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ようこそ、飛娘コレクターの司令官……代理! 作者:時井 人紀

第一章『大好きな彼女達を墜落させるのは、俺?』

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勝てない理由

 司令室のドアが開く音が聞こえ、辺りの色が突然現れた。

 誰かが近寄ってくる音、そして、ため息混じりの声が聞こえてくる。

「真っ暗な中で、何をやってるの?」

「……」

 司令室に座る俺は少し躊躇したが、思い切って訊ねてみた。

「山雲雀、もし俺が司令官を辞めたら、みんなはどうなる?」

 山雲雀は少し言葉を詰まらせたが、すぐにいつもの口調になり、答える。

「……そうね。
 ここに、新たなる司令官が来ることになるけど、その場合、その人の”ため”の飛娘が配属されることになる。
 だから、わたし達は飛娘が足りないとかそういう事情を抱えた異動先を探すことになるわ。
 でも、白梟はともかく、わたしを含む小鳥型は基本的にどの基地も飽和状態だから、最終的には機羽の解体――いわゆる、普通の女の子にされるんでしょうね」

 普通の女の子……か。

 飛娘達は自分専用の機羽(きはね)を持って生まれてくる。

 ……いや、逆だ。

 彼女たちは機羽(きはね)から生まれるのだ。

 だから、解体――機羽(きはね)の分解を行うと、彼女たちは戦うことの出来ない、ただの人間に近い存在になってしまう。

 ただ、彼女たちには知識は埋め込まれていても、見た目と同じ年月を生きてはいない。

 山雲雀でいえば、まだ自我を持って二週間ほどしかたっていない。

 そんな彼女たちが、いきなり人間の世界に放り出されて”普通”の女の子として生きていくことが可能なのだろうか?

「……ねえ、あなたは自信を失ったのかもしれないけど、最初の敗北は正直仕方がなかったと思うわよ。
 少なくとも、あなたが気づけるレベルのものではない。
 出来るとしたら、現場レベルで偵察機を丁寧に送るしかないもの。
 それも、経験のある飛娘がね。
 悔しいけど、わたし達の中に偵察機を装備できる子も経験豊かな子もいないわ……。
 でも、その後の巻き返しはとても良かったと――」

 そこで、山雲雀は口を閉じる。

「……」
「……ねえ」

 山雲雀は両手を机に置き、俺をのぞき込む。

 彼女のオレンジと焦げ茶の混じった髪が、少し流れた。

「あなた何者なの?
 軍務についてほとんど無知なのに、偵察機の開発とか基地航空システムとか、妙に詳しかったり。
 そう、祟り神は大損傷の飛娘に引き寄せられるって噂、わたしが調べた限りでは無かったわ。
 ただし、実際に敵の増援は来たし、大損傷の飛娘を出した別の基地がその後、壊滅したという事例も何件か発見した。
 つまりあなたは、大本営すら気づいていない事を”知っていた”ってことになるのよね?
 それでいて、基地近辺空域に母鳥級はいないとか、基地襲撃などありえないとか、根拠もなく言い切ったりと。
 あなた、凄くちぐはぐなのよ!」

「……」

 やはり、山雲雀は鋭い。

 ただの飛娘でも、優秀ではあるのだ。

「山雲雀、済まない」

「……なにがよ」

「実は俺、金満司令官ではないんだ……」

「はぁ?」

「俺は……俺は……お前の大切な人を、この世から消し去ってしまったばかりか……」

 目の前の山雲雀が霞む。

 こんなはずではなかった。

 こんなことは望んでいなかった。

 俺はただ、彼女を、皆を……。

「この戦いの勝機を摘んでしまったのかもしれない……」



 守りたいと思っただけなのに……。

 ただ、守りたかっただけなのに……。

 俺が彼女たちを、世界を、敗北へと追い込むのか……。





 金満基地物語は特殊な手法で物語を進めている。

 それは、地の文に書かれた歴史学者の独白と、実際にあったと思われる漫画の部分とを平行して進めるというものだ。

 なので、まだ完結していないこの作品ではあったが、戦いの結末は判明している。



 人間と飛娘達の勝利である。



 その戦いの中で、勝利にもっとも貢献したのが金満基地だ。

 金満基地は多くの空域の奪取に貢献し、多くの重要な戦いで勝利を得て、最終決戦では全基地の中心として、ついには祟り神に恐怖する暗黒時代の幕を下ろすに至った――と描写されていた。

 そんな金満基地の中心人物は、その主人公の金満司令官であったが、後二人、欠かすことの出来ない存在がいた。

 一人は多くの戦いで、奇跡ともいえる勝利をもたらせ続けた――中鳥級、白梟。

 そして、もう一人が第二の司令官といった役割を務め、実戦はもちろん、戦術、戦略を立てる(かなめ)的存在であった山雲雀だ。

 金満司令官が着任し基地近辺空域を確保するまでが描かれた同人誌の第二巻で、歴史学者が金満司令に対する人々の評価を加えながら、このように語っている。

『……くちさがない者達は彼に対してこのように評価した。
 金満司令官はむしろ、何もやらない方が良かった。
 基地運営では山雲雀、飛娘の育成や戦闘の指揮では白梟にと、それぞれをまかせっきりにしたほうが、もっと楽に勝利を得ただろう、と。
 事実、基地内の影響力はトップである司令官よりもむしろ、山雲雀、白梟両飛娘の方が強かったようだ』

 つまり、多くの勝利は山雲雀や白梟によって得たといっても過言ではなく、漫画を読んでいた俺もそんなつもりでいたのだ。

 特に、一時期司令官代理を務めた山雲雀がいれば何とかしてくれる。

 そう思ってしまったのだ。

 だが、歴史学者の独白には続きがあるのを、俺はすっかり失念していた。

 それは、このように続く。

『……だが、そのようなことを主張する者達は忘れている。
 金満基地で卓越した能力を発揮した山雲雀も白梟も、そもそもが金満司令官によって育てられたという事実を。
 司令官がいたからこそ、その才を開花させたという事実を』

 つまりだ。

 金満司令官がいなければ、最高の戦術家であり戦略家の山雲雀も、飛娘の育成や実戦闘で大きく貢献した白梟も、存在しないということだ。

 で、だ。

 目の前に”育成前”の山雲雀がいる。

 そして、金満司令官は何故かたっくん()だ。

 じゃあ、誰が彼女を育てる?

『山雲雀の前に飛娘はなく、山雲雀の後にも結局、山雲雀は現れなかった』

 なんて歴史学者に語らせた金満基地唯一無二の”育成後”の彼女に、誰が育てるのか?

 俺?

 俺はゲームについてはかなり細かいところまで知ってるけど、飛娘の戦い方なんて知らないし、戦略的にも戦術的にも指示なんて出せない。

 その方面ではただのド素人だ。

 その方面だけではない。

 ただのFランク大学生だった俺なんて、飛コレのゲーム以外ではただの役立たずだ。

 普通の会社に放り込まれたって一、二時間で使えねぇーと言われかねない男が、まして、基地運営なんて……どうすればいいんだ?

「どうにかするしかないじゃない」

 山雲雀はぶ然とした顔で答えた。

「そもそも、あなたねぇ~。
『俺、金満司令だけど、実はこの世界を漫画で読んでいただけの男なんだ。
 君たちの大事な金満司令はどっか行っちゃった。
 本当に酷いことしました。
 ごめんね。
 まあ、そんな訳で祟り神に勝てませぇ~ん』
とか言われて、
『ああそうか、じゃあ仕方がないわよねぇ~』
とか言えるかぁぁぁ!
 そもそもねぇ、わたしは本物とやらの金満司令を知らないから、酷い事したとかよく分からないし、まして、戦い始めたばかりの状態で別に劣勢にもなっていないのに、もう無理、とか納得行くわけないでしょう!?」

 まあ、そりゃそうだ。

 そりゃそうだろうかもしれないけどさぁ。

「でもな山雲雀、この際ぶっちゃけるけど、金満司令官って、お前の旦那になる人だったんだけど……」

「だから、会ったこともない人について、お前の旦那のはずだったとか言われて、わたしはどうすればいいのよ!
 もう!」

 そこまで言ってから、少し(ほお)けた顔で聞き返してきた。

「って、え?
 人間と飛娘って結婚できるの?」

「そりゃ、出来るんじゃない?
 お前の場合、すべてが終わった後だった。
 退役した飛娘の先駆けになるって事で」

「……まあ、戦う必要がなくなった飛娘って、身の振り方をどうするのかって問題になるでしょうからね」

「そうそう、そこら辺の話も書かれていた。
 まあ、普通に考えて多くなるんじゃないかなぁ? 司令官と飛娘の結婚って。
 ずっと一緒にいるわけだし」

 漫画では金満司令官ともう一人、凡司令官ってキャラも飛娘と結婚している描写があったし。

「……そんなに上手く行くものかしら。
 いや、だから先駆けたのか……」

と、ぶつぶつ言う山雲雀だったが、頭を少し掻いた後、はっきりという。

「そんなことはまあ、今はどうでもいいのよ!
 問題はあなたが戦う気があるかどうか、そこよ!」

「戦う気があっても!
 ……実際の能力が伴ってなかったら……。
 それに、皆の大切な司令官を追い出した……のかよく分からないけど、そんな俺が続けて良いものか?」

「だから言っているでしょ?
 さっきの戦い方も悪くはなかったって。
 それと、これも何度も言ってることだけど、『皆の大事な司令官』って言われても分からないってば。
 そもそもあなた、追い出したって言うけど、どうやって追い出したのよ!
 あなたの言うことが正しいなら、どうやって漫画の中に入ってきた訳なの!?」

「どうやってかは……分からない。
 気づいたらここに来ていた。
 ただ、強く望んだのは確かだ」

「望んだ?」

 そう、俺は強く望んだ。

 どうしても、守りたい子がいたから……。
中鳥級梟型二番機艦、白梟……。
司令官「可愛いで有名な白梟さん!」
白梟「え! あの、その……もう!」
司令官「司令官”には”優しく、そして、戦闘では非常に優秀な切込み隊長である!」
白梟「ふふふ、ありがとうございます」
司令官「しかし白梟、もう少し小鳥級達の訓練を減らし――」
白梟「……なにか?」
司令官「え? あ?」
白梟「なにか問題でも?」
司令官「あ、あの……いえ! なんの問題もございません!(ガクガクガク)」
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読んで頂き、ありがとうございます!^^
評価感想など頂けると、これからの執筆活動の糧になります。
気が向いたらで構いませんので、よろしくお願いします。><

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