1話目
『彼』がこの街で最初に会ったのは、一人の少女だった。
「あんた、誰?」
「……」
「アタシ、これから死ぬの。邪魔しないでよね」
「……勝手にしろ。俺は貴様の死後に用がある」
桜の花弁が舞っている橋の上。
少女は欄干から降りると、『彼』に説明を求めた。
「……貴様が死んだ後に残る魂に用があるだけだ」
「ふーん。じゃあ、死ぬの止めた」
「……」
「死んで人の役に立つとか御免よ。アタシは死んで、クラスの奴等を呪い殺したいの」
「……そんな事、死ななくても出来るだろ」
『彼』は袂から、掌に収まる大きさの人形を取り出した。
人形は道化師の姿をしており、背中にはファスナーが付いていた。
「俗に言う、呪いの藁人形だ。見た目はアレだがな」
「効果なさそう。てか、本物?」
「試せば良いだろ」
『彼』は、いきなり少女の髪を一本抜いた。
「痛いっ! 何すんのよ!」
「呪いたい相手の髪の毛とか爪とか皮膚とか……何でも良い。相手の肉体の一部を、人形の背中に入れる。同時に相手の名前を書いた紙も入れると、確実だがな」
『彼』は手に入れた少女の髪を、道化師の背中に入れる。そして、親指と人差し指で、道化師の首を摘まむ。
黙って見ていた少女が、急に首を押さえ、欄干に寄りかかる。
「……っ! ……!」
声にならない声を発しながら、少女は『彼』を睨み付ける。
少女を見下す『彼』の眼は、冷やかで、何処か無邪気さを覗かせていた。
『彼』が指に力を込める。
鈍い音が周囲に響き、少女は仰向けで、欄干にもたれかかった。
「……手間、かけさすな」
『彼』は少女の足を持ち上げると、簡単に、川の中へと消えていった。
『彼』の前に残ったのは、黒い球体。
「これは、黒すぎないか?」
「余にしてみれば、まだまだ足りないくらいだ」
球体に手を伸ばした『彼』の後ろから、傘を差した『人影』が近づいてきた。
「貴様か。来ているなら手伝えと、何時も言っているだろうが」
「何を言う。余が見つけて、そなたが回収する。そういう決まりでろう」
ゴシックロリータに身を包んだ『人影』は、『彼』の横を通って、球体に触れた。
球体はその形を失い、『人影』の手へと吸収されていった。
「良い濃さだった。だが、まだまだだな」
「……まだ集めろってか」
「余が余となるためだ。仕方あるまい?」
「仕方なくねーよ」
『彼』は『人影』に背を向け、袂から一本の煙管を取り出すと、慣れた手付きで火を入れた。
『人影』は一服する『彼』を横目で見てから歩き出した。
「久しぶりの地で余も疲れた。先に休むぞ」
「御勝手に」
歩き出した『人影』は、突風が起こした花吹雪の中へと消えていった。
その花吹雪は、『彼』の姿も飲み込んでしまっていた。
その場に残ったのは、岩に引っ掛かった、首の骨が折れた少女の亡骸だけだった。




