第四章 第九幕
ふぃー。ようやく本編書き終わったよ。
そしてお気に入りが20人突破!こんな拙作を読んでくださり、感謝!
五章は小説紹介のところに書いたように、遅れそうです。目星がついたら活動報告にでも書きます。
どうかよろしくお願いします!
(やっべー。マジやべー)
本来施設周辺を見張るための監視カメラから送られてくる映像を眺めながら、ニコラスはそんなふざけた感想を抱いていた。
「マジで地形変わってんじゃねえか。施設もガンガンぶっ壊れてるし、修理すんのまた俺だろーな…」
激しく鬱。万年雑用係は何時になったら解除されるのだろう。
「ボスが死んだら色々弊害も出てくるだろうしなぁ…。そんときは西織、頼りにしてるぜ?」
話しかけた先には、両手の親指と両足首を近くに落ちていた適当なコードで縛って椅子に座らせられている西織がいた。
拘束し、この部屋に閉じ籠ってからすぐの時は色々と喚いていたが、ニコラスが海島とアーサーの戦いを画面に写すと、それに見入り、静かになった。
今は涙を浮かべてモニタを凝視している。
「西織、聞いてるか?」
ひらひらと手のひらを目の前で振って、ようやくこちらに振り向かせる。
「どうしてですか?」
「うん?」
「どうしてこんな…こんなひどい戦いを見て、平常心でいられるんですか?」
涙を浮かべ、自分の無力を嘆きながら、精一杯西織はこちらを睨んでくる。
「ひどい戦い…ね」
仲間同士での殺し合いだからか。
あるいは互いにけして認めることのできない平行線の結果だからか。
まぁそれは確かに悲しむべきことかもしれないが、
「『ひどい』なんて、口が裂けても言えねえな」
と、ニコラスは言う。
「あなたは…人でなしです」
「そりゃ魔術師だしな。人じゃねーわ」
けらけらと笑って、
「でもよあの二人の戦いが酷いなんて、そんな風にはやっぱり思えねえんだよ。だってあれは、殺し合いなんだからさ」
殺し合い。
それはつまり、相手を完全に否定し尽くすということだ。
力ずくで打ち負かすに飽きたらず、命を奪ってその意見を完全に封殺する。
死人に口無し。
これほど完全な否定はそうそうあるまい。
そしてそれは、すなわちそれをするだけの覚悟と信念をもって行っていることなのだ。
「俺はさ、強い意思のやつが好きなんだよ。自分の信じる道を見据えて、まるでブレずに直進していくような、そんな馬鹿みたいなやつが好きなんだ」
例えば、相手のために相手を殺す、あの二人のような。
意志持つ人は美しい。
「あの二人はブレない。二人とも、ホントに仲間を大切に思ってて、でもその思い方の違いのせいで戦ってる」
そのすれ違いは酷だとしても、
二人が戦う理由は、とてつもなく尊いものなんだぜ、とニコラスは語る。
「アーサーはあのボスも助けるために戦ってんだよ。もう殺さなくてすむように。もう傷つかなくてすむように。命を奪って止めるつもりだ」
ニコラスはアーサーに、『海島流衣を殺して仲間を救え』と言った。
当然その『仲間』には海島も含まれている。
その言葉にアーサーがうなずいて見せたからこそ、ニコラスは信じて待つ。
その結果は断じてハッピーエンドではないけれど。
少しは大切な仲間の苦しみを和らげることができる筈だから。
「そんなの…そんなの、あんまりです…」
「人生そんなもんだよ」
思い通りに動いてくれなくて。
理想とはかけ離れていて。
それでもーーーやっぱり生きるべきなのだ。
悔しいならば、それをチャラにするため、這い上がらなければならない。
嬉しいならば、それを引き伸ばすため、努力しなければならない。
なにも感じないならばーーーなにかを感じるために、努力するべきなのだ。
「人生なんて生きてるだけで幸福メーターがガリガリ削れて消えちまうんだ。幸せになりたきゃ、減るより多く幸せってやつを手に入れなきゃならないんだよ」
あの二人の戦いも、
幸せになりたくて、あがいた結果ああなってるんだよ、とニコラスは言う。
「俺はアーサーを応援するけど、どっちが勝っても言うことは変わらねえ」
お疲れ様、だ。
「まぁボスが勝ったら俺も戦うことになるだろうが、それでも労いの言葉一つくらいは、かけてやってもいいよな?」
微笑みながら、ニコラスはモニタを見つめる。
戦いは佳境に突入していた。
◇◇◇
(埒があかない…っ!)
高速のヒットアンドアウェイを繰り返しながら海島は歯噛みする。
アーサーの守りが硬い。
オープンスペースに戦場を変えられたのが悪かった。攻撃可能なパターンが多すぎて、最良の一手ばかりを選んでしまっている。
そうなれば一撃の重みは確かに増すが、逆に行動は型にはまったものになり、率直にいって読みやすくなる。
ジリジリと削るようなダメージは与えられているが、それはこちらも同じ。最悪、カウンター気味に攻撃が入るため、総合的なダメージはこちらが上だろう。
一応表面に出てきているダメージはアーサーの方が多いが、治癒スキルがあるからこその結果でしかない。
(強いな)
魔法ではなく、アーサー・レッドフィールドという一人の戦闘者が強い。
アーサーの魔法は戦いには有用だし、応用性にも富む。
だが魔術師相手では火力不足感は否めない。防御系の魔法の使い手を相手にするならば、アーサーは大いに苦戦してしまうだろう。
アーサーが単独で真価を発揮するのは遠距離からの狙撃戦だ。時間さえあれば、弾道ミサイルクラスの火力と一方的すぎる攻撃範囲を産み出せる。
が、今行っているような近接戦闘にも近いカウンター戦法ではそれを発揮できない。先程から盾と弾幕による牽制によって攻撃を凌ぎ、スラッグ弾のような大型弾頭でこちらを攻撃してきているが、一定距離を開け、時間的余裕を与えれば、遥かに広範囲、高威力の攻撃を食らうだろう。
このまま削り殺すのだけが、確実かつ安全に勝つ方法。
(ドラマチックで派手な戦法なんてとらない)
そんな風にふざけて勝てるような相手ではないし、そんな風にふざけて達せられるような目的でもない。
(どこまでも地味に倒す。それで勝ちは決定よ!)
一際強く盾を殴る。
押し退けられた盾がアーサーの体にぶつかり、完璧だった回避運動に隙が生まれた。
(もらった!)
しかし海島は驕らず、騒がず、慌てず、絶対の理性と理論をもって正確に致命傷を狙う。
腕を振るうはアーサーの左腕。心臓に非常に近いため、切断すれば出血多量でショック死するし、死なぬにしても血が抜け、朦朧とした頭では海島に勝つことはできない。
完全にして安全な勝利。
海島が積み上げてきた経験がそれを生む。
手刀が降り下ろされた。