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《Tale Gift Online》  作者: 半年
仮想世界 ―Tale World―
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はじめての出会い

 歩き出してから四十分ほどが経った。

 運良く、一度もモンスターにエンカウントしなかった。

 「もぉー!無理!」

 地面に座りこむ。

 この世界では疲れは感じないのだが、歩きっぱなしだと腰を降ろしたくなる。

 そこで、ある違和感を感じた。

 グチャッ……

 「何…これ?」

 地面がぬかるんでいる…?

 良く見ると、周りの木々はコケだらけになっている。

 「フィールドの属性が変わった?」

 先程までの《森林》から《沼地》に変わっている。

 名前で気付くべきだった……。《混沌の樹海》というからには属性は《混沌》だろう。

 《混沌》のフィールドは一定時間が経つとランダムで属性が変わるのだ。

 「えーっと、沼地の属性は確か…歩きづらい、だったかな」

 これでは敵から走って逃げることは難しい。

 初期ステータスのわたしが沼地で走れば確実に転ぶ。

 「うわぁ…お尻汚れてる」

 特に阻害効果(デバフ)がない汚れは一定時間が経てば消える。

 それでもこのままだと気持ち悪い。

 ハンカチなどのアイテムがあればすぐにふき取ることが出来るが、今は初期装備も何もない丸腰だ。

 「はぁ…もう落ちようかな……」

 再度ログインした時は《はじまりの村》に出るかもしれない。

 もし、またここに来たらGM(ゲームマスター)にコールしよう。

 メニューウインドウを開き、ログアウトボタンを押そうとした、その時だった!

 「なっ!?」

 異様な気配を感じ、振り向くと、そこには黒いマントの人影が浮いていた。

 顔はフードで隠れていて見ることができない。

 一つ、分かることがある。

 「こいつ、プレイヤーじゃない!!」

 身構えるわたしに黒マントは手を伸ばしてくる。

 「このっ!」

 わたしは反射的に手を弾くが、黒マントこと《タナトス・ハンド》のHP(ヒットポイント)はまったく削れていない。

 初期ステータスだから当たり前だろうが、この黒マントには半端なレベルでは勝てない気がする。

 あの手に触れられたらこの黒髪のアバターは一瞬で砕け散るだろう。

 HPを全損した直後にログアウトすると、再度ログインした時は前に死亡した位置に出ることになる。

 つまり、この状況でログアウトすることはできない。

 こうなったらあとは逃げるしかない。全速力で。初期ステータスだけど………。

 


 ◆◆◆

 


 「よし!一番の…り…じゃない?」

 この《混沌の樹海》があるエリア42《邪神の国》は数分前に開放されたばかりだ。

 他のプレイヤーが3人ほど追いかけてきたが、かなり距離が離れていた。

 樹海には俺以外のプレイヤーがいるはずがない。だが、俺の索敵スキルは確かにプレイヤーの反応を示している。

 気付かないうちに先を越されていたのだろうか。

 まぁ、そんなこと、良くあることだ。

 「ん?もう一つ反応が……モンスターか」

 早速、戦闘開始のようだ。

 さて、ここのモンスターはどんな攻撃をしてくるのだろうか。見物させてもらおう。

 俺は隠密スキルを発動し近づく。

 「お、女性プレイヤーか。モンスターの方は人型かな?」 

 黒髪の女性プレイヤーは黒マントの攻撃を紙一重でかわしている。

 「妙だな…なんで攻撃しないんだ?」 

 プレイヤーの方は攻撃をかわしている、というより逃げているのか? 

 それに、防具も何も着けていない。完全に初期装備だ。

 「どうしてこんなところにニュービーが!」 

 表情からして見るに、これは助けに入った方が良さそうだ。

 

 

 「セイヤァァァッ!!」

 脚を滑らせた少女に黒マントが襲いかかる寸前に、俺は片手剣単発技、《ストレングス》を振り下ろした。 

 スピードを重視する片手剣スキルには少ない力まかせの技だ。

 ある理由から筋力値を多く振っていたため、その分の威力も上乗せされた。

 黒マントの右腕は肘から先のところで切断された。

 「邪神にも物理攻撃は効くんだな」

 俺の片手剣、《タングステンソード・オーバーカスタム》は特殊属性を持たない、純粋な物理属性のみの剣だ。

 通常、《タングステンソード》のカスタムレベルは15までが限界だが、ある職人クラスのユニークスキルによって限界値を無視してさらにカスタムすることが可能だ。

 まぁ、すごくお金がかかるんだけど……。

 「いつもの戦い方で通用するなら、さっさと片付けるとするか」

 まだ、《タナトス・ハンド》は奥の手を持っているかもしれない。 

 もしそうなら、使われる前に斬り伏せるだけだ。

 「はぁぁっ!!」 

 これで一気に片をつける!

 俺が放ったのは《ライトニング・スクエア》、高速の四連撃技だ。

 全ての剣撃を撃ち終わると、《タナトス・ハンド》の体力ゲージは残り一ミリほどになっていた。

 そして、俺はスキルを撃ち終わった後の数秒の硬直時間に入っていた。

 その時、黒マントの目が赤く光ったと同時に、左腕をこちらに向けてきた。

 黒マントの左の掌から引力が発生し、俺は引き寄せられていく。

 数秒の硬直時間でも俺を捕らえるには十分だった。

 「ちっ!今ので削りきれていれば!」

 ふと、引き寄せられてい行く俺を、黒マントじゃない誰か掴んだ。

 ずっと俺の戦いを見ていた初期装備の女性プレイヤーだ。

 初期ステータスの彼女では俺を引き戻すことはできない。

 だが、一瞬でよかった。一瞬だけだが掴んでくれたおかげで、黒マントに捕まる前に硬直時間が解けたのだ。

 俺は突進技、《フルブレイド・ストライク》を放つ。

 引き寄せられる力を利用して突きだした刀身は敵の身体を大きく(えぐ)った。

 「オォォォォ……」

 低い断末魔の後、《タナトス・ハンド》は砕け散った。

 


 思ったより報酬が多かった。こいつはレアモンスターだったようだ。 

 あの掌に捕まっていればどんなダメージを受けたのだろうか……。

 タナトスというくらいだから、一気にHPを全損させられていたかもしれない。

 ともあれ、倒せたから良しとしよう。 

 まずはこの黒髪のプレイヤーに事情を聴かないとな。

 「俺はソロプレイヤーのユウリだ。見たところ初期装備だけど、なんでニュービーが最前線まで出てきてるのかな?」 

 「そんなの、わたしが知りたいよ!!」

 それがこの二人の最初の会話だった。

 

 


 

 

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