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《Tale Gift Online》  作者: 半年
仮想世界 ―Tale World―
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二つの世界で生きるユウリ

 キ―ンコーン

 「はい、今日の授業はこれで終了。攻略に行く人は気を付けてください」

 「先生!今日もレベル上げに付き合ってくれませんか?もう少しで釣りスキルをマスターできそうなんですよ」

 「あーごめん、先生はこれからリアルの方で仕事があるから……。それで、明日はリアルの方の都合で授業はお休みです。もちろん攻略にも参加できません」

 「つまんねーの」

 「悪いねぇ……。先生も攻略に参加したかったんだけどなぁ」

 「またレアドロップ狙いだったりして」

 「ばれたか」

 「そうはさせないよー。ね、ユウリ」

 「え?ああ、そうだな」

 「ほしかったなぁ、《神弓ギルガメッシュ》。どうせユウリくんは剣士だから必要ないでしょうに。そうだ、宿題を減らすからさ、先生に譲ってくれないかな?」

 「ダメですよ。確かに、宿題免除は魅力的ですけど、この弓は予約が入っているんです」

 「あー、わかっちゃった。あのコでしょ?ナツミちゃん」

 「なになに?ユウリくんに彼女ができたってこと?」

 「違うよ、俺はあいつの師匠みたいなものなんだ。別にそういう関係じゃない」

 「ふーん、さっきまでナツミちゃんのことを考えて上の空だったくせにぃ」

 「授業にも集中できてなかったみたいだしな」

 「だからそういうのじゃないって!そんなことより先生、時間は大丈夫なんですか?」

 「おっといけないいけない、それじゃぁ明後日にまた」

 「「「さようならー」」」

 俺達の先生、《タチバナ》はログアウトした。

 


 エリア34《春の国》の町にある学校に俺達は通っている。

 授業は毎週四回行われている。

 ある私立高校が協力して、この《VRスクール》が設立されたことで、俺達は“学校に通えるようなった”のだ。

 これも我が伯父(おじ)のおかげだ。

 もとより、俺がこの世界で生きることができているのも伯父の力があってのことだ。

 現在、俺がいるのは《春の国》の町に建つプレイヤーホーム。この世界の、俺の家だ。

 そして、俺の目の前にはこの世界観に似合わないテレビ画面の様なオブジェクトが設置されている。

 しばらくすると、画面に()せ形の男の顔が映った。

 「久しぶりですね、おじさん」



 ◆◆◆



 「うん、元気そうで何よりだ」

 『おじさんは……ちょっと痩せました?』

 「そうかもしれないねぇ、最近は特に忙しいから」

 『おじさん』と呼ばれている男、『津上陽一』は苦笑いでそう言った。

 『ま、おじさんが忙しいのは今に始まったことじゃないし、気にしないでおくよ』

 「ひどいなぁ、ちょっとは心配してくれよ」

 『十分に元気そうじゃないか、どこを心配しろって?髪とか?』

 「最近は抜け毛が……って、この野郎!まだ私は剥げてないぞ!!」

 『ごめんごめん』

 画面の向こうでユウリが笑いながら謝る。

 「そんなことより、お前の身体の状態なんだが………」

 陽一が深刻そうな表情をする。

 『何か…問題でも?』

 「いや、異状なしだ」

 『おどかすなよ!』

 「あっははは!お返しだ」

 この後、三十分ほど他愛のない会話をし、ビデオ通話を終了した。

 


 「優亮(ゆうり)、私はお前にしたことを、正しいと思っているよ」

 陽一は、ベッドに眠る少年『津上優亮』に話しかける。

 優亮は眠ったまま、何の反応もない。

 この状態では彼と話すことはできないのだ。

 「これのおかげで、また優亮の笑顔を見ることができたのだから」

 優亮の頭を覆い被さっているヘッドギア型の機械を触る。

 細部のデザインが微妙に異なり、カラーはアルミシルバーになった、医療用のADダイバーだ。

 このADダイバーは一年以上ずっと優亮の頭に装着されたままだ。電源もオフになったことがない。

 つまり、優亮はTGOから一度もログアウトをしていないのだ。

 いや、ログアウトできないのだ。

 ログアウトすれば、彼はまた長い眠りにつくことになるのだから………。



 ◆◆◆



 伯父とのビデオ通話は月に二、三回している。

 簡単なメールのやり取りはいつでも送れるのだが、通話は伯父の仕事の都合で回数が限られている。

 この世界で暮らし始めて一年以上経つ。俺が現実世界のことを忘れないでいられるのは、伯父との通話、VRスクールがあるからだ。

 「俺はいつか、戻るんだ」

 俺は誰に言うでもなく、つぶやく。

 二年前、全てを失った俺は長い眠りの末、この世界に辿(たど)り着いた。

 この世界は今の俺にとっての現実だ。

 同じような境遇の仲間、供に冒険する友人、この世界には今の俺の全てがある。

 この広大なフィールドを眺めていると、この世界は永遠に続くような気がしてくる。

 だが、それは違う。いつか必ず、この世界に終わりが来る。

 ―――その時、俺達はどうなる?また長い眠りにつくのだろうか?

 俺はこの世界に感謝している、ずっと居たいと思う。

 でも、俺は現実をあきらめてはいない。

 VRスクールに通うのも現実に戻った時のことを考えているからだ。

 そして、俺は現実世界で生きなければいけない。生きて誰かのためになる事をしなければならない。

 ―――それが、あの事故でただ一人生き残ってしまった俺の義務なんだ。

 ポーン!

 攻略チームからのメッセージが届いていた。

 「そろそろ行かなくちゃな」

 俺は現時点での最強装備を身に(まと)い、メッセージを返信すると、プレイヤーホームを出た。

 



 

 


 

 

 


 

今回はユウリのリアルに触れた話になりました。

どうしてユウリが現実を失ったのか、ユウリが言う事故とは、陽一は何者なのか。

そして、いつになったらデスゲームになるのか。

しばらくは現実サイドの話が多くなりそうです。

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