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大きな本棚

この部屋には何もない。



彼の世界の全ては,静かなその部屋だけだ。

不満はない。なんたって1日中考え事をしていられる。


彼は考えている時間が好きだ。

その時間はゆっくりなようで,あっという間だ。


例えば,眠ろうと上を向き,壁の染みを見つめていたら

いつのまにか太陽が昇っていたこと。


あの日は壁の染みからほんの少しずつ世界に穴が開き,

やがて自分が通れるほどの大きさになって。


そっとのぞいてみると,木がたくさん生えている。

これは森だ。真っ暗な森だ。


彼は好奇心に引き込まれるように真っ暗な森を歩き回った。

月の明かりを頼りにみんなを起こさないよう,ゆっくりと歩いてゆく。

どこまでも続いていそうな木々の,隙間からのぞく明かりを頼りに歩いてゆく。


どれだけ歩いても疲れを知らない自分の足に驚きながらも

静かに眠っている森の動物たちの寝顔を見て回ったり,

森で一番高い木に登って,お月様に向かって目いっぱい手を伸ばしたり。



ああ,きれいだったなあ。あのお月様は。




なあんて思い出していると彼の1日は終わってしまうのだ。


いけない,いけない。あの日のお話はあの日のもの。

このお話は本棚に仕舞って,今日を楽しまなくちゃ。


空っぽで静かな“小さなお部屋”にある,

“大きな大きな本棚”にはたくさんのお話が仕舞ってあります。


わくわくどきどき。なみだがほろほろ。こわくてぶるり。


それでも大きな本棚はまだまだ淋しげです。彼は考えました。

大きな本棚をいっぱいにしたい。そのためにはお話が足りない。


それなら自分が考えればいいのだ。自分が考えてお話にすればいいのだ。


だから彼は考えるのです。

本棚がいっぱいになるその日まで,楽しかったあの日は仕舞い込んで,

今日もまた新しくて楽しいお話を考えるのです。




小さな部屋の大きな本棚。






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