1* 参加許可。
その少年は、彼自身の記憶が始まる前から「不幸な子だ」と言われ続けていた。
また、「不幸せな子だ」と言われた時に「『ふこう』と『ふしあわせ』ってどうちがうの?」と訊いたことがあるほどに無知だった。
初めてその問いを口にしたのは何年も前だが、その問いに対する答えをまだ与えられておらず、そもそもの言葉の意味が両方わからなかったために、少年は既に理解することを諦めていた。
そして、少年が不幸だと言われる原因だが――少年は物心がつく頃に、その時既に唯一の家族であった姉に、両親と同じ病によって先立たれたために現在天涯孤独であり、それどころか少年にもその病が遺伝している可能性があったからである。
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少年の住む町には、こんなささやかな言い伝えがあった。
――『星降る夜』に一人きりで願い事をすると、その願い事は叶う。
町最大の祭りである『流星祭』が行われる、流れ星が一年で最も多く降る夜のことを、町民たちは『星降る夜』と呼んでいる。
この祭りは、小さな田舎町が主催しているとは思えないほどの大規模な祭りのため、迷子になったら当日中には家族と合流出来ないと言われるほど混雑する。
しかし、町民の数少ない楽しみでもあったため、多くのひとが家族総出で出向き、お祭りの騒ぎの中、全員揃って行動していた。
そのため、言い伝えを実践することの出来る環境にいるひとはいないと言われている。
限りなく真実に近く言うなら――ただ一人、家族のいない『不幸な少年』を除いて。
少年は友人がいなかったのではなかったが、町の伝統として流星祭は家族で行くものと考えられているため、友人と祭に行ける可能性は零に等しかった。
もし、少年と友人達が子供では無いのならまだ可能性があったかもしれないが、彼らはまだ大人には程遠い。
大人では無い『少年』は、不幸の意味がわからなくとも、自分が独力で生きていけないことと、周りの世話に頼り切っていることは理解出来ていたため、少なくとも禁止されていることはしないように気を付けていた。
町の外からも大勢ひとがくる祭りのため、今まで祭りの会場に行く許可が出ることはなかったが、好奇心旺盛な少年は、許可が出ればすぐにでも祭りに行きたいと思っていた。
そして、今年、少年はようやく流星祭に出向くことを許された。
(続く)
13/2/4* 一箇所訂正。
13/2/12* 脱字修正。