MISTAKE!
親指が震えている。
果たしてこんなメールを送って嫌われないだろうか。迷惑じゃないだろうか。ちゃんと返信をくれるだろうか。
おそらくいまぼくの心臓は大量の血液をせわしなく吐き出しているのだろう、こんなにも獰猛な動悸は初めてだ。絶対。
ただ一緒に花火を見に行こう、と誘おうとしているだけなのに色々な可能性を考えてしまって、ああぼくはなんてダメなやつなんだ、と改めて落ち込んでしまう。昔からそうなんだ。誰かに背中を押してもらわないと何もできない。
でも今回ばかりは誰だって緊張するはずだよ、君はクラスの男子の「三組可愛い女子ランキング」で圧倒的大差で一位になってしまったような子なんだもの。そりゃそうさ、君は、いつも無邪気で可愛いんだ。ぼくなんかよりもずっとカッコいい男子と一緒に花火を見に行くに違いない。いや、いつも一緒にいる女子たちと行くのかな……。
いずれにせよ、夜空に咲く大輪の花のもと、君の隣にいる自分を思い描くことなんてとてもできない。
とても。
すっ、と視界が明るさを取り戻した。どうやらうたた寝をしてしまっていたようだ。携帯のディスプレイを覗くと、見慣れた待ちうけ画面になっている。
……ということは。
ぼくは慌てて送信済みメールを確認した。するとその画面には、さっきまで送るのをためらっていたあのメールの文章が浮かんでいた。
ああ、やってしまった。ぼくは寝ながら無意識のうちに送信ボタンを押してしまったんだ。
送信時刻から既に五分が経っている。いつもの君の返信のペースなら、もうそろそろメールが届くはずだ。
ぼくは自分の軽率さを悔やむと同時に、偶然を装った神様までもがぼくの背中を押してくれたような気がしていた。自分一人では何もできない、ぼくの背中――。
不意に、ぼくの右手のなかで携帯が独特のバイブレータ音とともに振動し出した。
受信メール一通。君からだ。
「タイトル:うん、いいよ。一緒にいこう!」
刹那、ぼくは目を疑った。しかしその一文は紛れも無くそこにあった。ぼくの動悸は今度は感激のために激しくなっていた。ぼくは、たったいまぼくにメールを送信した、中学二年の、三組可愛い女子ランキング一位の君と一緒に花火を見に行く権利を与えられたのだ。これから先のぼくの人生がどうなるかなんて分からないけど、いまこの瞬間だけは間違いなくぼくが世界で一番幸せな人間に違いない。
そして、興奮のあまり震える親指でその本文を確認した。
「彼氏がその日旅行でいないから、誰と一緒に行こうか迷ってたんだ!」
――ああ。君は、いつも無邪気で可愛い。