序章
その村は昔、突如現れた一匹の鬼によって壊滅的な打撃を受けた。
夜毎に現れるその鬼は、村人を喰い殺し、女を攫っていく。
やがて鬼は一人の退魔師によって封じられるが、鬼を封じたとされる祠と鬼の伝説は、今なお、村人の間で恐れられていた。
◆◇◆◇◆
ある時、その村で一人の女が子を産んだ。その子供は産まれてからただの一度も声を上げなかった。
その子供を見た女は、震える声音で呟く。
「……なんてこと……」
女は、子供が声を上げなかった事よりも、その子供の髪と眼の色を見て顔を両手で覆った。
その子供の髪の色は白。
そして眼は、まるで血のような紅い色をしていた。
「……まさか……あの鬼の子が産まれるなんて……」
女は絶望していた。
自分には鬼の血が流れていたのだ。かつて、この村を恐怖と絶望の淵に突き落とした――あの鬼の血が。
女は、この時まで自分の体に鬼の血が流れている事を知らなかった。
鬼の血を引く者は、産まれた子供が女児であった場合、見た目は普通の人間と何ら変わりは無いが、男児の場合、必ず鬼の証である白い髪と紅い眼を持って産まれたという。
そして、鬼の血を引く者は母も子も処刑される。
女は夜中、子供を布でくるんで抱き上げると、一人で山へ向かった。
身も凍る様な寒い冬の夜。
しんしんと雪が降る中、女はその子供を山へ捨てた。
子を捨て、村へ戻った女を待っていたのは、武器を構えた村人だった。
鬼の血を引く者だと知られた女は村人に殺された。