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「人間の心に悪がある限り――」

「では、最後に断末魔について」

「待て、それは必要か?」

「万が一という事もあります。魔王様の今際の一言は人間たちの歴史でも語り継がれることになるでしょう」

「ならば中途半端な言葉は使えぬな」

「では、意見を」


手が挙がる。


「ガルーダよ。発言を許す」

「勇者たちは魔王様を倒したのです。それは褒められるべき事かと」

「むむ……死にかけのわずかな時間でも褒めてやらねばなるまいか」

「戦果に見合った栄誉は与えられるべきですな」

「仕方ない。『よくぞ余を打ち倒した』から始めるか」

「他に意見のある者は?」


数多くの手が挙がる。

その中で、前脚を上げるために立ち上がった気概を見せたものを指名する。


「ドラゴンよ。意見を述べるがよい」

「しかし、勇者たちを満足感のまま帰らせるのも口惜しいかと思います。ここは不安を煽り立てるような言葉で魔王様の恐怖を残すというのはいかがでしょう?」

「具体的には」

「『余はいつか蘇る』と言った感じで魔王様の復活を示唆する発言などいかがでしょう?」

「だが、余は一度死ねば蘇れぬぞ?」

「あくまで人間の心理を縛ることが目的です。『人間の心に悪がある限り』と一言付け加えるだけで十分かと」

「なるほど。ならば後世に魔王様の名と畏怖が伝わりますな」

「見事だドラゴン」

「ありがたき幸せ」


「では『よくぞ余を打ち倒した。だが、人間の心に悪がある限り、余は蘇る』で確定ですかな?」

「悪くはないが、何か足りないな」

「恐れながら」


手が挙がる。


「フェアリーか。述べよ」

「最後に復活の時を楽しみにしているような演出を加えるのはどうですか?」

「ふむ。具体的には?」

「笑いながら死んでいくなんてどうでしょう?」

「これから死ぬというのに笑っていくとは……これは恐ろしい演出ですな」

「だが、死に際だぞ?そんな余裕があるのだろうか……」

「そこは魔王様。人生の幕引きを自ら飾るのですから頑張っていただかないと」

「くっ……今の内に鍛えておくか」


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