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星がまたたく夜。わたしは駅近くの駐車場に車を停めた。
活気づいた繁華街の片隅に狭い路地があり、そこを少し行けば自販機があるのを知っていた。人気はない。街灯は消えている、かと思ったら、突然役目を思い出したかのように光ったりする。だから足元に注意をしていたのだが、パッと明るくなった瞬間、あわや情けない悲鳴をあげるところだった。
真横に死体――ではなく、人が寝ていた。道の脇がゴミ置き場になっていて、そこに酒臭い男がゴミ袋を枕にして泥のように眠っていた。
「おい、大丈夫か?」
ゆすったり軽く叩いてみたりしたのだが、一向に起きる気配がない。
わたしはつい笑みをもらした――完璧な人間など有り得ないものだ。男の身なりから察するに、きっと社会では成功者と呼ばれる存在なのだろう。そういう人間も、酒に溺れて失敗する。
乱れたスーツを直してやりながら、「風邪ひくぞ」とつぶやく。
懐から自分の財布を取り出してその場を一旦離れ、目当ての自販機で天然水とコーラを買う。わたしはコーラを飲みながら引き返し、冷たい水の入ったペットボトルを男の手に握らせた。この道なら車にひかれる心配もないので、そのまま放置して通り過ぎる。
公園のベンチに腰掛け、しばらく街の様子をぼんやり眺める。
腕時計を確認すると、時刻は午後九時半になろうとしていた。
そんな時、何気なく見ていた居酒屋『美酒乱』から、黒いスーツを着た若いサラリーマン風の男が一人で出てきた。しっかりした足取りで、そのまま駅方面へと向かう。次いで、同じ店から女が顔を出した。男を見つけると、声をかけ、ふらふらとその後をついていく。
男は甚だ迷惑そうな様子で歩き続けるが、しつこくつきまとう女についに折れて振り返った。距離が遠いせいで会話の内容までは聞き取れないが、女は何か一方的に喋り、男はそれを冷静になだめているようだ。
わたしは近づいて、事の成り行きを見守ることにした。人情味のある顔をしているが、もしかしたらこの男は酔った女を道端に放ってゆくつもりではなかろうかと思ったからだ。
しかし、彼は不承不承といった態度ではあったが、結局肩をかして彼女の指差す駅とは逆方向に歩かせた。どうやら彼女の家はこの近くで、送ってやる気になったらしい。
途中、男は何度も立ち止まって道の確認をし、その度に女は「うーん、そうかも」などとはっきりしない返事をしたおかげで、普通に歩けば十五分の道のりを、倍以上の時間をかけて彼女の住むマンションまで連れていった。
まもなく一階の一室に明かりがつき、男はようやく解放されて安堵のため息でもついただろう。
わたしははっと我に返って無駄な時間浪費を悔み、急いで引き返して車に乗り込むと、一直線に家路を走らせた。
お読み頂きありがとうございます。
これではオチが意味不明だと思われますので、随時解説を投稿します。
物語の仕掛けに気付いて答え合わせがしたいという方も含めてそちらをご覧下さいませ。