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2話 リーリカルナ・ルクスリア・アスモデ

前回までのあらすじ


①「リーリカちゃんコレクション?」

②「ちょっと特殊な事、お願いしちゃおうかしら?」

③「……なんじゃコリャーッ?!」

 目が醒めました、顔洗いました、鏡を見ました。

 あの時のっ?!

 とかそういうのじゃなく、いや、合っているのかな?

 何はともかく、鏡に映った自分の姿はどこからどう見ても、先日の夢に出て来た女性だ。

 締まる所は細く締まり、出る所は出ているという女性も羨むモデル体型の女が、鏡に映っていた。


「これは……アレか?」


 マンガなんかでよくある、誰かと中身が入れ替わってしまう系の現象。

 それが起こってしまったと言う事だろうか。


「……ゴクリッ…」


 鏡に映る自分と見える範囲の自分の身体とで視界を何度も行ったり来たりさせる。

 ゲームに生活の多くを裂いてしまうような男だ、女性との交際経験も無ければその身体に触れるような機会などそれこそ無かった訳で。

 それがいきなり「自分の身体が女性になってしまった」なんて事になれば、17歳の少年がやる事なんてごく限られている。


「…あ、柔らかい…」


 胸に手を触れて、ゆっくりと揉んでみたりする。

 感じた事のない感覚に身体がビクッと跳ねるものの、何も鼻血を出して倒れたりはしない。

 確かにそこに胸があるんだなぁという感覚を理解したらすぐに手を離す。

 ちょっと淡白かもしれないけれど、これでいい。

 何しろ後から罪悪感がドッと押し寄せている真っただ中なのだから。


「…やめよう……なんかグサッと来る…」


 そのままジャブジャブと顔を洗い、スッキリした所でタオルを使って顔を拭く。

 ここまで来て驚いた事がある。


「…(この顔でスッピンってマジかよ…)」


 最初は化粧でもしているのだろうと思っていた肌は元々きめ細やかな肌白さであり、目元や口元からも化粧の類が垂れ流れてくるような事も無い。

 強いて言えば、洗面所の横に置かれた棚にタオルと一緒に化粧水っぽい物が置かれている程度だろうか。


「こんなんじゃ、普通の子じゃもう満足できないよぉ……なんちゃって…」


 目の前の鏡に向かって、恥ずかしい言葉を呟いてみたりする。

 無駄に色っぽい声音と表情まで使って、だ。

 結果、恥ずかしくなって鏡から目を逸らしてしまう。


「……あぁもうやめやめ! さっさとこんな恥ずかしい恰好から着替えないと」


 着ている物について触れていなかった気がするので言及するとしよう。

 まず、身に着けている下着だが黒い。

 何故それが分かるのかって?

 その上に着ているのがスッケスケのネグリジェ一枚じゃ嫌でも透けて見えるというものだ。


「…(着替えは……あれかな?)」


 壁に沿うように置かれた大き目のタンスがあった。

 下半分は引き出しになっていて、上半分はクローゼットになっていると言った構造だ。

 クローゼットの方は何人でも入ってしまいそうな程の大きさがある。

 焦げ茶色の色味が部屋全体の雰囲気に少々ミスマッチな気もするが、他人のセンスに口を出す程野暮な事は無い。


「とりあえず何を着るか…」


「うあぁ…」


 扉を半分ほど開いた所で、大慌てで閉める!

 どこからどう聞いたって人のうめき声ではないか。

 こう、ゾンビ系っぽい何かの。


「…タス…ケェ…」


「…コロ…スケ…」


 ん?

 助けを乞いているのかとも思ったが、なんかおかしい。

 どちらかと言えば自己紹介をしているような。

 もう一度、そーっと扉を開けて中を覗く。


「…シナ…セェ…」


「…イヤ…タァ…」


「……(干からびた男がいっぱい…冷蔵庫みたいなものかな?)」


 知りたい事は知れたし、扉をもう一度そっと閉める。

 もしかすると夢の中で彼女の思いつきが無ければ、自分もあの中で「…ヨコ…ジマァ…」とかって唸る干物になっていたかと思うと肝が冷える。


「こっちの引き出しも嫌な予感が…」


 引き出しを引いてみると、どうやらこっちは普通の衣装棚だったようだ。

 どうにも色っぽい下着ばかりが入っているが、これは彼女の趣味なのだろう。


「とりあえず着るか…っ?!」


「失礼します…」


 ネグリジェを脱いだ所で、扉がノックされる音が聞こえた。

 扉の向こうからは女性の声が聞こえてくる。

 この状況をやり過ごすには…


「ちょっと待って、今着替え中だから…」


「…なんですと…」


 どうやら正解だったようだ。

 今にも開けられそうだった扉がピタリと止まってくれる。

 流石に着替えを覗くのは失礼にあたるのだろう。

 と、そんな事にホッとしたのもつかの間。


「お話は伺っておりましたが、まさか本当に…あぁ、リーリカ様…どうしてそのような事を…」


「うぇぇ?! ちょ、はっ! 入ってくるのぉ?!」


 入ってくるのを止めたかと思えば、まるで許可を得たかのようにスッと当たり前の態度で入ってきた。

 黒くて長い髪をした、自分と同じくらいの女性が立っている。

 頭からは角が、腰からは尻尾と翼が生えていて、あぁ彼女もサキュバスなのかと思わせる格好をしていた。

 服装こそメイドドレス姿だったけども。

 そんな彼女が自分をリーリカと呼び、なんか劇の練習でもしてるように大げさなリアクションで泣き崩れた。

 ……なにこれ?


「入ってきますとも! 我らが主、アスモデ家の当主、リーリカルナ・ルクスリア・アスモデお嬢様。 中身が違うとは言え、その奥底には御方の力を確かに感じておりますから」


「……どゆこと…?」


 だいたいの事は分からなかったが、分かった事もある。

 この身体の主、そしてあの夢に出て来た女性の名はリーリカルナ・ルクスリア・アスモデと言うらしい。

 長いから彼女がリーリカと呼んでいるのだろうか。


「…コホン……仕方ないですね、イチから説明させていただきますね」


「はい、宜しくお願いします…」


 こうして、目の前の彼女による世界の簡単な説明が為されて行った。

 何故かベッドの上でというのが少々気にはなったが、これがこの世界流の流儀というやつなのだろうか。


=====

=====


「--と、このような感じになっています」


「なるほど…だいたい理解した。 ありがとう、リューココリーネさん」


「いいえ。 それと、私の事はコロネとお呼びください」


 どうやら、この世界は色々とファンタジーでメルヘンでフィクションな感じの世界になっているらしい。

 「アストラリア」と呼ばれるこの世界では、多種多様な魔物と人間が共生を果たしている世界であるらしい。

 約7年前に、世界を混沌へ陥れようと企む魔王ソロモンを勇者カルディラがその命と引き換えに討ち果たした事で今は共存の道を歩もうとする魔物達によって平和な道をゆっくりとだが歩いてきているんだそうな。

 そして、ここはそんな魔王ソロモンにかつて付き従っていた幹部たちの一人、アスモデ家でありこの身体の持ち主であったリーリカの両親は幹部その人であったんだとか。

 どれもこれも、こちらの世界へ来る前にやりこんでいたゲームの設定ばかりじゃないか。

 なんか時代が7年くらい進んでるらしいけども。


「私も貴方の、いえ貴女の事は今まで通りリーリカ様とお呼びしますから」


「え、何で…」


「我ら魔物の中には、絶対服従と誓った者以外には平気で仇なす者も相当数居ますから。ですが、アスモデ家はそう言った者達の謂わば抑止力となる御家なのです。」


「……なんか、この身体の持ち主がなんでこんな事したのか分かった気がしてきた…」


 詰まる所、そういう役回りで働くのに嫌気が差して身代わりにという事でこんな手段に出たのだろう。

 自分の嫌な仕事だけ押しつけて自分は引き籠るとか社会人としてはクズではないか。


「…分かりましたよ。 どうせ断っても何が変わるでも帰れるでも無し…」


「そういう事です。 では、私はこれで」


 そう言うとコロネは満足げな顔をして部屋を出ていく。

 この頃にもなると、だんだんこの身体にも慣れてきてしまっていた。

 背中の翼は意識を向ければ動かせるし折りたたんでしまえば身体にしっかりと収まるようにも出来る。

 尻尾はまだ色々と検証が必要だろうが、どこぞのマンガよろしく尻尾を掴むと背中がゾワッとして身体が弛緩してしまう。

 これ、弱点と言えるんじゃないだろうか。

 頭の角は最早気になる事は無くなっていたし、リーリカの物だろう声もすっかり自分の物となっていた。


「…着替えも終わったし、ちょっと動くかな…」


 コロネからの説明を受けている間に着替えを終えていたので、少し外へ出てみようと扉に手を掛ける。

 するとどういう訳か、扉の向こうから聞き慣れない少女の声が聞こえてきた。

 きっと無意識の内に聞き耳を立てていたのだろう。


「……」


「聞こえてるから。 荒い息遣いとか特に」


「っ?! なら隠れる必要もないわねっ!」


 扉を開けると、廊下に立っていたのは一人の少女だった。

 年齢的には中学生くらいだろうか?

 短めの紫色をした髪と翠の瞳が特徴的なその少女は、パッと見だと人間のようだ。

 でも、ここまで真っ当な人間に出会ってないのだしこの少女も人間ではないのだろう。


「やい暴漢! お姉様に乱暴を働いてその身体を乗っ取ったのね! 返しなさい!」


「寧ろ帰して欲しいんだけど?」


 上手い事言ったつもりはない。

 ギャグで言っているつもりもない。

 帰してくれるのなら帰して欲しいものだ。

 目の前の少女にだって縋りたくなる。


「それに…」


「な、なによっ…きゃっ!」


 ぷんすかと膨れて微動だにしない少女を軽く抱き上げる。

 こんな細腕でも少女の一人くらいなら余裕で持ち上げられるらしい。

 それともこの少女がとてつもなく軽いのだろうか。


「先に名前を教えて貰ってもいいかな? なんて呼べばいいの?」


「っ?! う…ウィレクトリアス・スレイドリッチ……ウィッチで良いわ…」


 うん?どうしてこの子は急に視線を逸らすのだろうか?

 それに被っている魔女っぽい帽子を深く被って、まるで恥ずかしい顔を見せたくないかのように。


「お、降ろしてよぉー!」


「あ、ごめん」


 軽いからつい、いつまでも持ち続けられてしまう。

 モノみたいな扱いが嫌だったのか、ジタバタと暴れるウィッチを降ろしてやる。


「コホン……ごめんなさいね、悪者扱いをしてしまって」


「いや、気にしてないよ」


 初対面で悪人扱いされて正直な所ヘコんでいたが、素直に謝ってくれる子で良かった。

 最近の子供ってなかなか謝ろうとしない子が多くて多くて。


「それよりも、見た感じ朝食はまだのようだけれど…?」


「そういえばまだ食べてないかな…うん、食べてない」


 朝起きてから今まで、確かに何も食べていなかった。

 空腹感こそ無いものの、朝食を欠かすと色々と生活リズムが狂うというのは実体験から知っている。

 それに、この世界の食事についてもちょっと興味が湧いてきた所だ。


「なら、皆と一緒に食べましょう!そうしましょう!」


 子供がキャッキャと喜ぶように表情を輝かせて喜ぶ。

 身体の持ち主の方のリーリカは、もしかして皆で食事をするのを嫌っていたのだろうか。


「そろそろスティーブが朝食を作り終える頃ですね。 ささっと行って驚かせちゃいましょう!」


「スティーブ?」


 ちょっと前に流行した自由度の高いゲームの主人公が確かそんな名前だったっけ。


「この城の料理長を任されている方で、ここに居る中だと多分一番長い人です」


 多分、というのが少し気になるが手をクイクイと引っ張り続けているウィッチの為にも朝食に向かった方が良いだろう。

 移動している間に聞いている話だけでも、スティーブと言う人物がどんな奴なのかどんどん気になっていく。

この城?屋敷? の一番っぽい古株とやらはどんな人物なのだろうか?


つづく

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