日向
こざっぱりとしたシンプルな部屋だと常々思う。
壁紙は薄いブルーで、床はダークブラウンの落ち着いた感じ。カーテンは濃いブルーで、壁には時計とカレンダー。あとはもう勉強机とベッドに低い円形のテーブルとクッション。締め切ったクローゼットにはどんな服があるのやら。
必要な物だけ。整理整頓された棚には参考書とマンガや小説が少しあるだけの。
ごくごく普通の部屋だ。
いつ来ても片付いているのはこの男の性分なのだろう。
小学生以来の付き合いになる幼馴染の部屋にテスト勉強しに来ている。
彼はといえば、飲み物とお菓子を取りに階下へ向かった。
ちょっとした、本当にちょっとした出来心でベッドの下を覗き込む。
バタン
「………。」
ちょっとおっかないオーラを感じて音のした方を振り返ると、彼が居た。
「……ほぉぉぉ。イイ度胸だ。」
「…で、出来心でっ」
思いっきり引き攣った笑顔を向ければ、向かい合わせに座った彼が頬を思いっきり引っ張った。
「イッでででで!」
「何を探してんだっお前はっ!」
「ごっゴメンなヒャい」
そうなんとか言えば、ようやく手を離してくれたが、頬がジンジンして大変だ。
健全な青少年なのだから定番はベッドの下だろうと踏んだが、バレてしまったのだから仕方ない。諦めよう。
「ま、まあまあ、ジュースでも飲んで」
「オレがもってきたんだが?」
あははーと誤魔化し、ジュースを飲む。
何事もなかったかのように、とりあえずテストの山のわからない所を彼に聞いた。
短い息を吐き、彼はどれどれと教えてくれた。
少し骨張った長い指が文字を綴っている。
見慣れた風景だが、こうして年齢を重ねると不思議なもので、少しドキドキしたりする。
「……で、ここはこの公式を使って……」
ふんふんと、聞いてみると自分のつまずいた場所かよくわかる。
数学が得意な彼によくこうして聞くようになったのはいつだったろう。
すごく前のような気もするがごく最近のような気もする。
ひと段落して、お菓子をつまみながら窓の外を眺めてみる。
今日はいい天気だった。雲の少ない綺麗な青空の広がるこんな日は散歩すればさぞ気持ち良いのだろうに。
そんな事を考えていると、彼が不意に頬へ口付けた。
軽いリップ音が響く。
健康的な青年を地で行く彼でもさらっとこんな事をされるとこちらは照れるのだという事を学んで欲しいものだ。いや、そんな彼だからこそなのだろうか。
鳴り止まない心臓に、戸惑う。
小学生の時に出会い、よく遊びお泊まりした仲でも、ある時を境にそれは別の意味を持つようになって。
そうしてすこし離れた時もあったけれど。
またこんな風に前以上に近い存在になった時から関係は変わったが、心臓だけはその頃からあんまり変わることなくドキドキして困る。
すっと抱き寄せられて、その肩に頭を預けた、そんな午後。
穏やかなこの日々に。
わたしは日向のようなこの腕の中を知るのだ。
そしてそっと微笑む。