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人なんて勝手に傷ついて勝手に助かって勝手に救われるだけだから

作者: トレクナル

 人なんて薄情なもので、中学まで親友と言っていたあの子も、高校が別々になり、一月逢わなかっただけで、街ですれ違っても会釈すらしない仲になってしまう。……顔が変わったとか化粧をしてたわけでもないのに。

 高校では一カ月も経ったのにトモダチの一人もできない。きっと私から話しかけないせいもあると思う。でも、どうせ忘れられるなら、忘れられたことを悲しむような仲にならない方がいい。だって一番辛いことはこっちは覚えてるのに、向こうが忘れてること。自分だけが過去に囚われてしまうことだ。逃避じゃなくて、予防。

 まあ、そんな当たり前のことを言ったところで誰にも気付かれないのは嫌なわけで、だからこそこんな馬鹿げたことをやってしまうんだ。



 人が滅多に来ない4階。その中でも一番日当たりが悪く怖がりの人なんて絶対近付けないような教室の黒板に落書きをする。

 Tiramisuだなんて気取ってイタリア語で書いてみた。とにかく好きなケーキを書いた。美味しいからね。

 まあ、取り敢えず三日間そのままにしといて、何もなかったらもうここには来ない。またこの一ケ月のように誰の記憶にも残らない悲しい哀しい女子高校生でいよう。何かなったら……その時はその時に考えよう。



 三日前は何にも起こらなくて、三年間悲しい女子高校生だと思っていた。何かあったらなんて妄想で終わると思っていた。でも、その何かがあった。

 あれから二日間は私の書いたTiramisuの文字は私が書いたまんま残っていた。だから自分が決めた、三日という期日の最終日にもそれは残っていると思った。でも、消えていた。私の書いたTiramisuの文字は誰かに消されていた。

 最初、先生か事務員の人が掃除をしたときに消したのかな、と思っていた。だからまた書いた。前とおんなじTiramisuの文字を。



 私のTiramisuが消された日から一週間が経った。私は学校がある日は毎日Tiramisuの文字をあの黒板に書いてた。そして私が行く頃には前の日に書いたTiramisuの文字は消されていた。一週間が経つ頃には、もう私は誰が何のためにTiramisuの文字を消しているのかが気にならなくなっていた。誰も来ないようなところの私の書く文字が、誰かの目に留まり、消すために態々動いてくれてることがたまらなく嬉しかった。



 まだ、書いている。また、書きにきている。

 ほぼ毎日ここに来てはTiramisuの文字を書いている。

 最初の方は消されて嬉しいよりも、私の行動のために態々何かしてくれてる、ということが嬉しかった。でも最近は私の書いたTiramisuの文字が消されることが嬉しい。何せ何かを消すというのは、それがあると認識して、他の人のようにそれを無視して過ぎ去ろうとすることができず、足を止めてこっちに近付いてきて消していってくれるのだ。それは嬉しい。私を認識してくれることが嬉しい。態々私のために足を止めてくれることが嬉しい。

 私が書いた文字を消してくれるのが、嬉しい。



 書いては消される、消されては書く。そんな日課が続いてたある日、何時ものように4階の日当たり最悪の教室に行ってみると、そこには私が書いたTiramisuの文字が残っていた。



 あの、Tiramisuが消されてなかった日から毎日あの教室に行った。もちろん黒板にはTiramisuの8文字がある。何時まで経っても消されない8文字が。

 そして今日、クラスの人のお喋りに聞き耳をたてていると、興味深いことを話していた。なんでもその話している人の部活の先輩が持病で入院したという話だった。きっと普段ならこんな話気にも留めなかっただろう。しかしその先輩さんが入院したという日が、ちょうどTiramisuが消されなかった日と同じだったのだ。これなら期待してしまうだろう。その人が私を認識してくれてた人かもしれないと。

 勿論そんなの妄想で、真実でも事実でもない。もしかしたらその先輩さんが入院した日と私のTiramisuを消してくれてた人が消すのに飽きた日が偶々被っただけなのかもしれない。

 でも、と思う。期待したい、と思う。女子高校生なんだ、そんな素敵な不運に期待してしまいたい。だから私は決めた。きっと素敵な再会になるだろう切っ掛けを守ると。



 私は書く。私は消す。毎日毎日飽きもせず。私が消さなくても、このTiramisuの8文字が消されている日が来るのを信じて。


 Tiramisuで検索をかけてみれば何故Tiramisuにしたのか(裏の意味が)わかります。

 類似作品があればご報告よろしくお願いします。

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