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ようこそ、飛娘コレクターの司令官……代理! 作者:時井 人紀

第五章『初期飛娘の三人』

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人として避けて通れないもの

 雲雀は滑走路の一番先に腰を下ろしていた。

 その先は崖のようになっていて、ここからでは見えないが、雲雀の足下何メートルか下には繁茂した森が海のように広がっているはずだ。

 普段、空を文字通り飛び回っている雲雀はともかく、ただの人間である俺には、とてもじゃないが耐えきれる高さではない。

 だから、雲雀の斜め後ろぐらいに腰を下ろした。

 ……雲雀はチラリと後ろを振り向いたが何も言わない。

 すぐに視線を戻すと、ただ静かに遠くを眺めた。



 ……。



「なあ雲雀」と俺は静かに語りかけた。

「知っての通り、俺は頭が切れる男ではない。
 女の子の気持ちを察してあげられる、リア充でもない。
 お前達には本当に申し訳ないと思うが――ただの鈍感な男なんだ。
 だから雲雀、恥を忍んで訊ねる。
 お前の心をかき乱す、その正体は何だ?
 教えてくれ、雲雀」

「わたしは……」

 雲雀はうつむく。

 躊躇(ちゅうちょ)している、のか?

 聞き手が俺だから駄目なのか?

 ……やはり、白梟か大鷹の方が良かったか?

 それとも、山雲雀が黒鶴の時に言っていたように、自分自身の心の内が分からない――そういうことなのだろうか?

「なあ雲雀」俺は再度訊ねる。

「戦うのが嫌になったのか?」

「そんなことはありません!」

 雲雀は振り返らないまま、強く否定した。

「そんなことはありません。
 ただ、旗機艦とか秘書娘とかは……」

「とかは?」

「……」

 雲雀は下ろしていた足を上げると、体操座りのように膝をぎゅっと抱きしめた。

「……司令官はわたしが旗機艦とかをやっているのを見て、変だと思いませんか?」

「変?」

姫雨燕(ヒメアマ)ちゃんとか川蝉ちゃんとか、あんなに……」

 あぁ~分かった。

 流石の俺も、ここまで言われたら理解できた。

「……雲雀、お前は何だか自分のことを過小評価しているみたいだがなぁ。
 お前は、お前が考える以上に優秀な飛娘なんだぞ!
 確かに、姫雨燕(ヒメアマ)とか川蝉の突破力は凄まじい。
 その部分では雲雀、残念ながらお前ではかなわない。
 だがその分、姫雨燕(ヒメアマ)なら安定感、川蝉なら旗機艦としての統率力が――」

 突然、雲雀がくすくす笑い始めた。

 はぁ?

 何か、変なこと言ったか?

「知ってました。
 司令官はそんなんだって……。
 知ってたはずなのに……」

 雲雀……泣いてるのか?

 笑いながら――泣いてるのか?

 くそっ!

 ここからじゃ、よく見えない。

 ああぁ~くそっ!

 俺は立ち上がると、雲雀の隣に腰を下ろした。

 背筋の体感温度が――氷点下ぐらいまで下がった。

 確か、ここから下までの高さは五十メートルぐらいだったはずだ。

 因みに、十階建ての建物の高さは大体三十メートルとのこと……。

 要するにだ。

 目の前に広がる森の、そのもっとも高い木の先から――俺の足先までの高さは十五階建てのマンションぐらいはあると言うこと。

 十五階建てのマンションの屋上で、手すりも何もない所に腰掛ける。

 やばい、こんなに怖いものなのか!?

 しかも、風がビュービュー吹きすさむから、大丈夫だとは思っても、何かの拍子に体が浮き上がるのではないか?

 そんな妄想に捕らわれそうになる。

 ……いや、本当に妄想と言えるのか? 

「ちょ、司令官、無理しないでください!」

 雲雀が慌てて俺の腕を掴む。

飛娘(わたし)の場合は仮にここから落ちても、木に引っかかりさえすれば案外平気です!
 でも、人間はそうはいかないんですよ!」

 マジかぁ~

 機羽が無くても飛娘やっぱりスゲーな。

 しかし、ここで怖がっている姿を見せたら、話が進まない。

 だから極力、下を見ないように雲雀の方を向いた。

「で、なんだ?
 俺はおかしな事を言ったか?」

 雲雀は――視線を下ろした。

 そしてまた、前を向いた。

 さっきは見えなかった表情、今はしっかりと見える。

 眉を寄せ、何かを躊躇するような顔でセーラー服の胸元を掴んだ。

「きっと司令官も、そして、山雲雀ちゃんも想像できない理由なんです。
 だって、”戦い”には全く関係ない話、ですから」

「どういうことだ?」

「……わたし、地味じゃないですか」

「ん?」

 いや、確かに地味だけど何か関係あるのか?

「だから、可愛い皆の先頭なんか変じゃないかなぁ~
 何て♪
 おかしいですよね!
 わたし、おかしな子ですよね!」

 そこで、雲雀は吹き出した。

 腹を抱えながら、涙をこぼしながら……。

 ”苦しそう”に、笑っていた。

 ああそうか……。

 そうなのか……。

 雲雀、お前は抱え込んでいたのか。

 他の皆のように”華やか”でない自分に対する劣等感(コンプレックス)を。

 だけど、生まれたばかりのお前にはよく分からないし、他の飛娘(周り)も知らないから、それを解消してあげるすべがない。

 だから、お前はずっと抱えるしかなかったのか。

 ただ、腹の中でわき上がる黒煙を必死で押さえながら。

 それに気づいてやれるのは――山雲雀ではない。

 人間である俺だけだ。

 なのに俺はやっぱり、漫画で得た知識でしかこいつを見てあげられていなかったんだ。

 もっとしっかり、見て聞いてあげなければならなかったのに――決めつけていたんだ。

 雲雀は容姿に対して何とも思っていないって。

「……雲雀、それはコンプレックスっていうんだ」

「……え?」

 雲雀は目をぱちくりさせて、俺に視線を戻した。

「他人より劣っている部分を気にして悩んでしまう事、劣等感、コンプレックス……。
 いいか雲雀、それを持っているって事は、お前がただの兵器ではないという証拠なんだ。
 ただ戦うために生まれたんじゃない。
 人として生きる上で避けては通れないものを、お前の心は手に入れたんだ」

「人と……して?」

「そうだ。
 コンプレックスは過ぎると猛毒になる。
 だけど、全くない人間には深みがない。
 良いものとは言い難いが、無くて良いとも言い難い。
 人が人である限り、避けては通れないものなんだ。
 だから雲雀、お前はおかしいんじゃない。
 お前はただ、他の飛娘より先んじた――それだけだ」

「そう……なんですか?」

「そうだ。
 因みに俺にだってあるぞ、コンプレックス。
 しかも、数え切れないぐらいだ」

「ええ!?
 そうなんですか!?」

「ああ、飛娘(お前達)に対しても、持っている」

「わたし達に?」

「そうだ」

 俺は覚悟を決めながら、前を見た。

 凍え死にそうなほどの恐怖が、目の前に広がっている。

 だけど、飛娘達にはどう見えているのだろうか?



 美しい景色とか?

 それとも、ただの森、なのか?



「お前達は空を飛ぶことが出来る。
 それに、命がけのお前達にこんな事をいうのは失礼かもしれないが――戦うことが出来る。
 基地を守るために、仲間を守るために。
 俺にはこの身を投げ出しても不可能なことだ」

「司令官……」

「なあ雲雀、お前が苦しくて仕方がない事を、課すつもりはない。
 秘書娘も旗機艦も、無理矢理やらせるつもりはない。
 ただ、もう少し考えてみてくれ。
 もう少し、それを乗り越える努力をしてみてくれ。
 そう俺が無理を承知に頼んでしまうほどのものを――お前は持っているってことなんだ。
 だから、もう少し、な。
 そしてもう一つ、今後、恐らくお前のようにコンプレックスに悩む飛娘が出てくるだろう。
 多分、俺ではそれに気づくことが出来ないだろう。
 俺はどうしようもなく、鈍感だ。
 だから雲雀、そんな奴のことを少し気を使ってやってくれ。
 先輩として、な」

「先輩……ってなんですか、それ!」

 雲雀が表情を崩した。

 さっきまでとは違う、心からのもの――だと信じておこう。
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読んで頂き、ありがとうございます!^^
評価感想など頂けると、これからの執筆活動の糧になります。
気が向いたらで構いませんので、よろしくお願いします。><

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