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子供達の事情 7

 

「…………」


 子供達は手を振りながら、人混みに消えていく……

 菊助は一人俯いていたが――やがて顔を上げると振り返り、


「大和っ!」


 呼ばれて――大和はそちらに顔を向ける。


「…………」


「……その……ごめんっ! ありがとうっ!」


 大声でそう言って、菊助は走り去って行った。

 暫く菊助らが去って行った方を見やっていると、


「ほい。ご苦労さん」


 そう言って、斬影が頭の上に紙袋を乗せてきた。

 大和は、その紙袋を腕の中に抱え直す。

 紙袋の中には――桜餅が入っていた。


「どうだった? 初めて友達と遊びに出掛けた感想は?」


「疲れた」


 訊かれて、大和は即答する。


「……大体、遊びに出掛けたって……自分の住んでる山を歩いただけだ」


「……そりゃそうだが……一人の時と他に誰か居る時とでは、こう……山の見え方も変わってくるだろ」


「面倒が増えただけ」


「…………」


 どこまでも淡々と言う大和に、斬影は嘆息した。


「……斬影」


「ん~? 何だ?」


 珍しくこちらに呼び掛け――大和は、一拍置いて口を開く。


「子供ってめんどくさいな」


「…………」


 それを聞いて――斬影は、軽くこめかみの辺りを押さえる。

 ぽん、と大和の頭を叩き、


「……一応、君も子供だからね……? 大和君」


 それには返さず、大和は無言で腰に差してあった刀を斬影の前に差し出した。


「返す。このなまくら」


「なまくらって……役に立ったろうが。お前にゃこれで充分だ」


 大和から刀を受け取り、斬影がぼやく。


「……何で“それ”が役に立ったって知ってるんだ?」


「へっ?」


 横目で睨みやり、大和が低い声音で問い掛ける。

 訊かれて――斬影は引き攣った笑みを浮かべた。


「何でって……そりゃあれだ。ええと……」


「…………」


 冷たい視線を浴びて、斬影は言葉を探す。


「ほら……お前に桜餅買ってやらないといけないからな? そんで山を下りたら、たまたまだな……」


「…………」


 弁解を続ける斬影は無視して、大和が呟く。


「……見てたなら助けろ」


「うっ」


 低く呻いて――やがて、諦めたように息を吐く。


「あー……あれだ。一応、行こうとは思ったんだけどよ。お前の方が早かったからな」


「…………」


 未だに半眼でこちらを見据える大和に、斬影は口早に言い訳じみた言葉を並べる。


「違うぞ! 別にお前の実力を信用してないとかじゃないぞ? そうじゃないけど……もしも万が一、何かの間違いで妖魔に喰われでもしたら問題だからな? 俺は保護者として……」


「……別にいいけど……」


 大和は嘆息して、斬影から視線を外す。

 斬影はホッと息をついて、


「それにな。俺が出て行ったら冒険の楽しみが減るだろう?」


「……知らん」


 それきり大和は口を閉ざす。

 斬影は苦笑しながら大和の頭を撫でた。



 後日。

 菊助達が持ち帰った妖魔の話と妖魔の羽は、それは大層町の子供達に羨ましがられたというが――


 それはまた別の話。



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