える。フェルナンドはあまり見たことがない構えに、少し戸惑う。

 彼は身を低くしたまま、フェルンナンドに斬りかかる。しなやかな足裁き。その姿は森を駆ける狼のようだ。フェルナンドも剣を構え、守りに入る。

 しかし、アリシャールは鮮やかな手つきで、相手の剣を押しのける。懐に入り込むと、左手でフェルナンドの剣を持ったほうの腕を掴んでよじる。そして自分の背中を相手に押し付けるように体を捻り、そのまま地面に押し倒した。

 頭や背中を固い地面に押し付けられ、彼は呻き声を上げる。


「本物の英傑には敵いませんよ」


 フアナのその言葉で、フェルナンドは観念したように剣を捨てる。石畳を剣が転がる音が、路地に虚しく響く。


「フアナ、こいつは……」


 彼はイザベルの夫であり、アラゴンの王でもある。今彼を逃せば、彼を捕縛する機会など二度と戻ってこない――アリシャールはそう思った。彼はフアナを殺そうとしたということは紛れもない事実でもある。

 しかしフアナの考えは違った。


「殺しはしません」

「……だが! こいつは――」

「イザベルが女王になるために、フアナを監禁するよう言ったのはフェルナンドでしょう。その後もイザベルに従うように見せかけて、彼女の心の奥はあなたが支配し続けてきた――ですが殺しません。だから、今すぐイザベルのところに行って下さい。あなたは彼女の夫なのでしょう」


 フアナが殺すなというのに、そうすることはできない。アリシャールは慎重に、フェルナンドを解放した。

 アリシャールは警戒していたが、彼は抵抗しようとしなかった。何も言わず、広場のほうに歩いていく。

 その顔は暗い。自分の計画が失敗したことへの苛立ちでもなければ、情けをかけられたことへ屈辱を感じているのでもない。それは言うなれば寂寥の表情だった。

 その時、物陰から小さな陰が飛び出した。


「わたし達は、借りたものは返すわ!」


 物陰から出てきたのは、エンマだった。アリシャールと一緒に来て、フェルナンドと剣を交えている間は巻き込まれないように隠れていたらしい。

 顔を真っ赤にして叫んだ彼女は、続けた。彼女は怒りながらも、今にも泣きだしそうな顔をしていた。いつから彼女が話を聞いていたかは分からないが、フェルナンドが異端審問所を設置した、もう一つの目的は聞いていたらしい。


「……たとえ、どれだけ時間をかけたとしても!」


 アリシャールはフェルナンドが彼女に何かするのではないか、ひやひやしながら見ていた。しかし、フェルナンドは驚いた顔で、エンマを見ただけだった。


「覚えておくよ」


 そうとだけ言い残して、彼は去っていった。



 フェルナンドが去った後の路地裏。


「本当に行かせてよかったのか。フェルナンドが黒幕だったんだろう」


 ここで殺さなければ、また何か企むのでは――そんな懸念がアリシャールにはあった。


「今後もアラゴンとの同盟は維持する必要があります。それにたとえ理想の王子様でなくとも、イザベルは彼を愛していますから」


 フアナの言葉にアリシャールは首を捻った。


「……フェルナンドはイザベルを利用しようとしていたんじゃないのか? そんな相手を愛せるだろうか」


 温和なアラゴン王の仮面の下の、計算高く悪賢い姿。そして先ほど自分に向けた殺意。その本性が明るみになったとき、彼を愛する人などいるとは思えなかった。

 フアナが妹のことを思うなら、彼を行かせるべきではないのだろうか。それでなくとも、彼とイザベルが内通から、フアナは九年間も閉じ込められていたのだ。それとも、彼女は妹のことなどどうでもいいのだろうか。


「もちろん、わたしなりにイザベルを思ってのことです。愛というのはそういうものなのですよ。ふふ、英雄といえども男と女のことに関していえばまだ子供ですね……それよりエンマをつれてきてくれてありがとうございます」


 からかわれたのが不服だったのか、アリシャールは眉をひそめながら返事をした。


「怪我の手当てをしてからこれば良かった」

「それではわたしはフェルナンドに殺されることになっていたように思うのですが……どういう意味ですか?」


 エンマはフアナのわざとらしい言葉を無視して、話を切り出した。


「……それより、早くわたしをここに呼んだ理由を教えてちょうだい。こんなときに呼んだんだから、何かあるんでしょう」


 そもそもフアナがこんなところまで来たのは、エンマと会うためだった。アリシャールに彼女を連れてきてもらうよう頼んだのだ。


「……そういえば、わたしは、またあなたの信頼を裏切ることになってしまったようです。――わたしは『英傑の血』を持ってなどいません。わたしはあなたに嘘をついていたのです」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるフアナ。しかしエンマの反応はフアナが思っているより、淡白だった。


「今更そんなことでなにか思ったりしないわ。あなたがどんな嘘や隠し事をしていても不思議ではないもの」

「……もともと思ったより信頼されていなかったのですね」


 複雑な表情で肩を落としているフアナに、エンマはさらに淡白に問うた。


「それより教えてちょうだい、なぜわたしを呼んだ用件は何?」

「お願いしたいことがあるのです。これからわたしと一緒に来ませんか。これから国を変えていく――その手助けをしてほしいのです」


 そんなことを言われるとは予想していなかったのだろう。エンマは戸惑いの表情を浮かべた。


「手助けなんて……わたしはまだ十三歳だし、なにか特別なことができるわけでもないわ。……もし、わたしがしたことに感謝したくてそういっているなら、別にそんなことをする必要はない。だって全部、自分の意思で自分が信じるもののためにしただけだもの」

「そんなつもりではありません。それにわたしだって十五歳で幽閉されてから、精神の成長という意味では止まったままです。そういう意味では歳は変わらないでしょう。それに今すぐ何かしてほしいわけではありません。言うなれば、わたしはあなたの素質を買っているんです」


 フアナはそう言って手を差し出す。それをとるべきなのか否か、エンマは困惑した。

 フアナが女王になったところで、すぐに両親がこの国に帰ってくる保証はない。今どこにいるかも分からず、連絡を取るどころか生きているか死んでいるかも分からないのだ。かといっていつまでもアミナのところに留まるわけにはいかない。彼らなら歓迎してくれるだろうが、迷惑をかけることになる。

 そしてフアナは自分を必要としてくれている。そのことはとても嬉しかった。家族と離れてから、生まれも過去の経験もすべて含めてエンマを欲してくれる人などいなかった。困っている人には手を差し伸べるという、アミナの優しさに触れたときとは、違う温かさがそこにあった。

 この国の未来のために尽くすと言った彼女についていくことは、苦労もあるだろうが今までの人生には決してなかったやりがいと喜びがあるだろう。


 エンマは手を差し伸べようとしたが――その手を引っ込めた。


「……ありがとう。そうやって誘ってくれるのは嬉しいわ。でもついて行くのはやめる。わたしは施設に戻るわ」


 フアナが女王になれば、ヘブライ人への世間の目も変わるだろう。しかし、頭のかたい正教徒の聖職者の考えはすぐには変わらない。元いた修道院での生活が楽になるとは考えにくいし、親のいないヘブライ人の子は肩身の狭い思いをしなければいけないのも今までと同じだ。

 そのことを分かった上で、エンマはその選択肢を選んだのだ。


「これからさきも家族と離れ離れになって施設にいるしかないブライ人の子供はすぐにはいなくならないわ。それなのに、自分だけ運よくあなたに連れられてそこを出るなんておかしいもの。いつか自分の力で、一人で生きていけるようになったら――わたし自身が、そしてヘブライ人がこの国でどうやって生きていくべきかの答えを見つけることができたら――そのときは、あなたに会いに行くこともあるかもしれない」


 フアナはその言葉に深く頷いた。残念そうではあったが、彼女の思いをしっかりと受け止めていた。

 アリシャールは先ほど彼女がフェルナンドに言っていたことを思い出していた。

 借りた物は返す。それはつまり借りは返すということではないだろうか。

 アリシャールの心配にエンマは気がつく。


「安心して。フェルナンドを殺して、復讐しようなんて考えてないから。わたし、決めたの。奪われたヘブライ人の誇りをいつか絶対、買い戻してやるって」


 初めてアリシャールに会った彼女は、自分を守るといったアリシャールに、正教徒を皆殺しにしてくれるかと言った。だがあの時の彼女は、もういない。彼女はこの三日で多くのことを知り、大きく成長したのだ。

 フアナは、今度はアリシャールを見た。


「アリシャール。あなたはわたしと一緒にこの国を変えるつもりはないのですか」


 しかしそのフアナの言葉に、彼もまた首を横に振った。


「俺は今までと変わらない。モーロ人のために、自分のできることをするだけだ」

「そうですか。……でもそう言うと思ってました。モーロ人の英雄が正教徒の王の家来になるのはおかしいですものね」

「それよりフアナ。忘れたわけじゃないだろうな。お前が民衆の期待に背くような、そんな王に成り果ててしまったら――そのとき、俺の剣はお前の首を落とす」


 アリシャールの言葉は本気だ。それを知っても、フアナは笑う。


「もちろんです。一生忘れませんよ。……ふふ、二人ともお誘いを断られてしまったのに、そんなに残念ではありませんね。命を脅されてプレッシャーをかけられているのに、恐ろしくもありません。それはきっと同じ理想を持った仲間がいるからです」


 その時、路地に入ってきたのは、アミナだ。


「こんなところにいたのかい!」


 アリシャールとエンマの顔を見て、安堵の息を漏らす。そしてフアナに言った。


「アミナ、あなたにもお世話になりました。お礼を言わせてください」

「そんなのはいいさ。あんたがいい王様にさえなって、モーロ人に楽をさせてくれりゃあね。それより広場で民衆がお待ちかねだよ。早く行ったらどうだい――女王陛下」


 感慨に浸る暇はない。フアナには女王としてやるべきことが山ほどあるのだ。


「ええ。もちろんです。まずは異端審問所の廃止、そして捕えられていた人たちを解放します」


 アリシャールたちに見送られ、フアナは広場へ歩き出す。軽やかな足取りで。この国の将来に思いを馳せながら。


 彼女が向かう先には、新しい女王の誕生を祝い歓声をあげる民衆達。しかし彼女の目は自分が行く場所よりもっと先を見ている。

 狂女王とよばれた新しい女王は、その〈慧眼〉でこの国の未来を見ていた。



最後までお読みいただいた方、ありがとうございます。

四年ほど前に書いた小説で、落選したまま眠ってたんですが、せっかくなので掲載してみました。


いまいち該当するジャンルが分らなかったのですが、一応歴史モチーフなので歴史ジャンルにしてます。

正しくは歴史風ファンタジーだと思ってます。

主人公が剣から火を出す小説なので、時代考証なんてものはありません。

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