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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第四章 殺し合いを、しましょう
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第四章 第八幕

(…………凄い)

アーサーと海島の戦いを遠目に見ていたジークは驚愕に目を見開いていた。

格が違う。

空中を飛び回るような三次元的な動きではない。魔術師とはいえもとは人間。その動きは地上生物のものでしかない。

しかし魔法という異物がそれらを極限まで昇華する。

海島が駆ける度、周囲の地面は水面のように弾け飛び、強烈な加速をその身に与える。

アーサーはあえて動かずに、的確に海島の攻撃を見切り、痛烈なカウンターを叩き込む。

両者ともに身体能力と魔力を限界まで引き絞り、ただ純粋に効率を求めたその動きはシステムチックな色合いすら帯びて、戦闘機の機能美にも似たある種の美しさを醸し出していた。

周囲が既に廃棄された建物が立ち並ぶ郊外であるがゆえに、人通りは無いが、もし人がこの光景を見ていたら、思わず立ち止まり、見入ってしまったかもしれない。

無論、一般人ならば余波だけで死亡するだろうが。

(これが戦闘に特化した魔術師の戦い)

戦っているのは仲間だというのにーーージークは場違いにも己の精神が高揚するのを感じた。

自分も同じ領域に辿り着きたいと。あれほどの絶対的な、何者にも敗北しないほどの強さを手に入れたいと。

自分の心が吼え猛る。

やはりそこは北欧の英雄を模して作られた彼ならではの精神性なのかもしれなかった。

(見届けなくちゃならない)

だってこれは殺し合いなのだ。

終わり方はどちらかの死しかあり得ない。もうそれくらい、二人は『決めて』しまっている。

(どちらが勝っても学べるのはこれが最後。だから)

目に焼き付けよう。この最後の戦いを。

あまりに次元が違いすぎて、手を出すことはできないけれど。

この戦いを、無駄にすることだけは許されないから。


◇◇◇


ヒゥインッ!と風切り音をたてて迫る海島の腕を体を傾けてかわす。

もはやほぼ不可視の領域に踏み込んでいる海島の攻撃だが、アーサーは豊富な戦闘経験と長年共に戦ってきたがゆえの知識から反応を可能にしていた。

海島と過ごした日々は、四年ほど。人生全体から見れば酷く短い時間でしかない。

アーサーはしかし、と思う。

しかし、きっとその四年間はアーサーがこうして生きるのに絶対必要な時間だった。

海島に会っていなければ、きっとアーサーは今頃、路傍の石のようにどこかでのたれ死んでいるか、あるいはもっと悪辣で、居心地の悪い生き方をしていただろう。

海島には感謝している。

それこそ、言葉にできないほどに。

(だからこそ、)

ここで止めねばならない。

先程は啖呵を切ったが、アーサーは未来から来た海島流衣を欠片も憎んでいなかった。

憎めるはずがない。何せ大切な『梟』の仲間なのだから。

未来など関係ない。

現在など関係ない。

何時如何なる時であろうと、海島流衣がアーサー達を家族と思うように。

アーサーもまた、海島流衣を仲間と思っているのだから。

(ボス。あなたは言葉ではけっして止まらないでしょう)

思えば海島は昔からそうだった。相手の都合なんて考えずに、常に自分の意思で行動する。

正直に言って迷惑だった。ほとほと呆れる。これ以上引っ掻き回さないでくれと何度願ったかわからない。

だが、仲間だ。

(あなたは優しいから、自分をどんなに傷つけることになっても、俺たちを殺して、西織を殺して、そして何より自分を殺して戦い続けるつもりでしょう)

海島を倒す。

殺して止める。

それだけがーーー無力なアーサーにできる、たったひとつの海島への助け。

「おおおおおおおおおおおあああああああぁっ!!!」

海島が飛来する方向を読み、ショットガンで牽制した上で、本命の弾頭を叩き込む。

秒間二回近い超高速の交錯と離脱の応酬により、互いに互いの血肉を削って戦う。

空中に飛ぶ血の滴は激突の際の衝撃波で吹き散らされ、アーサーを中心に真紅の線を描いて広がっていく。

その光景は、何か象徴的な絵画のようにも見えた。

しかしそんなことは魔術師達に関係ない。

互いの動きは加速し続け、辿り着くのは魔術師としてもなお異常な、神速の領域。

銃弾すら突きと同程度の速度でしかないその空間に置いては視覚も聴覚も意味をなさない。

わずかな予兆を拾い、互いの攻撃を予測し、将棋の名人戦にも似た『読み合い』が繰り広げられる。

それは戦闘というにはあまりに理性的な、高度な頭脳戦の体を成していた。

((分かる。次にどう来るかが))

互いに旧知、そして戦友だからこそあまりに長く続く千日手。

互いを出し抜かんと踊り、猛り、交わりながら二匹の頭脳持つ獣は戦い続ける。

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