表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/76

それからの事 1


「……出て来ないな」


「やっぱり喰われたんじゃないか?」


「儀式の邪魔をしてなきゃ良いが……」


 口々に不安を漏らす村人に、老婆は嘆息した。


「うるっさいねぇ。そんなに気になるなら見て来れば良いだろう? ここでごちゃごちゃ言ってて何か変わるのかい?」


「そんな事言ったって……」


 村人の一人が反論しかけた――その時。


「おいっ! 誰か出て来たぞ!」


「何っ!?」


 その場に居た者全員、洞窟の方へ視線を向ける。

 洞窟から出て来たのは――銀髪の青年。


「あっ……」


「……ふん。やっぱりね」


「…………」


 村人には目もくれず、青年は真っ直ぐ歩いて行く。

 彼には何か近寄り難い雰囲気があり、村人は黙って道を開ける。


「……何か……声掛けられる雰囲気じゃなかった」


「……ああ」


 それから僅かに遅れて、声が聞こえてきた。


「ちょっと待って下さ~いっ!」


「小夜っ!?」


 青年――大和から少し遅れて、洞窟から小夜が小走りで出てくる。

 村人は彼女を引き止めた。


「あ。皆さん」


「小夜! お前、何で出て来たんだっ!? 儀式はどうしたっ!?」


 訊かれて、小夜は笑顔で答えた。


「儀式なら終わりました。もう生け贄を捧げる必要はありません」


「……何だって?」


 小夜は大和の背中に視線を向け、


「あの人が……大和さんが妖魔を退治してくれました。だから……もう大丈夫です」


「そんな……まさか……」


「生きて私が出て来たのが証拠です」


 信じられない様子の村人に、小夜は洞窟を指さし、


「嘘だと思うなら行って確かめて下さい。奥にバラバラになった妖魔の死体がありますから」


      ◆◇◆◇◆


「…………」


 大和は無言で歩く。

 と――


「……また寿命が延びちまったねぇ……」


「…………」


 その声に、大和は足を止めた。

 声のした方を見やる。声の主は、あの時の老婆だった。

 老婆は皮肉げな笑みを浮かべ、


「やっとじいさんのトコロへ逝けると思ったんだけどね」


「そんなに死に急がなくても、近いうちに迎えが来るだろ?」


「ふん。言うじゃないか」


 老婆はこちらに歩み寄る。


「けど意外とお前さんより長生きするかもしれないよ?」


「……いつまで生きるつもりだ」


「お前さんが早死にするかもしれないだろう?」


「…………」


 大和は半眼で老婆を見据えた。


「若いからってあんなモンに喧嘩売ってたら、命がいくつあっても足りゃしないよ。無茶もほどほどにするんだね」


 言われて、大和は低く呻く。


「……別に売りたくて喧嘩売ってる訳じゃない。今回のは成り行きだ」


「…………」


 老婆はため息をついた。

 大和の方へ向き直り、


「……ありがとうね」


 突然礼を言い出す老婆に、大和は怪訝な表情を浮かべた。


「……何がだ?」


「村を救ってくれて」


 大和は嘆息まじりに口を開く。


「別にそんなつもりじゃない。礼を言われるような事はしてない」


「こういうのは、お前さんがどういうつもりかより、周りの人間がどう感じるかだと思うけどねぇ?」


「…………」


「ありがとうって言ってるんだから、素直に『どういたしまして』で良いじゃないか」


「……どういたしまして」


 顔を背け、大和が呻く。

 そのまま歩き出す大和を、老婆が呼び止めた。


「ちょいとお待ち」


「……今度は何だ」


「礼と言っちゃあなんだが……お前さんに一つ良い事を教えてあげるよ」


「……良い事?」


 大和が振り返る。

 老婆が頷く。


「そ。お前さんの……未来」


「……未来?」


「あたしはちっと占いをかじっててね。少し先の事が分かるのさ。未来って言っても、そんな何十年も先の話じゃない……そうだね。数日後の話かねぇ」


「何だそりゃ」


 大和は眉根を寄せる。


「まぁお聞き」


 老婆はもったいつけるように目を閉じ、ゆっくりと言ってきた。


「お前さん……数日後、とっ……ても面倒なモノを背負い込む事になりそうだよ」


「……はぁ?」


 大和は訝しげな顔をして、


「それ……良い事か?」


「良い事だろ? 何かあるのを事前に知る事が出来たんだから。色々準備も出来る」


「何かって……面倒なモノって何だ?」


 大和が訊くと、老婆は笑った。


「そりゃじきに分かるよ」


「……アンタ、最初に会った時もそんな事言ってた」


「おや。覚えてたのかい。すぐ分かったろ? 今回もすぐ分かる」


「分かってからじゃ、遅いんじゃないのか?」


 疑わしげな眼差しを向ける大和に、老婆は人差し指をピッと立てる。


「そうだねぇ……じゃあもう一つ」


「…………」


 老婆はニヤリと笑い、


「ソイツはお前さんが苦手そうなモノだ」


「苦手そうなモノ……?」


 大和が首を傾げる。

 老婆は頷いて、何やら意味ありげな視線を向けてきた。


「アンタ……なかなか良い男だけど、女の匂いはしないからね。そういうのは扱いに困るんじゃないのかい?」


「……女?」


 ますます困惑の色を強める大和に、老婆は心底面白そうに笑う。

 踵を返し、


「まぁそう難しく考える必要は無いさ。ソイツはほっといても、向こうからお前さんの所へやって来る」


「……アンタの話は結局よく分からん」


「ちょっとした忠告だよ。信じる信じないは自由さ。後は自分の頭で考えるんだね」


「…………」


 老婆はそのまま笑いながら去って行った。

 結局その後、大和に残されたのは、訳の分からない疑念だけ。有り難くも何ともない戯言にしか聞こえなかった。

 数日後、自分の所へ何か面倒なモノが舞い込んで来る――らしい――という何とも曖昧な忠告。

 そんな曖昧なモノに対して、何をどう備えろというのか。

 大和は目を閉じ――深々と嘆息した。

 その時――


「大和さーんっ!」


「…………」


 呼ばれて、大和が振り返る。

 見ると、小夜と村人が駆けてくるのが見えた。

 村人達は大和を取り囲む。


「話は小夜から聞いた! いや……ありがとう! 本当にアンタは村の恩人だ!」


「これで安心して暮らせるようになった!」


「…………」


 すっかり浮かれた調子で騒ぎ立てる村人に、大和は一言告げた。


「……俺に礼を言う暇があったら、先に犠牲になった奴らを弔ってやれ」


「…………」


 その場の空気が一気に冷える。

 大和は踵を返し、歩き出した。

 この村を最初に巡った時、それらしい墓は無かった。妖魔に喰われれば、骨の一つも残らない。

 何もかもを喰らい尽くされ――その上、墓も無く自分達が犠牲になった事すら忘れられてしまう。

 それは……あまりにも哀れだ。

 小夜は村人達に頭を下げ、大和の後を追う。

 彼に追い付いて、小夜は口を開いた。


「本当に……ありがとうございます。村の人達は……自分達のしてきた恐ろしい事に気付いてくれるでしょう。この村は……きっと変わります」


「……どうだろうな」


 そんな所まで知った事では無い。また興味も無かった。

 これから先の事は、この村に住む連中の問題だ。思わぬ形で騒ぎに巻き込まれたが、それが済めばこの村に用は無い。

 大和が村の外に足を向けた――その時。

 小夜が大和の腕を掴んで引っ張る。

 一瞬、体勢を崩し――大和は驚いて、思わず声をあげた。


「っと……何だ! いきなり!」


 小夜は腕を掴んだまま、


「何処へ行くんですか!?」


「何処って……そんなの俺の勝手……」


 小夜はかぶりを振って、大和の言葉を遮る。


「ダメです! 傷の手当てもしてないのにっ!」


「なっ……」


 必死に言ってくる小夜の表情を見て、大和は言葉を詰まらせた。

 ――が、彼女の手を振り払い、


「手当てなんか必要無い。かすり傷だ。さっきもそう言っただろ」


「かすり傷じゃないですよ!」


 明るい所に出て、改めて彼の体を見ると、深い傷や激しい出血は見当たらないものの、やはり痛々しい。

 小夜は再び大和の腕を掴む。

 少し俯いて、


「……傷の手当てくらいさせて下さい。他に出来る事も無いですし……」


「…………」


 大和は深いため息をついた。


「……分かった。分かったから手を離せ」


 大和がそう言うと、小夜はぱっと表情を明るくした。大和の腕を引っ張ったまま歩き出す。


「本当ですか!? じゃあ、早く行きましょう!」


「だから手を離せって……」


 こちらの言葉は無視して腕を引っ張る小夜に、大和は疲れたように呻いた。



「ちょっと待ってて下さいね」


 小夜の家に着いて、大和は小さく息を吐いた。

 彼女が薬を持って来る間、部屋で待たされる。


「…………」


 早くこの村を出たかった。

 これ以上、面倒な事は起こらないだろうが、長居したくなる場所ではない。

 ぼんやりと天井を眺め――ふと、大和は我知らず目を閉じそうになっている事を自覚し、かぶりを振る。

 瞼が重い。

 そういえば、昨日はほとんど寝ていなかった。ついでに、この村へ着くまでの間も野宿続きで、まともに眠れていない。

 その上、使い慣れない力を使ったのだから、疲労感を覚えるのは無理もない。

 大和は、その場にくずおれるように倒れ込む。

 彼が眠りに落ちるのに、そう時間は掛からなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ