挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ようこそ、飛娘コレクターの司令官……代理! 作者:時井 人紀

第二章『基地近辺空域攻略作戦での苦境』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/41

決意からの苦境

 あれから一週間たった。

「……やっぱ、無理かも」

「おい!?」

 窓の向こうを遠い目で眺める山雲雀(ヤマヒバリ)に俺は突っ込みを入れる。

 ただまあ、言いたくなる気持ちもよく分かるんだけどね。

 司令室にある打ち合わせ用の長テーブルに座る俺と山雲雀の表情は暗い。

 理由は簡単……。



 勝てない。とにかく、勝てないのだ。



 基地が襲撃されて一週間、出撃は大小合わせて五十回前後――その中で何とか勝てたのはたったの三回……。

 序盤の山場といわれる二空域四面どころか、ふらふらしながらもようやくたどり着いた一空域四面に当たる、『基地近辺空域に居座る、敵大鳥(おおとり)級及び随伴(ずいはん)勢力を打倒せよ』ですら何度もボコボコにされている。

 大鳥級とはいえ、いわゆる選良(せんりょう)等級持ちではない無印なのだから、一改造した中鳥(ちゅうとり)型の白梟(シロフクロウ)がいれば十分なはずなのに……。

 中損傷する飛娘が現れては撤退する。

 この繰り返しなのだ。

 俺は、出撃メンバーと出現した敵の一覧を眺める。

「確かに、大損傷後のカウンター襲撃を警戒して、全員主力での出撃は出来ていないけど……。
 そこまで苦戦する相手では無いはずなんだが。
 むしろ、こちらのレベルを考えたら、楽勝のはずなんだけど」

 現在、我が基地の飛娘(とびむす)は九人になっている。

 小鳥(ことり)級七人、中鳥級二人だ。

 追加したのは小鳥級は(ツバメ)型三番機艦(きかん)琉球燕(りゅうきゅうつばめ)と四番機艦、西岩燕(にしいわつばめ)で、中鳥級は真鴨(マガモ)型一番機艦、真鴨だ。

 レベル上げも早速したので、ゲームの時であれば、十二分に倒すことは出来たと思うけど……。

 そうはいかないのが、現実(?)なのだ。

 実は初戦で敗北した時、ひょっとしたらタイムリープものの話で良くある、どんなに頑張っても結末が同じになってしまうって事になっているのかと勘ぐった。

 だから、あれだけレベルの高い飛娘が、本来であれば低レベルでも余裕でクリアーできる任務に失敗したのだと考えたのだ。

 初戦の敗北――そう、金満基地(漫画)でも初戦は敗北しているのだ。

 金満司令官は初期機艦の山雲雀とその後、建造した五名の飛娘達が有名機艦だからと慢心し、ろくに演習をしない状態で出撃させた。

 だが、結果は白梟が大損傷し、敵を撃破できずに終わる。

 その敗北に衝撃を受けた金満司令官は、飛娘の戦い方を改めて研究し、そして、山雲雀達を鍛え上げて、ようやく勝利を得た。

 漫画ではそういう流れになっていた。

 だから、姫雨燕(ヒメアマツバメ)にブーブー言われても、演習などで鍛えて、装備も万全以上にそろえてから出撃したのだ。

 だが、余りにも理不尽な母鳥小型級(存在)によって敗北した。

 これは、結果が決まっていたからなのではないか――そう考えたのだ。

 しかしだ……。

 よくよく考えたら、同じ結果ではない。

 同じを超えた酷い結果になっている。

 大損傷は白梟だけではなく、姫雨燕、川蝉の二人もなっている。

 さらに、基地への攻撃だ。これも、漫画には描写されていない。

 そして、そもそもだ。

 結果が同じになるのであれば、本来、初戦以外は勝ち進んだはずの現在の空域でここまで苦戦するのは変である。

 早合点をするのは良くないと思うが、俺はそういう設定は無いものとして、進めていこうと思った。

 だとしたら、なぜ勝てないのか、だ。

 それが謎なのだ。



 俺には、たっくん司令官として戦ってきた記憶がある。



 だから、それぞれの空域でどこにボスがいるかとか、そこへ到達するためのルートなども分かっている。

 また、進むルートも運によって勝手に逸れてしまう事もある飛コレではあったが、ここでこの敵が現れたら逸れる、逸れないのパターンが存在する。

 そういう検証も何度も繰り返した”たっくん司令官”の知識を使いながらなので、せめて二空域四面までは、そこまで苦労することなく進むだろうと高をくくっていたのだが……。

 確かに、知識通りに敵はいるし、パターン通り進むことが出来る。

 だが、それだけなのである。

 結局、敵ボスにやられていたら元も子もない。

「確かに致命的な大損傷を回避するため、中損傷になったら即撤退というゲームにはない縛りはあるけど……。
 それにしては勝てな過ぎじゃないか?
 実際戦ってみてどうなんだ?
 圧倒されているのか?」

「圧倒はされてないわよ。
 されていないからこそ、頭を抱えているのよ。
 むしろ、途中まではこちらが優勢なぐらいね。
 でも、徐々に反撃され始めると、必ず中損傷する子が出てくる。
 で、その子を庇うようにすると、ほかの子も被弾し始めて……。
 その結果が、これよ」

 山雲雀は机の上に置かれた資料を指で叩いた。

 そこには、丸九丸五、第一機艦隊撤退と書かれていた。

「ボスマスだからといって、中損傷、大損傷した子を放置なんて出来ないしな。
 そう考えると、やはりゲームとは違うな……」

 飛コレのゲームでも飛娘が墜落、死亡することはある。

 ただし、一回の戦闘では墜落することはない。

 仮に残りHPが1になっても、それ以降、どれだけ攻撃されてもすべてミスになるからだ。

 あくまでも、その戦闘が終了した後、大損傷の飛娘がいるにも関わらず次のマスに移動して、そして、その飛娘が攻撃されてHPが無くなったときに落ちるのだ。

 だから、大損傷者がいない状態でボスマスまで行けば、飛娘が墜落する可能性はゼロになる訳だ。

 ただ、それはゲームの話で現実では違う。

 現実――というより、金満基地物語(漫画)では、と言った方が良いのかもしれない。

 金満基地物語で幾度も言及されているのが、撤退の難しさである。

 ゲームではそれこそ、全員が大損傷状態でも撤退ボタン一つで無事に帰ってこられる。

 だが、金満基地物語(漫画)ではそうはいかない。

 大損傷した飛娘は機羽のセーフティ機能が働き、仮に意識を失っても一定時間その場に浮いていることが出来る。

 ただし、それは五、六分と短く、過ぎると徐々に落ちていくので、助けたい場合は他の飛娘が支えてあげなくてはならない。

 つまり、動ける飛娘を超えて大損傷をした場合は、超えた分の飛娘は助けることが出来ないのだ。

 もちろん敵はお構いなしに攻撃してくるので、大損傷をした飛娘を庇いながら、他の飛娘は戦わなくてはならなくなる。

 だからこそ、動けなくなる傷になる前――中損傷の時点で撤退するように指示を出したのだ。

 そう考えると、大損傷が三名も出た初戦で、墜落者が出なかったのは奇跡だな。

 いや、育てられていない”ただの”飛娘とか何とか言ってたけど、やっぱり山雲雀が優秀ってことか……。



 ……中損傷とはいえ、彼女たちが傷ついていくのに慣れてしまってる自分が嫌になる。

 しかし、それを回避するにはどうしたら良いのか、考えてはいるが妙案が出ない。

 ゲーム自体、彼女たちは傷を負いながら進まなくてはならないものだしな。

 それを変わってやる事なんて司令官には出来ないし、それを考えること自体、戦っている彼女たちに失礼なのかもしれない……。



「無駄に資材はあるんだから、もう少し飛娘を増やしたらどう?
 そろそろ大鳥級や、さらに上手く行けば母鳥小型級も出るかもしれないし」

 飛娘の機羽(きはね)は作成できる。

 実際、山雲雀以外の初戦出撃メンバーは作成した。

 山雲雀の言うとおり、金満基地の利点を生かし、飛娘をガンガン作成するのも手ではある、が。

「……この時点で数を揃えないと駄目だと、この先は続かないだろう」

 それは何度も考えたことだ。

 ただ、低レベルの子をそろえると、その分、墜落する可能性が高くなるのでいつも却下している。

「それに、極力漫画の流れに沿う、って言ったのは山雲雀じゃないか?」

 俺が引き続き司令官をする上で、山雲雀は以下のことを提案してきた。

 一つ目は、極力、漫画と同じように進むこと。

 もう一つは、戦いの詳細を山雲雀を含む、飛娘に教えないことだ。

 一つ目は、漫画の内容から逸脱しすぎて、全く別の話になってしまうと、未来を知っているという優位性が失われるからだとか。

 ただし、飛娘の死亡や欠損は回避する。

 二つ目は、戦いの詳細を知ることで変な先入観を持ってしまうことを回避するためだとか。

 こうなるはずだという勝手な思い込みが外れた時の動揺は、初戦で十分堪能したので非常に納得行く。

 ただ、先ほどのように飛娘の死亡とかに関わることは、山雲雀にのみ相談するようにとのこと。

 飛娘の作成に関しては、初戦メンバー建造後、しばらくは敵、祟り神から奪い返した機羽(きはね)のみ増やしていったと漫画にはかかれていたので、一つ目に該当する気がするんだけどなぁ。

 そんなことを考える俺に、山雲雀は苦笑気味に答えた。

「といっても、そもそも漫画の流れで言えば、こんなところでこんなに苦戦する訳じゃないんでしょ?」

「それを言われると……なにも言えないけど」

「負けが重なると負の副産物が積まれていくことを、きちんと把握している?」

「負の副産物?」

「あなたのそのノートパソコンでTチャンを開いて、飛娘司令官のスレッドを見てみなさいよ」

「Tチャン?
 ……ああ、そういえばあったなぁ」

 Tチャンとは元の世界で言えば、2chの事である。

 金満司令官に嫉妬した人たちが悪口を書き込むって漫画の描写で、時々登場した。

 ……改めて考えると、軍内部のスレッドなんて本来許されない気もするんだが、どうなんだ?

「ん~どれどれ?」

 マウスでカチカチ開いていくと、確かに『飛娘司令官集合』とかいうスレッドがあった。

 しかも『その85』、良いのかこれ?

 最新のスレッドを見て、山雲雀の言わんとすることが分かった。



『金満司令官の所、また負けたらしいw』

『やばくない?
 あそこまだ、三勝だよな』

『結局、(かね)持ってても指揮官が無能だと勝てないって証明してくれたわけかぁ』

『俺、ライバルになってくれるんじゃないかって期待してたんだけど、残念だわ』

『あいつさぁ~イケメンとか自称してるけど、本当は陰キャラのブサメンだからw』

『弱ぁ~うちなんて、次勝てば20勝よ。
 そろそろ、上級者用とへっぽこのスレッド、分けて欲しいわw』

『たった20勝で上級者とか、脳天気すぎて逆にうらやましいわw
 でもまあ、金満がクソなのは確かだけどぉ』



「……これがどうしたのですか、山雲雀さん?
 こういうクソスレの煽りに対する耐性は、わたくし、持ち合わせているのですよ?」

「いいから、投げ捨てようとしているノートパソコン、テーブルに置きなさい!
 そして、深呼吸!
 深呼吸ぅぅぅ!」

 息を吸ってぇ~吐いてぇ~。

 吸ってぇ~吐いてぇ~。

「……別に、よその人間の評価なんてどうだっていいじゃないか。
 うちらはやれることをやるだけで……」

 本物の金満司令官は様々な人脈を持っていたらしいが、残念ながら俺には”そんな”記憶がない。

 だから、人脈を活用できない反面、評価を気にする必要もないのだ。

 だが、山雲雀は首を横に振った。

 そして、何故か関係ない話をし始めた。

「あなた、わたし達全員の部屋に色々準備してくれたじゃない。
 机やベッドや洋服ダンス、化粧台まで……。
 ここまで備えてくれる基地は他にはない。
 とても感謝しているわ」

「え、へ?
 なんだ突然?」

 まあ、用意したのは俺だけど、お金は金満司令のものだから、お礼を言われると戸惑ってしまう。

 普通に女の子が必要そうなものを揃えただけだし、そもそも、漫画でもそういう描写があったからって理由だし。

 困惑する俺に、山雲雀はため息をついた。

「だけど、あなた……。
 パソコンまで準備したでしょう?
 しかも、ネット環境まで整えて」

「え?
 お、うん」

 これも、漫画でそういう描写があったからだけど……。

 それは、燕型の子達がネット通販で服を買うって話だ。

 今回、燕型の子達がやってきたから、そういえばと思いだし、揃えたんだ。

「このスレッド、皆、見てるわよ」

「マジで!?」

 飛娘が2ch――じゃなく、Tチャンを見るなんて想像もつかないし!

「そりゃ気になるでしょう。
 自分たちの司令官がどれほどのものなのか?
 どれほどの評価を得てるのか、とか」

「いや、そんなクソスレの評価なんて一読の価値なんて無いよ!?
 結局はこいつら、自分は偉くて他人はクソって言いたい奴らばかりじゃないか!」

「煽り耐性のある”何たら”司令官はどうかしらないけど、初めてこういうのを見た飛娘()はどう思うかしらねぇ~」

「くっそぉ~!
 大本営に連絡して、このスレ削除して貰おう!」

「恥ずかしいからやめなさい!
 ……あと、この際だから言うけど……。
 あなたの指示に皆、正直言って付いていけてないのよ」

「え?
 なにが?」

 勝利できてないのは確かだけど、指示に関しては自信があったのだが。

 なんせ、探す前からボスの位置も知っているし、さらに、そこまでのルートも知っている。

 どのタイミングでボスルートを確保するのかも知っているので、この部分に関してはチートなのだが。

「いや、ボスの位置を知っているのは、皆の中では大本営の指示だと思っているわよ」

「え?」

「だってあなた、別段調べさせてもいないのになぜだか知っているんだもの。
 そりゃ、大本営から教えて貰ってるって思うわよ。
 むしろ、大本営からの情報を自分の手柄のように話しているあなたへの好感度は順調に下がっているわ」

「嘘だろう!?」

「それに、ルートの確保については、特に損傷もない時でも、”意味が分からない”理由で撤退させられるってぼやいてる子もいるわ」

「いやだから、そのまま行ってもルートが外れるから!」

「知らないわよ、皆。
 だって、煩わしいと思ってもあなたの指示通りにしてるから、”一度も”逸れたことがないもの。
 そもそもルートが外れるって何? って不満がたまっているわ」

 ショックだ……。

 よかれと思っていて、実際その部分に関しては良い方向なのに……。

 こんな事になるなんて……。

「Tチャンやあなたの指揮について、多かれ少なかれ気になってる子は少なくないわね。
 特に気にしていないのは、内情を知っているわたしや大本営からの指示を直接見ている白梟を省くと二人だけかしら」

「……ああ、川蝉と姫雨燕か」

 川蝉はいつもニコニコしていて、戦闘と紅茶を除けば、ほぼ無関心な女の子だ。

 Tチャン所か、部屋のパソコンも触ってすらいなさそう。

 姫雨燕は浅グロギャルみたいな容姿とは裏腹に、パソコンどころかタブレットもスマホも大の苦手で、そもそも受け取りを拒否されたからあの子の部屋に置かれていない。

 戦闘に関して川蝉にしても姫雨燕に関しても、負け数の多さは気になっているようだが、その怒りの矛先はこちらに向いていない。

 川蝉は日に何度か、俺と山雲雀の為に紅茶を入れてくれるし、姫雨燕は暇を見つけては俺の背中やら腕やらをペタペタと触ってくる。

 どちらも、嫌っている相手にはしないだろうから、俺に対してさほど不満には思っていないのだろう。

 ……姫雨燕のあのタッチはいったい何の意味があるのか、正直よく分からないが……。

「勝ってさえすればね……」

 山雲雀がボヤく。

「勝ってさえすれば、そんな不満なんて些末(さまつ)なことと出来るんでしょうけど……。
 ここまで苦戦すると、ね。
 わたしの見立てでも、ここまで勝てないなんて正直信じられないのよ」

「だよなぁ……」

「結局、司令官の勝ち運の無さ、なのかしらね」

「だよなぁ~って同意せざる得ない状況なんだよなぁ……」

 泣きそうな俺に、山雲雀は困った顔で微笑んだ。

「ま、まあ、そのうち風向きも変わって勝てるようになるわよ。
 とにかく飛娘への対処には気をつけてね。
 不満をさらに積もらせないように!」
敵について……。
敵は飛娘と同じ空を飛ぶ戦艦、機艦として扱われる。
なので、飛娘と同じく、小鳥級、中鳥級、大鳥級などの呼び方で機艦種を分ける。
低レベルなものはグロテスクな化け物、ただ高レベル――選良特級持ちは飛娘と同じく人の、さらに言うなら女性の容姿の者が多い。
*************
読んで頂き、ありがとうございます!^^
評価感想など頂けると、これからの執筆活動の糧になります。
気が向いたらで構いませんので、よろしくお願いします。><

小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ