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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第四章 殺し合いを、しましょう
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第四章 第十幕

昨日お気に入り20人とか宣言したばっかなのに一人消えた!

うむむ…努力させてもらいます…

盾を押されて、ぐらりと体制が崩れるのを感じる。

(ま、ず)

超高速の攻撃の応酬を繰り返すことによって、磨耗し疲労していった精神と体力、その双方が原因だったが、『疲れた』などと愚痴を言っても現実は変わらない。

懐に飛び込んできた海島は右手を手刀の形にして降り下ろしてくる。突きで幾層の防弾盾を突き破った海島の一撃だ、食らってしまえば恐らく開きにされる。

体を捻ったところで、今からでは最低でも左腕が失われる。

詰み、だった。

だからアーサーは、


「腕位くれてやる。これはそういう戦いでしたね、ボス」


左腕から魔力を限界を越えて絞りだし、自ら腕を引き裂いた。

限界を越えて魔力を生成した負荷によって、内側で小さな爆発でも起きたかのようにアーサーの左腕がズタズタになる。

「な…」

アーサーが自ら腕を引き裂いたことと、唐突に普段通りの、仲間としての呼び掛けをされて、海島の動きがワンテンポ遅れる。

どちらか一方だけでは海島は気にもとめなかっただろう。

けれど暴言を浴びせられ、本気で相手を殺そうとしていた状況でその声をかけられてしまったから。

嬉しくて、嬉しくて、つい手が遅れた。

そうして生まれた僅かな隙に、腕一本を犠牲に産み出された魔力が新たな武器を形作る。

それはまるで、巨大な馬上槍のような形をしていた。

ただし穂先に刃はなく、ポッカリと直径六センチ近い巨大な砲口が存在する。

総重量の60%を占めるのは銃機構ではなく、超大容量のコンデンサだ。

名称『EX-caliber』。

全長15メートル、総重量1.7トンの世界最小の使い捨て式超電磁砲(レールガン)だ。

弾丸は先込め式、1トンのコンデンサに蓄えられた電力を一発で消費しつくし、発射するだけで全回路のショートと砲身の崩壊が巻き起こるため、自在に武器を生成するアーサーでなければ使えない、完全なアーサー専用装備。

EX-caliber|(特大砲口)の名を冠するこの超電磁砲は、六キロの鉄鋼弾を速度マッハ3で射出する。

元々数年前から火力不足に悩んでいたアーサーがニコラスに依頼して作ったものだが、強力である代わりにあまりにも生成する際の魔力消費が激しいため、実戦で使用することは不可能と判断され、お蔵入りした代物である。

それが火を噴いた。

魔法によって強化された海島の動体視力は、その様をありありと見せつけられた。

ミキリ、と弾頭が砲口へ進むにつれ、砲身全体が膨らみ、内側から弾けていく。

目で追えたのは弾頭が砲身の1/3ほどの場所に達した所まで。

その次の瞬間には海島の右脇腹近くが大きく食いちぎられるように消えていた。

「…………ガッ………!!」

あまりに弾丸の威力が強すぎたせいか、被弾部位以外に衝撃が伝わる前にそこの肉が吹き飛んでしまったらしい。

遅れて弾丸が音速を越えたことによって発生した、ソニックブームが到着し、アーサーと海島をまとめて吹き飛ばす。

ゴロゴロと地べたを転がり、その衝撃で肉片で辛うじて繋がっていたアーサーの左腕がブチりと音をたてて取れる。

痛みを感じる部位が減った分、楽になったくらいだった。

どくどくと出血しながらふらつく体で右腕を使って上半身を起こし、海島の方を見る。

脇腹からバケツをぶちまけたように血を流す、梟の首領の姿が其処にはあった。

呻きながら身体を戻し、霞む視界で空を見上げる。

ポツリポツリと、雨が降り始めていた。

(くそったれ)

肩口は死ぬほど痛むし、出血のせいで意識は朦朧としている。全身に力が入らず、ぐったりと脱力していることしかできない。

雨は冷たく、ただでさえ残っていない体力を奪いつくし、ひどく全身が冷たい。

何より、仲間を手にかけた後味の悪さが最悪だった。

やりきれない。

こんな感触を、海島は何度も味わってきたのかと思うと。

そんなアーサーの頭の上に影が射した。

ジークかニコラスかが治療に来たのかと思い、アーサーは霞む視界のピントを合わせる。


海島流衣が、こちらを見下ろしていた。


「………!!」

疲労のあまり、声がでない。

海島は抉られた脇腹を押さえて幽鬼のような目でこちらを見ていた。

(殺される)

こちらは満身創痍、相手には立つほどの余力がある。

アーサーが死を覚悟して身体を強張らせると、

トスン、と

儚げとすら言える様な動きで、海島はアーサーの横に崩れ落ちる。

そして言った。

「ごめんなさい」

「……ッ!」

涙腺が熱を帯びる。

雨が降っていて良かったとアーサーは思った。

この別れに、涙を浮かべる権利はアーサーにはないから。

「謝るのは俺です。俺はボスの想いを踏みにじりました。否定しました。完膚なきまでに、無意味なものにしてしまいました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。どんな罰でも受けます。どんな風に罵られても構いません。だから…ッ!」

「良いのよ」

海島の声はひどく優しい。

まるで慈母のように、心を包んで宥めていく。

「良いの。これで良いの。きっとこれも、最善の結末のひとつだと思うから」

アーサーは手を伸ばすことすらできないもどかしさを嘆く。

本当に、これが最後になってしまうのに。

「私、もう仲間を殺さなくて良いのよね?もう仲間を悲しませなくて良いのよね?私はもうーーー戦わなくて、良いのよね?」

「…許します」

アーサーは微かな声で、それでも可能な限り叫ぶ。

「俺が許します!もう、ボスは戦わなくていいんです!」

「…そっか…良かった…」

海島の顔をアーサーは見れない。

けれども分かってしまった。海島が微笑んでくれているのが。

自分なのに。

海島流衣を殺してしまったのは、アーサー・レッドフィールドなのに。

「私の部屋に、遺言状があるわ。見なさい。未来に備えるために。

私は諦めてしまったけれど、あんたたちが信じる道を進みなさい。けして悔いの無いように」

それが海島の最後の言葉。

こうして『梟』のボス、海島流衣は息を引き取った。

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