10話 DREAM or REAL
前回までのあらすじ
①「着きましたって…え、ホントにココ?」
②「お嬢様のお気の向くまま…」
③「今はゆっくりおやすみ… さってと」
リーリカにとって、夢の中へ入る事と言うのは簡単に出来てしまう事である。
それこそ食事をスプーンで掬い取って口へ運ぶかの如く。
今まで何度も繰り返してきた、日常の何気ない動作の一つとなんら変わりがない。
「…よっと」
一瞬だけ視界が暗転して、次の瞬間には全く見た事の無い景色の中へと放り込まれる。
リーリカにとっては見た事がない景色だったとしても、この夢を見ているルナにとっては見慣れた光景なのだろう。
現にルナはリーリカの事など見えていないという感じで鎖に繋がれて震えていた。
「ここは…」
周りを見渡してみると、そこは古い牢屋のようだった。
壁へ乱雑に取り付けられた鎖はそのままルナの腕の枷へと伸びていた。
「パパ…ママ…」
身体が震えているのは恐怖か寒さか、それとも寂しさからか。
何も知らないリーリカにとっては、気軽に踏み込んではいけない世界なのだろう。
「…っ!?」
何が聞こえたのか、ルナは耳をピンと立てて鉄格子の先を見る。
まるで動物が天敵の存在を察知して逃げ出す準備を整えるかのように。
そして気付いてから数秒後には、鉄格子の向こうにある扉が強く開け放たれた。
「おい!ルナはどこだ!」
「カディス様?! ルナなら3番の部屋に繋いでおります」
「うむ。 では暫く散歩にでも出ておれ」
どこかで聞いた男の声が、地下室のような廊下を響き渡る。
良く通る声をしているというよりは、単に声がデカいだけでなんと耳障りな事か。
カディスと呼ばれたその男は、鍵を受け取るとルナの居る牢屋へと向かう。
「はっ では少々休憩へ出てまいります。 今回はどれくらいで戻ってくればいいでしょうか」
「二時間は戻って来なくて良い」
「かしこまりました それでは」
つまりは二時間は助けを呼んでも誰も来ない状況が続くという事なのだろう。
休憩に飛び出して行ったのは看守だったのだろうか。
「さて… ルナぁ…何故私がここに来たか分かるかね?」
鉄格子の前に立った男。
それは昼にエルレインの店へ立ち寄った時に奴隷たちを連れて入って行ったあの商人だった。
「今回もよくやってくれたなー?」
牢の鍵を開けて入ってきたカディスは怯えて部屋の隅に蹲るルナを、両手を縛っている鎖を手繰って引っ張り起こす。
これまで何度もそんな事を続けてきたのだろう。
ルナの表情はこの時が来てしまったかとばかりの恐怖に歪んでいた。
「それもこれも …えいや」
「ひぅっ…」
恐怖に震えるルナの目を無理矢理に開かせ、その輝く瞳にぐにゃりと歪んだ笑みを零す。
「この月夜の魔眼のおかげだなぁ? お前の両親には感謝してもしきれんなぁ」
「パパ…ママ…」
「んんー? なんだ、親の顔が恋しいのか? お前を売った親がぁ?!」
「っ?! ち、ちがっ かはっ…」
一度、もう一度と確かめるように、カディスはルナの腹を殴りつける。
痛みと苦しさに悶え蹲るルナを、これでもかと執拗に蹴っては悦に浸っていた。
「はっ…はっ… はぁぁ… いっつもいっつも! お前っ! よくやってくれるよなっ!」
「ぐっ… うっ… っ! っ…」
顔や腕、足なんかの見えやすい所は避けるようにどんどん痛めつけられていくルナ。
だんだん見ていられなくなってくるが、リーリカがここへ来た目的の為にも逃げ出す訳にはいかない。
「奴隷市にお前を高値で売りつけてさぁ?! 物好きなヤツに買わせて? 貢がせた所で? 金と一緒にここへ戻ってくるだけのかーんたんな仕事ぉ!?」
「っ… っく… うぅ…」
「何回も繰り返して? 儲けさせてくれるもんなぁ」
案外すぐに喋ってくれたようでリーリカとしても気が楽で済んで良かったと思いたい。
ズタボロになってしまった所で後は。
「次は…? あぁ、そうそう。 エルレイン商会って所だったか」
(っ?!)
どうやらこの記憶、この街へやってくる直前の記憶だったらしい。
「あそこは人間も魔物も貴族だらけだからなぁ… めいっぱいふんだくれるだろぉ?」
「っ……」
「おい、返事はd」
これ以上、ルナが傷つけられるのを見ていても得る物はない。
リーリカが指をパチンと鳴らすと、空間に亀裂が浮かんで粉々に砕けていく。
ルナだけを残して、夢は粉々に砕け散ったのだ。
「聞きたい事は聞けたから、もうやめるね …それと、これは私からのご褒美だよ。 よく頑張ったね…」
「…? えっ…」
砕け散っていく先に見えたのは、在りし日の両親の夢。
温かい日差しの中に寝転がってゆったりとした時間を過ごす、とても平穏な日常だった。
「パパ…?」
樹に背を預けルナを呼ぶ父と、彼の隣に寄りそう母の姿がそこにはあった。
小さい頃、いつものように草原へ遊びに行った時の記憶がそこにはあったのだ。
「ママ…」
自分が幼いあの頃の姿だなんて気にも留めず、二人へ向かう足は決して止まる事は無い。
だってそれを止めるような要素、あったら最初からリーリカが排除している。
荒んでしまった心に残された、純粋な頃の記憶を大事にしてもらう為にも。
「会いたかった… 会いたかったぁ!」
父親の膝に飛び込んで二人に頭を撫でられて極度の安心状態になる。
心が安らぎ、傷も塞がり、あとは時間で解決すべき問題だけが、ルナの居るこの空間とは別で存在しているたけになった。
それに決着を付けるのは勿論ルナではあるが、今くらいはこの安らぎを享受していたって誰も彼女を咎める事なんて出来はしない。
何より、空間を支配しているリーリカがそれを許さないだろう。
「……ママ…ん?」
「…あ、起こしちゃった?」
ルナが眼を醒ますと、そこは見たことも無いようなふかふかのベッドの中だった。
今までのような奴隷生活では想像する事も出来ないような、水に浮かぶような浮遊感が身体全体の力を吸い取ってしまっているかのような。
脱力しているというより、思考そのものが蕩けてしまっているような感覚の中にルナは居た。
「あ…え…?」
「幸せすぎて脱力しちゃったかな…」
「お嬢様と同衾…お嬢様の添い寝…うぎぎぎ」
本音がだだ漏れになっている従者の事はさておき、今の状況の説明と行こう。
結論から述べてしまうと、ルナの抱えていた問題は全て解決した。
今はリーリカのベッドに二人一緒になって入っている。
「もう大丈夫だからね… コロネも入る?」
「ふかふかで温かいです あぁ、これがお嬢様の温度…」
「もう入ってきてたかー、流石コロネ」
布団に半ば自動的に入ってきたものは仕方ない。
別に極端にイヤという訳でも無いのだし、追い出したりはしないでおく。
幸せそうにしているコロネの顔は見ていて居心地がいい物だったし誰も文句はないだろうと思いたい。
両手に幸せそうな少女たちを迎え入れつつ、手短に事の顛末を説明するとしよう。
ルナの寝起きの頭で話が入ってくるかは分からないが。
「…エルレインさん、いいの?」
「良いも悪いもあるかね。 妹のお師匠様の頼みだ、断る訳にも行かないだろう?」
眠ったままのルナをコロネに預け、エルレイン商会へやってきたリーリカ。
地下で奴隷市の準備を進めていたエルレインに事情を説明した結果、あっさりと受け入れてくれた。
「ただし、私の方で根回し出来るのはその子だけだ」
「…うん」
「安心しなさい? 他の子たちも、そんな阿呆貴族なんかに売りはしないわよ」
信頼の置ける貴族連中がいくらかいる、と続けてその人たちに行くよう仕向けるとも言ってくれた。
これならば夢の中のルナのように酷い扱いを受ける心配もないだろう。
「けれど、その子たちのオーナーはどうするの?」
「それについては考えがあります」
真実についても掴んでいる訳なのだから、解決策も準備済みだ。
ルナの夢の中であの貴族が口走っていた事。
それが本当だとしたらとても許されるような行為ではない。
まぁ、リーリカが一番許せないと思っているのはルナのような子供を縛り付け一方的に嬲るその根性な訳だが。
「二度とそんな事をしようと思わせないようにしようかと」
「穏便…なのかな?」
「まぁ、どちらかと言えば…?」
別に殺すだとかそういう物騒な事をしようとしている訳ではないのだから、穏便と言えば穏便なのだろうか。
まぁ、だからと言って優しく手を差し伸べるかと言えばそう言う訳でもないのだが。
「具体的にはどうするの?」
「それは…」
「ふん、そう言う事かっ!!」
リーリカが何をするか説明しようとしていた所に、聞いた事がある声で怒鳴りこんでくる男が一人。
ルナの夢で見た、彼女たちの主人だった。
名前はあの夢で呼ばれていた名が正しければカディスと言っただろうか。
「あぁっ、困りますお客様困ります」
「知った事か! 外には衛兵を待たせてある。 これで貴様等を表へ出せばこの店もおしまいだ!」
どうやら既にリーリカ達は後手に回っているらしかった。
けれど衛兵くらいで何とかなると思っているのだろうか。
まぁ、見た目は魔道具屋とただの客だしそう見られていてもしょうがないか。
それで、ピンチなんでしたっけ?
そう、関係ないね。
「そうですか」
「んなっ?! 外には衛兵が大量に居るんだぞ!? 貴様等を捕まえる為に!」
「そうですか」
無駄に問答するのも面倒だし、ルナを悪事に仕向けていた当人も居たと来た。
だったらもう何をどうするかは決まっているし決めている。
「やっていた事を知ってしまったなら、もうある事無い事ふっかけて大罪人に仕立て上げて」
「そうですか」
では…とリーリカは右手を上げる。
何も降参しようとしている訳じゃない。
リーリカにこうさせた時点で目の前で狼狽しているこの男の負けは確定的となった。
全ての準備は整ったので、リーリカは軽く指をパチンと鳴らす。
「な、何を…っ?! んんっ~?!」
「…? 何をしたの?」
「いえ、ただちょっと正直者になってもらっただけですよ」
エルレインなら知っている。
だって目の前で行使して見せたんだから。
ただちょっと魔法の発動の仕方が違うだけで意外と気づかれない物らしい。
コロネに使った時は肌に触れて話しかける事で発動していたが、それは「ちゃんとした手順を踏んだ発動」の場合だ。
今回は、パチンと鳴らした指に魔力を乗せてあの男にぶつけてみた。
こちらは「手順をいくらか無視した発動」になるだろうか。
「あと、ついでに喧しかったので「私を見ながら喋る事」を出来なくしました」
「なんとまぁ」
こっちは魔法をつかったおまけに混ぜたフレーバー。
料理に隠し味を混ぜ込むように自然に、けれどちゃんと効果を持つようはっきりとした魔法を混ぜ込む。
こうする事で出来上がる魔法とはどんなものなのか?
それはあの男を見ていれば分かった。
「……」
「あれ? 出て行った…?」
無言のまま、カディスは店を出て行った。
その先に居るのは自分の呼んだ衛兵隊だというのに。
少しすると聞こえてきたのは…
「私は…私は年端もいかない少女に悪事を働かせて同士たる貴族相手に度重なる蛮行に手を染めてしまった!! そこの衛兵! どうか私を捕まえてほしい!」
そんな、泣き言を言うような声音で衛兵に縋るカディスの姿があった。
当初の指示とまったく違うからか、衛兵たちも戸惑っているようだ。
「あれは… リーリカルナさん…?」
「正直になる魔法と私を見ると黙る魔法、それと性格も矯正してます もうルナみたいな子が出るのは嫌ですし」
「いやいやそうじゃなくって!」
「…? どうかしました?」
「正直になる魔法は昨日見たからともかくとして、黙る魔法や性格矯正の魔法なんて聞いた事ないわよ」
そんな突拍子もない魔法を、エルレインは見たことも聞いた事も無いと騒ぎ立てる。
当然と言えば当然か。
ゲームのエインヘリヤルで沈黙属性…要は魔法を使えなくする魔法を使ってくる敵キャラなんて居なかったし、使えたのは錬金術師のクロウだけだった。
沈黙魔法の概念が無かったのにしたって、誰も考え付かなかったというよりは、もっと便利な魔法があったから使わなかったのだろう。
それをあっさりと使えてしまったのは、それを行使しているのが「エインヘリヤル」という世界を知った人物だからなのかもしれない。
魔法に関してなら魔王と言って差し支えの無い本体ならではなのかもしれないが。
もしくはその双方があったからこそなのかも。
「うーん… どう言い表せばいいのやら… 出来ちゃったものはしょうがないと言いますか… あはは」
「凄いわね。 流石妹が師事するだけの事はあるって事かしら」
ウィッチが関係しているかどうかはさておき、魔法を教える立場であると言う事には変わりない。
あまり魔法を教えたりなんてしていなかったが、たまには何か教えるのもいいかもしれない。
「すんすん… っあぁぁぁぁぁぁ~…」
説明している途中だというのに、突然の嬌声にリーリカの説明が止まる。
振り返ってみれば、布団にまたもう一人侵入者があったらしい。
コロネの向こう側でウィッチが布団の匂いを嗅いで、女の子がしちゃいけないような顔をしながらトリップしていた。
この布団にそんな麻薬みたいな効果、あるはずもないのにである。
「……コロネ、ウィッチ大丈夫なの?」
「すぅはぁすぅ…っ! は、はいっ! あれくらいいつもの事かと」
「えぇ…」
逆にいつもこんな事してるのかと。
今度、着なくなった服をお下がりとしてあげてみようか。
一体どんな顔するのか、ちょっと興味が湧く。
まぁ、あんまりな表情をするようなら取りやめにしておくのもいいかもしれないが。
「まぁいいや、放っておこうっと」
「放置ですか?! そういうプレイですか?!」
あんまりにもだらけた顔をしているものだから、真面目にと釘をさす。
物理的に刺して欲しがっているんじゃないかという程のだらしなさだった。
「コロネ、そろそろ起きて?」
「はい」
呼んでやるとすぐに素直になって返事をしているだけ、まだマシだと思うべきなのだろうか。
呼んでも応じなかったら、その時は心を矯正する事も考えなければいけないかもしれない。
だって扱いが難しいのだから。
「ルナの処遇を決めよう ウィッチにはまだ何も言ってなかったから、改めて説明お願いしてもいい?」
「喜んで ウィッチ、お嬢様の前ですよ?」
「すんすん… ハッ!? お、お姉様これはその…」
どうやら正気に戻ってくれたらしい。
慌てふためくウィッチの頭を撫でて安心させた所で本題へと入る。
「コホン… では改めて説明させてもらいます」
「……」
コロネによって、まだ眠っているルナをどうするかが語られた。
しっかりとした言葉が並べられていくが結局の所どうするかと言えば次の一言に尽きる。
「つまりメイドさん」
「はい、そういう事です」
配置的に言うと、コロネやスラの部下としての位置に落ち着くらしい。
客人として迎えるには、ルナの人生はあまりに大きく歪められてしまった。
なのでウィッチ程の自由を与えるのはハッキリ言って酷である。
だからと言って殺すのかと言えば、せっかく面倒な手順を踏んでまで持って帰ってきたのだから、そんな事をするはずもない。
ではどうするか。
トローン城で働いて貰おう。
というのがだいたいの説明内容だ。
「聞けば彼女の持つ魔眼は魅了の一種だとか それならばサキュバスの得意分野ですので」
「それもそうね」
「お嬢様ともなればそのサキュバスの頂点です これ以上の適材適所はないと判断しました」
言われてみれば、と言いそうになった口を言ってしまう前に塞ぐ。
そんな事ではリーリカに付き従ってくれている皆に示しがつかないだろう。
「ユーリカ様へは既にこの事を伝書で知らせてありますのでご心配には及びません」
「ユーリカ…?」
「お嬢様の従妹でありこの城の庭師を務めております 現在はティガー様の所へ稽古を受けに行って不在でしたので伝書を送りました」
ティガーと言う名に違和感を覚えつつも、話を続けさせる。
そのうちこの話題にはまた触れる事になるだろう。
「…ですので、ルナには城の仕事を順繰りに覚えて貰おうと思っています」
「忙しそうだけど大丈夫?」
「問題ありません 彼女のメイン業務は周辺警戒を予定しておりますので」
周辺警戒、と言う事は城の周囲を走り回らせるのだろうか。
けれど城の周囲にはリーリカが設置した魔法の地雷が所狭しと並んでいる。
そんな中を走らせるのはあまりに酷と言う物だ。
けれど、どうやら走らせる訳ではないらしい。
「ワーラビット族は非常に耳がいい事で有名です なので、城内と城外に広がる森の音を覚えて貰い早期警戒に努めて貰おうかと」
「耳が良い… なるほど、だからさっきから起きてるのに動かないんだ」
「っ!?」
ぶっちゃけ気付いてはいた。
けれど身体を動かせない事情でもあるのかと思っていたが、どうやら話を盗み聞きしていただけらしい。
「…いつから気付いてました…?」
「最初から」
「別に盗み聞く必要なんてないでしょうに… そう仕込まれたのかしら?」
心配、というよりは憐憫の情を向けるウィッチの気持ちも分からないでも無い。
今までが奴隷として扱われてきた故に警戒心だとか恐怖心だとかそういったものが優先されてしまっているのだろう。
「ワーラビット族は耳が良い分警戒心も強いと言われています」
「種族的な問題かぁ… でもまあ、私は気にしてないよ」
「お嬢様?」
別に聞かれてマズい内容を話している訳でも無いのだし、むしろルナ本人の事についてでもあるのだから起きていたのなら最初からコロネの説明を正面から聞いてほしかったものだ。
「けどまぁ、これでルナにも説明する手間は省けたし、いいでしょ?」
「それはまあそうですが」
「それじゃあコロネ、ルナの事お願いね?」
優しく丁寧に、と付け加えてコロネをルナの教育に専念させる。
了解したコロネはルナを抱えて部屋を後にした。
スラには悪いかもしれないが、今日はコロネのやる予定だった雑用も一緒にやってもらうとしよう。
コロネは明日には使い物になるよう仕上げて見せますなんて言ってたけれど、そんなに短い期間で本当に大丈夫なのだろうか。
「お姉様…?」
「ウィッチ? どうかした?」
「……いえ、なんでもないです…」
何か言いたそうにしていたウィッチを見て、だいたいの事は察する。
人数が増えてウィッチとリーリカの時間が無くなってしまうのではないかと心配しているのだろう。
そんな事は無いと言ってあげたい所だったが、きっとそれだけでは逆効果。
だったら、自然にそうだよと伝えてあげればいい。
「そうだ、ウィッチ お姉さんに会ってきたよ?」
「お姉さん…? エルレイン姉様の事ですか?」
「うん 私の中身が入れ替わってるって一目で見抜かれちゃった」
「流石はエルレイン姉様、と言ったところでしょうか…」
こうやって話題を広げていく中に自然と目的の言葉を添えておく。
そうするだけでウィッチの心もいくらか安心してくれたことだろう。
というか安心してくれなきゃ色々と面倒くさい。
「…お姉様、紅茶欲しくありません?」
「そういえば… なんだか飲みたいかも? スティーブにお願いしに行こうか」
「はい」
こうして二人はリーリカの部屋を出て紅茶を求めキッチンで料理の下準備をしているであろうスティーブの元へと向かう。
いつまでもこんな平和が続けばいいのに、なんて心の中で願いながら。
どうして今そんな事を願うのかって?
そんなの決まってるじゃないですか。
願いたくなるような危機を心のどこかで感じていたからですよ。
続く