美術部、またの名を女オタの巣窟
この小説はセリフのみで構成されています。苦手な方はご注意ください。
◇月曜日
「あー、もうっ。
誰よ、文化祭で手描きポスカ配布とか言い出したのー!」
「描いても描いても終わらない……っ」
「もう手が痛いよぉーっ」
「うぅー、小人の靴屋みたいに寝てる間に完成してたりしないかなぁ」
「ないない」
「小人の靴屋と言えばさー、登場人物のおじいちゃんプライドないよね」
「ん? 何、どゆこと?」
「だからさー。
靴屋としてのプライドがあったら、誰が作ったかも知れない靴とか売らないでしょって」
「要するに、靴職人としての誇りどこ行ったって話?」
「自分の作品が勝手に仕上げられててさ、しかも自分の作った物より完成度が高いんだよ」
「あー、絵で考えると確かに。ソレやられたら、悔しいし怖いわ。
とてもじゃないけど、私の作品とか言って発表ってぇのは無理だね」
「でもホラ、おじいさんにはおばあさんがいたし。
生活がかかってたら、プライドより実をとっても仕方がないんじゃない」
「一家の長としての責任ってやつ?」
「えぇー、そんな葛藤描写なかったじゃん」
「むしろ、『ウヒョー! 靴が売れたじょー! 次もシクヨロー♪』って、ノリノリだったよね」
「どんなノリだよ……」
「とどのつまり、おじいさんは職人というより商売人寄りの人間だったんでしょ」
「あー。そっか、そう考えるとしっくり来るわ」
「などと、皆がくっちゃべっている間に、堅実な私はノルマの五十枚を達成したのであった」
「えっ! うそ、早っ!」
「ズルいー!」
「終わったんなら手伝ってよー!」
「断わる! 断固断る!!」
「協調性ってやつ大事にしようや、日本人ーん」
「残念、私はノーと言える日本人だ!
というワケで、美術部員はクールに去るぜ! アデュー!」
「……うはぁ、マジで帰ったよアイツ」
「くっそぉ、いいなぁ」
「あーあぁ、本当に作品を代わりに仕上げてくれる小人がいたらなぁ」
「案外、童話の作者もそういう心境の時に産み出した話だったりしてね」
「いつの時代も、人間の考えることは一緒ってヤツかー」
「世知辛い世の中だぁねぇ」
「それは何か違う」
◇火曜日
「そういやさぁ、前の日曜に市立美術館に行ったんだけど」
「あぁ、先週くらいから展示内容が変わったんだっけ?」
「へー、そうなんだ」
「で、行ってみてどうだったの?」
「それがさー。
帰りがけに同じ電車内で痴漢騒ぎがあってさー」
「うわ、マジ?」
「サイッテー!」
「まぁ、やった奴は現行犯逮捕されたし、ソレは良いんだけど……」
「けど、何」
「女性専用車両ってあるじゃん」
「あるね」
「その専用車両に対して自意識過剰がどうとか言う男がいるじゃん」
「あぁ、いるいる」
「アレ、ムカつくよねー」
「で、さぁ。そういうコメントする人にさぁ」
「うん」
「ちょっとアレな例えだけど、屈強なゲイがぎっしりの車両に意気揚々と乗っていけるのかって聞きたいの、私」
「あー…………無理じゃね?」
「だよねぇー。
そういう、こう、なんてーの?
根源的な恐怖にさ。見た目なんか関係ないんだって、どうして気付かないのかなぁ」
「単純に想像力の問題でしょ」
「てゆーか、逆にブサイクの方が痴漢とか怖いよ。
だって、ブスだと周りの人に勘違いじゃないのかって思われるかもしれないし。
ブスだと勇気出して痴漢ですって言ったとして、心配より先にウルサいって思われるかもしれないし。
あと、ブスだと触られて逆に良い経験になったじゃーんなんて言ってバカにされるかもしれないでしょ?」
「……それは、さすがにネガティブすぎると思うの」
「えー。私、そう考えちゃう気持ち分かるけどなぁ」
「マジで」
「それはそうとさぁ」
「はいはい」
「美術館はどうだったの?」
「あっ。
あぁ、うん。リトグラフの原版展やってたよ」
「おっ、いいじゃん」
「それでそれで?」
「うん。そっち方面、専攻じゃないから良く分からなかったテヘペロ☆」
「ズコーッ!!」
「うわ、口でズコーって言った、今」
「そもそも、足ずっこけって……昭和か」
「好きなんだよ、放っとけ」
◇水曜日
「キャラクターってさ」
「はぁ」
「リアルの自分に一切関わりようのない二次元の存在だから愛せるのであって、実際、現実にいたらドン引き通り越して恐怖すら覚える自信があるよ」
「それって、単にアンタの好きキャラがマジキチばっかだからっしょ」
「即斬りかよ」
「試しに漫画で一番好きなキャラ言ってみ?」
「レロレロチェリーメロンボーイ」
「んじゃ、アニメだと?」
「蝶サイコーな元病弱少年」
「ゲームは?」
「ジパング一の伊達男。ただしピンクタイフーンの方」
「……全員もれなくマジキチのド変態です。
本当にありがとうございました」
「今ので分かるアンタも相当じゃね!?」
「そもそも、普通の女の子は少女マンガのヒーローみたいな、実際いたら素敵なのになってタイプを愛でるから、三次元になっても特に問題にはならないと思う」
「えぇー、マジかー。
あんな恋愛脳で主人公を甘やかしてばっかの男連中、結婚詐欺師みたいで苦手だよ」
「ひどい言われようだ」
「んじゃ、逆に聞くけど。漫画で誰が好き?」
「老眼鏡紳士レストランのつまみ食い常習犯」
「アニメ」
「腐海一の剣士」
「ゲーム」
「ユグドラのガンルームに常駐してる卿」
「貴様、枯れ専かぁーーッ!
全っ然、人のこと言えた義理じゃねぇし!」
「何をー!?
そっちに比べりゃ、万倍まっとうじゃろがい!」
「一般人にとっちゃ、目くそ鼻くそじゃあーッ!」
「ヤんのかコラぁー!?」
「受けて立ったらぁーーッ!!」
「ちょっと、ちょっと! ケンカは止めなよー!
しかも、めっちゃ不毛!」
『ウルセー! 犯罪者予備軍!!』
「見て愛でてるだけで、触れたことも性的興奮を覚えたことも無いですけどぉ!?
犯罪者予備軍ってーなら、むしろ重度のケモナーの方がよっぽどレベル……」
「いやいやいや、さすがにリアル獣と獣人の区別くらいついてますからーーー!
ってか、何ナチュラルに巻き込んでんの!?
飛び火、ダメ、絶対!!」
「あぁもーーッ! アンタらいい加減、静かにしてよ!!
アイ〇ンコングMk-Ⅱが組み上がらないじゃないの!!」
「おい、部活中に何やってんだ!」
「せめて美術活動しろ、無機物生命体萌え女ぁー!!」
◇木曜日
「突然だけどさー。
皆は異世界に召喚されるとしたら、どんな世界がいい?」
「まぁ、無骨なロボがいっぱいのSF世界かな」
「ガチ獣人だらけの農耕世界希望」
「人間の出生率が高く、かつ少年期の長い世界だと最高」
「人が当たり前に寿命尽きるまで生きられる世界がいい」
「ちなみに、私は日本のオタ文化が世界中に浸透して武力による戦争が無くなった平行世界に行きたい」
「ちょっと待った。
平行世界も異世界に含まれるの?」
「次元の壁を越えたら、もう全部異世界かと思ってたけど」
「てか、普通に考えて今いるこの世界以外は全部異世界扱いでしょ」
「あー、ね」
「……しっかし、アレだなぁ。
みんな全然ブレないなぁ」
「オマエモナー」
「根っからなんだよ。根っから」
「じゃなきゃ、とっくに美術部辞めてるって」
「言えてる」
「顧問からして声オタだし?」
「あの人さー、何かと例えに声優出すの止めて欲しいわ」
「あぁー、分かる」
「私、前に油絵描いてた時、鬼畜眼鏡を演じてる森川みたいな感じでって言われたよ」
「何それ、意味が分からない」
「アドバイスどころか、混乱させに来てるよね」
「余所でも言ってんのかなぁ」
「さぁ」
「でも、言ってそう」
「だねぇ」
◇金曜日
「今日も元気だ、土曜が近ーい」
「懐かしいフレーズ使ってんなぁ」
「イエーイ、花金イエーイ」
「昔のOL?」
「ねーねー、誰かー。明日ヒマな人いるー?」
「なんぞ?」
「ちょっと臨時収入があってさぁ。
画材屋とオタショップ巡りをしたいんだけど、一人で都会まで赴く勇気がない」
「マジ? 私、欲しいトーンがあるんだけど」
「あんた、デジタル派じゃん!」
「はーい。私、新しい小筆が欲しいー」
「じゃ、私は切れかけてるドドメ色の油絵の具」
「スケッチブック」
「って、ちょ! ちょま、ちょっ、待っ!
なんでオゴる流れになってんの!?」
「付き添い代」
「指名料」
「臨時収入のおこぼれ狙い」
「ノリで」
「おーおー、厚い友情が目に沁みるわい!
ってーか、何。
みんな来るの? ヒマなの?」
「我ら誰一人彼氏すらいないオタ女集団にあって、何故その休日が充実していると思うのだね?」
「………………ですよねー!
仕方ないなー、せめて四人合わせて千円までで頼むわ」
「おぉっ!?」
「よっ、太っ腹ぁ!」
「ヒュウヒューウ」
「うーむ、千円か。順当に考えれば一人あたり二五〇円。
でも、いらない物を無理に買うのもアレだろうし、ちょいと相談タイムを提案する」
「相談賛成ー」
「良きにはからえー」
「ぶっちゃけ、ブツより二五〇円そのまま現金で欲しい」
「おとっつぁん、それは言わない約束よ」
「うわー、いるいる。こういう女。
とか言いつつ、同意見なんですけどねー!」
「てか、千円なんだけどさー。
分けるんじゃなくて、共用でデッサン人形とか買ったらダメ?」
「デッサン人形?」
「部費で買えないの?」
「部費で買ったら、着せ替えだのラクガキだの改造だの出来ないじゃん」
「それ完全に本来の目的を見失ってませんか!?」
「もし付喪神が宿ったら呪い殺されるレベルの冒涜ですね!?」
「でも、イイネ! 面白い!」
「私も有りだと思う」
「ねぇねぇ、オデコに穴掘って角設置しても良い?」
「ヨユー、ヨユー」
「これはちょっと……腕が鳴りますな」
「よーし、出資者フンパツして二千円出しちゃうぞー」
「キャー、パパステキー!」
「シャチョサン、ステキー!」
「しかし、さっきからまぁ……およそ女学生の取る反応じゃあねぇなぁ」
「何を今さら」
続…………かない。
キチ〇イラブ、枯れ専、ショタスキー、ケモナー、無機物生命体萌えの全五人でお送りしております。
おまけの小話↓
https://ncode.syosetu.com/n2319ci/8/