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ようこそ、飛娘コレクターの司令官……代理! 作者:時井 人紀

第四章『最強の母鳥級』

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最強の矜持

 食堂こそお前にふさわしい。

 などと、言わざるえないのが司令官として悲しい。

 黒鶴が入ってきた時、そんなしょうもないことを考えてしまった。

 とはいえ、こいつを呼び出す上で、ここ以外に思いつかなかったのも事実だ。

 まだ一日にも満たない黒鶴との付き合いで、ここ以上に黒鶴(こいつ)の機嫌が良かった場所はなかったしな。



 あとは、喧嘩するか嫌みを言うか罵倒するかだったし。



 黒鶴は中に入ると辺りを見渡す。

 そして、目当てのものが見あたらなかったのか、俺の所にズンズン向かって来た。

 そして、偉そうに腕を組むと見下ろしてきた。

「で?
 誰ができたの?
 丹頂(姉上)? それとも、妹たちかしら」

 なるほど、姉妹の機羽が建造できたから呼ばれた、そう思っているのか。

 まあ、黒鶴なら俺がその手を思いつくことぐらい容易に分かるか。

「機羽の作成はしていない。
 する場合も、別にお前の姉妹を求めてするつもりはない」

「……どういうこと?
 まさか、呼んだの――朱鷺さんを?」

 朱鷺の可能性も考えていたのか。

 まあ、こいつなら、それぐらいは、な。

 俺が首を横に振って否定すると、黒鶴は何故かおびえた表情で両手のひらを前に出し、首を横に振る。

「それとも……。
 体は正直だろう的なのを、するつもり?」

「……お前らさぁ~!
 何でもかんでも、エロい(そっち)方面に話を持ってこうとするの、やめてくれないかなぁ~!」

「わたし、人を――しかも上官を――鞭で叩くとか……。
 そういうのはちょっと……」

「しかも、Sプレイ強要!?
 俺、Mな性質なんてお前に見せたか!?」

 すると、俺の後ろに控えていた毛足狂鳥(ケアシノスリ)が強い意志の籠もった声で言う。

「わぁたぁしぃ~!
 そういうのも良いと思うぅ~!」

「何がだよ!」

 毛足狂鳥(ケアシノスリ)はドカァァァン! という効果音が似合いそうなほどの大きな胸やお尻を温泉旅館の浴衣みたいなヒラヒラした和服で包むという、けしからん飛娘だ。

 正直、目のやり場に困る奴だ。

 普段は脳天気な彼女が、温泉和服と同じ白地に茶色の(まだら)になっている長い髪をかき上げつつ、無駄にキリッっとした顔で続ける。

「だってぇ~愛、じゃない?」

「うるさいわ!
 頭の悪いギャルみたい発言、うるさいわ!」

 黒鶴が何故か(たしな)める。

「あなたのMな趣味をとやかく言うつもりはありませんが……。
 それを人に押しつけ――」

「てないし!
 あと何、勝手に人をMと決めつけてるんだ!
 それから、後ろの面々!
 違うからな!
 白梟もなに、合点がいったって顔してるんだ!
 違うからな!」

 そう、俺の後ろには中鳥級、大鳥級にプラス背高鴫(せいたかしぎ)、そして、呆れた顔の山雲雀が座っている。

 座っているといっても椅子にではない。

 俺を含む全員が、食堂の中央からテーブル、椅子をどかし、シートを引き、その上に座っているのだ。

「黒鶴、お前が言ったように、お前の姉妹や朱鷺を呼び寄せる事など一通り考えた。
 一通り考えた上で――やめた」

「はぁ?」

 黒鶴は訳が分からんといった感じで、見下ろしてくる。

 黒鶴だけ立っている図は、俺たちが叱られているみたいでなんか嫌だ。

 なので、まずは座らせることにした。

 もちろん、言葉で言っても聞かない可能性がある。

 なので、後ろにいる大鷹から受け取った焼き鳥を下の方に差し出す。

 黒鶴はスッと正座をして、それに手を伸ばした。

 部分的には扱いやすい奴である。

「確かに、丹頂(タンチョウ)や朱鷺がくればお前は言うことを聞くだろう。
 お前の心も落ち着くだろう。
 そのまま何事もなく、終戦まで活躍するかもしれない。
 ……だが、それでは良くないと俺は考えたからだ」

「どういうことですか?」

 あっという間に食べ終えた黒鶴に、大鷹が串用の筒を差し出した。

 お代わりを要求するかと思っていたが、黒鶴は串を返すだけにとどまった。

 黒鶴は今、俺の話を真剣に聞いてくれている。

「だってお前、それじゃあ、一人では何も出来ないみたいじゃないか。
 保護者が一緒じゃなければ、出撃すらろくに出来ないみたいじゃないか。
 なあ?
 丹頂型二番機艦、黒鶴!
 第一母鳥機艦隊、黒鶴!
 このまま行けば、のちの歴史家に母鳥級最強と(うた)われることになるお前が、黒鶴無しには金満基地の戦歴を語れないと言われるお前が――その実、丹頂()朱鷺(母親的飛娘)がいなければ戦えなかった!
 そんなことで良いのか!?
 余りにも、余りにも情けなくないか!」

「……」

 黒鶴は――うつむかない。

 誇り高き飛娘はうつむくわけがない。

 ただ、ピンと背筋を伸ばし、細い目を俺に向けるだけだ。

「いずれ、丹頂(タンチョウ)も――恐らくは朱鷺(トキ)も着任する。
 だからその前に、お前には強くなって貰いたい。
 お前のその能力と誇り高さに見合うだけの――心の強さを身につけて欲しい。
 一人でも戦い抜ける覚悟を、持って欲しい。
 だから、丹頂達も朱鷺も、今はお前に”与えない”。
 お前に与えるのは、ここにいる――これから絆を作って行かなくてはならない、仲間だけだ!」

 後ろを振り向くと、大鷹が頷き、直径六十センチはある杯を渡してきた。

 俺はそれを受け取ると、それを黒鶴に渡す。

「まあなんだ。
 何はともあれ、今晩は飲もうじゃないか!
 基地初の母鳥級、母鳥小型級の着任祝いだ!」

 大鷹が黒鶴の杯に、一升瓶に入った日本酒を注ぐ。

 その名も『鶴女(カクニョ)』、かなりマイナーらしいが、酒屋のおっさん曰く、知る人ぞ知るお酒、らしい。

「……最強の母鳥級、ですか。
 姉も妹も、大白鳥型もいるのに、ずいぶん買われたものですね」

「違っていたか?」

「いいえ」黒鶴の目が強く輝いた。
「間違ってなどいません」

 黒鶴は杯に口を付けると、ぐっと傾けた。

 焼き鳥と同じで、一気に彼女の喉を抜けていく。

 漫画では余り飲む描写はなかったけど、どうやら酒も強そうだ。

「よし!
 皆も飲もう!
 食い物も付喪神ちゃんをそろえるだけそろえている!
 がんがん作ってくれるから、思うがまま食べろ!」

 俺の声に空気が柔らかになる。

 酒を楽しく飲み交わせば戦争をしなくてすむ。

 これはある意味、正解だ。

 もちろん、いがみ合っている同士を酒の場に集めることが可能であれば――であるが、だ。

 でも、俺たちは今、それが出来る。

 ならば、やることは一つだ。

 飲んで、食って、騒ぐ!

 それだけだ!

 黒鶴が俺に杯を渡してくる。

 そこに、大鷹がお酒を注ぐ。



 ?……!?



 待て……。

 待て待て待て!

 そういえば、そうか!

 杯を飲ませたら、そりゃ飲まされるわな!

 因みに、”たっくん”は……日本酒とかお猪口(ちょこ)一杯飲むだけで顔が真っ赤になるような男だ。

 眼下にあるでかい杯――しかも、気を利かせたのか嫌がらせか、大鷹の奴に表面張力が実感できるほどたっぷり注がれた。



 なんじゃこりゃ!?



 っていうか大鷹さん、今更だけど、なんでこんなにデカい杯、用意してるの!?

「司令官、そこまで言われては黒鶴(わたし)も覚悟を決めます。
 あなたが思い描く、黒鶴(わたし)になって見せます。
 ただ、このわたしにそこまで言ったのであれば、あなたもそれ相応のものを、是が非でも見せて貰いますから」

 黒鶴の目がギラリと輝く。 



 あかん、これ飲まんと駄目なシーンだ。



 金満司令官、君って酒強いよね!?

 こんなに体がデカいんだから――やっぱり、強いんだよね!?

 信じてるよ? ねえ!?

「……むろん!」

 俺はその一言を吐き出すと、杯に口を当て、口の中に憎いあん畜生を流し込んだ。



 (ある人)がこのように語った。

『日本酒は(うま)味の固まりである』と。

 それに対して、(ある男)はこのように返したという。

『日本酒と消毒液の違いが分からない』と。



 おえぇぇぇ!

 おえぇぇぇ!

 すぐに吐き出したい!

 マジで吐き出したい!

 こんなものが旨いとか、常軌を逸している!

 少なくとも、俺の常軌を逸している!



 だが(ある男)は飲んだ。

 喉を通る度に焼けるような痛みを感じながら。

 喉を通る度に腹の底から沸き上がるような吐き気を堪えながら。

 だって、黒鶴がやっとやる気になったんだ。

 やる気になってくれたんだ。

 なのに、たかだか日本酒が飲めないってだけで、台無しにするわけにはいかない!

 いかないのだ!

 黒鶴に俺の覚悟を、覚悟を見せなければならない。

 たぶん、”そうじゃない”って突っ込みが入ると思うけど、見せるのだ!

 ああ、おお、うぇ! うぇ!

 ああ……格好を付けて日本酒とかにするんじゃなかった……。

 黒鶴も女の子なんだし、可愛らしくモスコミュールとかにしておけば――。

 ああ、色々考えていれば、何とかなるとか思っていたけど――無理そうだ――。

 眼前にあった真っ赤な杯が色あせて――黒くなっていく――。

 ああ、ぶっ倒れるな、こりゃ。

 妙に冷静に、そんなことを思った。

 一気飲み、良くない。

 皆、良くないよ!

 よい子の皆は絶対にし――
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読んで頂き、ありがとうございます!^^
評価感想など頂けると、これからの執筆活動の糧になります。
気が向いたらで構いませんので、よろしくお願いします。><

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