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変身

作者: 頭山怚朗

 私は作家である。


 ただし、ほとんど売れない作家だ。数年前、ある文芸誌に応募した作品が新人賞を取ったが、それ以来。これといった物を書けていない。一部、ほんの一部に私が書く物を熱心に読んでくれる人もいるが、そんな奇特な人は本当にほんの一部だ。いつかノーベル文学賞を取りたいと思っているが、そんなこと不可能なことは自分がよく分かっている。


 こんな夢をみた。

 大きなテーブルを挟んで十人くらい座っていた。ただし、人間でない。異星人だ。窓から月が見えた。赤い、血のような真っ赤な月と、冷たく、心も凍りつくように冷たく光る月。そこは地球でないことすら明らかだった。

「我々には共通点がある」と、テーブルの中央に座った獣が言った。彼の前には「議長」と書かれた小さな名札が置かれていた。「売れない作家だ。さらに共通の野望がある。“何時しか歴史の残る小説を書きたい”。でも、そんなこと不可能なのは自分自身よく分かっている。そこで、私から提案がある。それぞれが住む惑星の歴史上の名作を持ち寄り、他種族の歴史上の名作を自分の名前で発表する……」

「それでは盗作ではないか? 著作権法違反ではないか!? 」と、正面に座っていた獣が言った。

「いや、どうかな? 著作権はそれぞれが住む惑星上で有効であって、全く別の惑星には関係ない。想定外だ。……と思う。第一、何万光年も離れた惑星で起こったことなんて誰にも分からない……。 確かに、多少、心苦しいところはあるが、今、私はそんな四角四面のことを言っている状況ではない……」と、右隣の獣が言った。

「……」みんな、沈黙してしまった。皆、同じ事情なのだなと思った。

「結論が出たようですね」と、議長役の獣が言った。「それでは皆さんご使用にPCでそれぞれの惑星の名作をアップしてください。アップされた作品群から皆さんはお気に入りを自分の名前で発表する……。ただ、一つだけ、私から注意して置きたいことがあります。アップされた作品群のなかに“レッドブック”に指定された作品があります。これらの作品を自分が読んで楽しむ分には問題ありませんが、決して自分の名前で発表しないでください! 」

「……」

 議長は、一拍置いて、再びゆっくりと言った。「私は注意しましたよ」


「凄いですね……」と、文芸誌の編集者が言った。何時もの人を見下した目でなく、尊敬、畏怖にあふれていた。「ノーベル文学賞は勿論、五百年後、千年後の人類もあなたの作品を読んでいますよ」

「凄いですね……」と、H社の編集者が言った。「きっと人類の歴史に残るSFになりますよ。五百年後、千年後の人類もあなたの作品を読んでいますよ」

「凄いですね……」と、H社の編集者が言った。「きっと人類の歴史に残るミステリーになりますよ。あなたは純文学、SFだけでなくミステリーも一流だ。いや、超一流だ」

 “純文学”、“SF”、“ミステリー”。 “万能作家”として私は有名人になった。明日の生活の糧に心配することもなくなった。作家には、皆、共通の悩み、不安がある。“明日、起きたら一行も、一字も書けなくなくなっているのではないか? 才能が枯渇しているのではないか? ”

 でも、私にはその心配はない。私は何万光年を離れた惑星の誰かも知らない獣が書いた小説を自分の名前で、この惑星で発表するだけだ。“純文学”、“SF”、“ミステリー”。幾らでもある。今度は“恋愛小説”でも発表するか!?

 そんな私にも、一つだけ気になることがある。“レッドブック”の中にある作品だ。どうしても気になってしようがない。どうしても自分の名前で発表したい。でも、駄目だ! 

 ふと、あの時、右隣に座った獣の言葉を思い出した。「何万光年も離れた惑星で起こったことなんて誰にも分からない……」

 私は<それ>を発表した。<それ>は世界中で話題になった。


 ある朝、私が気がかりな夢から目覚めたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変わってしまっているのに気づいた……。


ヤフーブログに再投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです。 一つ気になることがあるのですが、もしかして、カフカの『変身』から触発されましたか?
2016/02/11 11:36 退会済み
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