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ようこそ、飛娘コレクターの司令官……代理! 作者:時井 人紀

第一章『大好きな彼女達を墜落させるのは、俺?』

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崩壊……さらに、災厄

※初日につき連続四回投稿 3/4
「なんだ!?
 なんなんだこれ!?」

 俺は慌てて滑走路まで降り、駆け寄るが、余りの(むご)たらしさに手前で足を止め固まってしまった。

 つい先ほどまで勇壮ともいえる姿を見せていた俺の部隊が、無残な姿をさらしていた。



 白梟、大損傷
 姫雨燕、大損傷
 川蝉、大損傷
 ヨーロッパヒンズイ、中損傷
 雲雀、小損傷
 山雲雀、小損傷



 余りの悽惨(せいさん)さに、墜落者が出なかったことが奇跡のように思えた。

 大損傷とは自力で飛ぶことが出来ないくらいの負傷を意味する。

 ただ、同じ大損傷でも程度が違うようで、頭と胸のあたりを真っ赤に染めた姫雨燕は意識を失い、青白くなった顔はぴくりともしない。

 白梟と川蝉は意識はあるようで、山雲雀達の声に反応している。

 ただ、それも激痛のため(うめ)いているだけにも見えた。

 むっとした鉄さびの様な(にお)い。

 排水溝に向かって思いの外、滑らかに流れる赤黒い液体。

 白梟の腹部をえぐる生々しい傷。

 腹から何かが持ち上がるのを感じ、口に手を当て必死に押さえた。

 白梟が俺に気づき、必死に姿勢を正そうとしているのが見えて、我に返った。

「し、司令官……申し訳――」

「いい!
 いいから!
 すぐに手当を!」

 ここに降りる前に指示を出しておいたので、看護士さんみたいな格好の付喪神ちゃんが十人ほど慌てて駆け寄ってきた。

 そして、応急手当を始める。

 何で、何でこんな事に……。

「……申し訳ありません」

 セーラー服のほぼ半分を真っ赤に染めた山雲雀が悔しそうに声をかけてきた。

 彼女は小損傷だから、その大半は彼女のものではなく、退却時に誰かの血が染み着いたのだろう。

 山雲雀が力なく続ける。

「小鳥型級はすぐに倒すことが出来たんだけど……。
 突然現れた、母鳥(ぼとり)小型級に――」

母鳥(ぼとり)!?
 母鳥(ぼとり)級だって!?
 そんなバカな!?
 そんなものが、”そこに”現れるわけがない!」

 山雲雀は目を大きく見開いて、何かを言おうとして――思い直したように、俺を(たしな)める。

「そこにいるはずはない。
 そのような考え方は捨てるべきよ。
 これは、実戦なのだから」

 実戦!?

 でも、それでも……。

 そんな”描写”は無かった!

 そもそも……。

「山雲雀、お前がいて不意を突かれたのか!?」

「それは……」

 言いよどむ山雲雀の代わりに、肩の包帯を赤く染めたヨーロッパヒンズイが、彼女にしては珍しく、強い感情を込めて答えた。

「……偵察機も積んでいない、初陣の飛娘にいったいあなたは何を期待してる。
 山雲雀をなんだと思っている」

 ああそうだ……。

 それは俺にも分かっている。

 彼女はまだ、多くの戦いを経験していないんだ。

 でも、それでも……。

 俺は混乱する頭で、それでもそんなことを言っている場合じゃないと何とか理解しつつ、付喪神ちゃんに指示を出した。

「済まなかった、ヨーロッパヒンズイの言うとおりだ。
 と、とにかく、誰一人欠けることなく戻ってきたことは良かった。
 今はゆっくり休んで――」

 突然、基地全体を揺らさんばかりに警報が鳴り響いた。

 はぁ!?

 山雲雀が慌てて、壁に設置されている端末を確認する。

「基地防衛空域に向かって、敵機艦が接近中!
 機艦種は……。
 母鳥小型級一!
 中鳥級一!
 小鳥級四!」

「……嘘だろう?」

 基地襲撃自体はゲームシステムでもあった。

 定期的に行われるイベント、『期間限定大作戦』のみであったが……。

 特定の空域に出撃する際、ランダムで発生する敵からの攻撃で、出撃している主力飛娘以外で防がなくてはならない防衛戦だ。

 主力以外の飛娘をきちんと育成していなかった司令官に恐怖を! という名目で導入されたシステムだが、運営も力のさじ加減が難しいらしく、通常空域にでもウロウロしてそうな低レベル敵機艦がひょっこり現れるだけのものになってしまい、大して育っていない飛娘でも簡単に追っ払らえる、名目的なものになっていた。

 はっきり言って、煩わしい、ただの嫌がらせシステムだというのが司令官(プレイヤー)ほぼ全員の評価だった。

 でも、なぜだ……?

 なぜ今、このタイミングで来るんだ!?

「……!」

 ……だめだ、防げない。

「……官!」

 今、防衛に出せるのは小損傷の山雲雀、雲雀の姉妹だけ。

「……と、…令官!」

 いや、仮に全員が無事だったとして、小型とはいえ母鳥級がいる機艦隊には勝てない。

 なんだよこれ、詰んでるじゃないか……。

 ゲームだと防衛に失敗しても資源が少し減るだけだが……。

 俺は……俺達は……死ぬ?

 突然、胸ぐらを捕まれると、無理矢理視線を下げさせられた。

 目の前に山雲雀の険しい顔が現れる。

「司令官!
 しっかりしなさい!
 ”金満”司令官!」

 ……そう、今の俺は木下(きのした) 太一(たいち)でも、たっくん司令官でもない。

 今の俺は、”金満”司令官なのだ。





 金満司令官が飛コレプレイヤーの間で有名になったのは、飛コレの正規版が出てから一年ほどたった辺りだ。

 理由は非常に簡単、その異常な課金ゆえにだ。

 金満司令がツイッターに挙げた画像の衝撃は今でも鮮明に覚えている。

 司令官レベル1の司令官室にもかかわらず、資材、開発材料、改良部品はカンスト、各種整備は全て整い、ついでに言えば、司令室の装飾物オール購入済みという、当時の全司令官最高レベルであった俺すら到達していない環境を整えていたのだ。

 それだけ(そろ)えていて、飛娘は初期機艦の山雲雀のみ。

 あまりにもシュールな絵に飛コレ関係のコミュニティや2CHのスレッドでは一時期騒然としたものだ。

 噂によると、それだけで250万円越えの大出費だ。

 選ばなければ新車だって買える。

 そもそもだ。

 飛コレは基本的に課金をしても、それほど優位に戦うことは出来ない。

 補助にはなっても、必須ではないのだ。

 設備もあれば便利だが必ずいるものではなく、仮に絶対必要というものはその都度現れる任務をこなせば手に入る。

 資材や燃料は日に数回、長距離輸送任務を行えば、そこまで苦労せずためることは出来る。

 飛娘も装備も課金しなくては得られないものは存在しない。

 レベル上げの効率を上昇させるアイテムなんて無いから、普通に出撃を繰り返さなくてはならない。

 また、運ゲーの向きが強いので、資材を揃えようが改造を繰り返そうが、負ける時は簡単に負ける。

 ある意味、どんなプレイヤーにも平等なゲームである。

 どうしても課金が必要になるのは、飛娘のレベルがカンストした時のリミッター解除アイテムを購入する時――というのが、俺達熟練プレイヤーの間での共通認識であり、事実、たっくん基地ではその時以外にお金を使ったことはない。

 にもかかわらず、金満司令官はそんな俺達を”みみっちい”と一蹴したのだった。

 だが、注目はされてもプレイヤーの反応は冷ややかなものだった。

『ばっかじゃね~の』
というのが、異口同音――素直な意見だ。

 俺もどうせすぐに消えるネタ司令官だろうと(あざけ)りながら
『金満司令に栄光あれ!』
とツイートしたものだった。

 ところがである。

 金満司令は数いる古参をごぼう抜き、最古参たる俺、たっくん司令すらも抜き去り、登録件数五百万にもなる司令官の頂点に、あっというまに立ってしまったのだ。

 これは、ヘビープレイヤーたる俺には良く分かる。

 ただ課金すれば得られる地位ではない。

 金満司令官、恐るべきやりこみ具合なのだ。

 金満司令官がイベントの出撃構成をアップした時の衝撃も覚えている。

 それは、通常の出撃が6名に対して、大機艦隊編成という飛娘12名での出撃だったのだが……。

 そのメンバー全員がカンスト99レベルを超え、当時の限界レベル120で構成されていたのだ。

 119から120に上げるのに必要なレベルは200万の経験値、一回の戦闘でMVPを取ったとして最大で得られるのは五空域五面にあるボスで、経験値は3000ほど。

 なので、少なくとも5ー5ボスを667回は撃破しないと119レベルから1レベルすら上げることが出来ないのだ。

 そんなレベル上げを、小さくて弱い小鳥級を含む12名の飛娘に行ったということになる。

 当時、曲がりなりにもトップグループのランカーだった、たっくん基地にいる限界レベル達成者は超大鳥級(ちょうおおとりきゅう)大鷲(オオワシ)のみだった。

 それも、相当頑張った結果で、その他の飛娘は90レベルも4、5名ほどしかいなかったはずだ。

 狂っている。

 初めに漏れたのはそんな言葉だった。

 だが、すぐに流れた噂によって、合点が行った。

『金満司令は人を雇ってレベル上げをしているらしい』
というものだった。

 金満司令官ははっきりと否定したが、どちらが現実的かと言えば噂の方がそうだったので、多くの司令官はそれを信じた。

 なんて卑怯な奴なんだ。

 俺は憤慨した。

 憤慨した勢いで、ネットをやる上で――少なくともたっくん司令官として――絶対にやらないと自ら制約していた事をしてしまった。

『もし本当なら、俺は金満司令を認めない。
 絶対に認めない!』

 そこそこ有名で、時々運営からも意見を求められるほどのプレイヤーで、なおかつ普段は温厚と見られていた俺の、特定のプレイヤーへのバッシングに少なからず衝撃が走った。

 特にアンチ金満は我が意を得たように盛り上がり、数少ないながらも強固な擁護派は動揺する。

 こうなることは分かっていた。

 だが、それでも飛娘を愛する俺が、彼女たちの育成を人任せにする行為をどうしても許すことが出来なかった。

 だから、明確に彼を否定したのだ。

 ところがである。

 彼には飛コレを愛するプレイヤーが無視できない理由を、その課金力と戦果のほかにもう一つ持っていた。

 それは、彼の描くイラストにあった。

 とにかく上手いというのもある。

 だが、それだけではなかった。

 そこにいる一人一人の飛娘達は、彼女達それぞれの魅力を丁寧に表現されていた。

 これも、お金でイラストレイターを雇っているという噂もあったが、これについて俺は否定的であった。

 雇われて描いてる人が、ここまで彼女たちを描ききることは出来ない。

 本当に好きな人でなければ、こうも魅力的に描けない、と。

 そんな金満司令官が一枚のイラストをアップしてから、事態が急変した。

 そこには山雲雀が――俺の大好きな山雲雀が――悲しげに眉をひそめながら懇願していた。

『お願い、信じてよ!』

 そんな声が聞こえた俺に、いったい何が出来ようか。

 俺は苦しみもがきながらも、ツイートする。

『認めざる得ない!
 認めざる得ないぞぉぉぉ!』

 そんな俺の手のひら返しにネットは大いに沸き立った。

 荒れたと言うより、大爆笑だった。

『(悲報)激怒の有名司令官、嫁飛娘のイラストにあっさり陥落w』

『たっくんさん、そりゃ無いわwww』

『たった一日でデレやがったw』

 そんな、草生えすぎ状態に頭を抱えていると、金満司令までツイートして来た。

『この人のこういう所、好きだわw
 本当に、飛娘が好きなんだってよく分かる。
 俺は課金で彼女たちを守るけど、たっくんはその心で守ってるんだろうなぁ』





 ……。

「そうだ!
 俺は金満司令官だ!」

「うぁ!?
 ……あ、あなた、何を今更?」

 目を白黒させる山雲雀に俺は急いで指示を出す。

「全員、緊急救護カプセルの使用を許可する!
 直ちに、傷を回復せよ!
 使用優先順位は姫雨燕、及び、”軽度”の者からだ。
 白梟達には悪いが応急手当を済ませたら、山雲雀達を先に治療する。
 また、ここより戦闘終了まで、何があっても通信をONにしておくように。
 以上!」

 そして俺は、返事を待たずに駆けだした。
小鳥級……小回りが利く機艦。
速度、攻撃力、防御力共に、他の機艦種よりも劣るものの
燃費が良く、修復にも時間や資材が少なくて済む利点がある。
また、機艦種制限のある空域にも出撃出来たり、対超高空専用機艦などの特殊な武器を装備出来るので、レベリングをサボると痛い目に合う。
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読んで頂き、ありがとうございます!^^
評価感想など頂けると、これからの執筆活動の糧になります。
気が向いたらで構いませんので、よろしくお願いします。><

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