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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第四章 殺し合いを、しましょう
46/53

第四章 第五幕

〔PM00:20 Timelimit 0hour 42minute〕


「それは、ボスだけのエゴなんかじゃありませんよね」


エレベーターから現れた西織の言った言葉に海島は、

「な…ふざけないでよ!これは私のエゴで、全部私一人でやったことで…っ!!」

そう言って反論する海島の目のなかに、アーサーは奇妙な感情の渦を見た。

それは、

(怒りとーーー恐怖?)

「これは誰にも渡さない、邪魔させない、奪わせない!絶対に私だけの物で」

「違いますよね」

遮るように、西織は言う。

怯えを振り払うような海島の言葉を、容赦なく。

「そもそも《Irision》なんて機械をボス一人で作れるとは思いません。誰か魔法の研究者、それも機械なんて代物で魔法に干渉できるほどの技術を産み出せる程の優秀な研究者が必要なはずです」

今や海島は無言で、ただ怯えながら西織を見つめている。

西織の一挙一動にビクビクと震えるその姿は、狩るものと狩られるもの、その関係が逆転してしまったようにも見えた。

「そんな条件に当てはまるのは、ボスの周りにたった一人しかいませんよね」

そう、


「私、西織夕香がその機械を作ったんです」


その言葉に、海島の心が折れるのをアーサーは感じた。


◇◇◇


絶望し、すがるような目でこちらを見る海島に、西織は内心で謝罪する。

自分がこれからしようとしていることは、誰も救わない。ただ周りの人間を傷付けるだけのことだ。

でも、

(それはきっと、語られなくちゃいけないことだから)

真実を白日のもとに曝すことは、残酷だが、どうしようもなく正しい。

だから、言おう。自分の悟った真実を。

「さっきボスは『このままだと自分と西織しか残らない』と言いました。それは事実でしょう」

でも、

「じゃあボスと一緒に残された私は何を考えたんでしょうか。まず間違いなく皆を取り戻す事を考えたでしょうね」

父を殺したときに西織は大切な物を失う喪失を味わった。

なら『梟』の仲間を失ったとき、慟哭し、哀切し、悲嘆に暮れただろう。

「私の魔法『時空復路』。きっとそれを使って一度となく、何度も繰り返したはずです」

父を失った時のように。

父を殺した時のように。

「そしてそれは、一度として成功しなかった。そうですよね?」

その言葉に海島は、

「救えなかったのよ…」

俯き、あまりに弱々しい声で、

「私が生き残ったのだって奇跡に近い。『巻き戻す』のが少し遅れれば、西織すら死んでしまっていたことだってたくさんある」

「未来の私とボスは多分、魔力消費の少ない、『セーブポイント』に時を戻すモードで魔法を使っていたでしょうね。人生を丸ごとやり直すのでは、『梟』のメンバーが集まらないことすらあり得るんですから」

バタフライ効果。

初期条件の僅かな違いによって、未来は大きく変わってしまう。

「何度も同じ時間を繰り返した結果、きっと『梟』を救うことはできなかった」

どれ程の絶望があっただろう。

海島は記憶を継承しない。しかし未来の西織は。

「だから未来の私とボスは思い付いたんでしょう。過去に順番に、段階を踏んで狙った時間に遡ることで、理想の未来を作ることを」

入念に計画を練り、必要な機材を造り上げ、

「実行が私ではなくボスなのは、《Irision》を使用すれば、私は死んでしまうから。それと私を殺すのにはボス並みの戦力があった方が都合がいい、と言うのもあるでしょうね。気付きました?アーサーさん。《Irision》という名前、文字の並び替え(アナグラム)でNISIORI。つまり私の名前になるんですよ」

だから分かった。自分が一枚噛んでいることが。

「ボス、未来の私は、きっとあなたを信じて、きっと成し遂げてくれると思って、あなたに全てを託したんでしょうね」

なら、いいかな。

ここで海島に殺されてしまっても、それでも良いかな。

ドバイでやっと現在(いま)の大切さに気がついて、そしてその先にいる自分が自分の存在をかけて仲間を救おうとしたならば、ここでそのために死ぬのも良いかな、と西織はそう思う。

けして自分の命を軽んじているのではない。

ただ、大切だから。

今ここにいる全ての仲間を、自分よりもずっとずっと大切に思っているから!

だから、西織は、

「ボス、あなたが『自分一人』に拘ったのは、私のせいですよね」

きっと、

「私がこれを知ってしまったら、自分で死のうとすると知っていたから、だから、全部自分一人のせいにしたんですよね」

憎んでくれて構わない。

ただ、達観して死ぬのだけはやめてほしい。

だから真相を隠した。

何処までも身内に優しいだけの、喜劇のように愚かな悲劇。

だからこそ、

「真相を知るのは、『梟』皆の権利であり、義務だと私は思いました。だから」

こんな風に全てを話して。

全てをさらけ出した。

「これで、話はおしまいです。ボス、あなたが戦う必要はありません。私自ら、《Irision》を被り、あなたを過去に送ります。ただし約束してください。きっと理想の未来を作ると」

海島は、祈るように跪き震える声で誓う。

「やって見せる…」

固く、固く、拳を握って、

「約束する!きっと未来を作って見せる!!」

その言葉に西織は微笑んで、

海島は西織の方へ踏み出し、


二人の間に、アーサーが無言で立ち塞がる。


「………るな」

アーサーは、

「ふざけるな!!!!」

怒っていた。激怒していた。二人の勝手な物言いに、腸が煮えくり返っていた。

「未来の俺たちのために、いまの自分を犠牲にする?ふざけるな!お前が一番分かってるんだろう、西織!!仲間が死んで、自分を助けて、それであぁ良かったって俺達が笑うとでも思ってるのか!!!」

「で、でもアーサーさん。未来の私が…」

「未来!ああそうだ未来だ!!俺達が知ってる、今ここにいる(・・・・・)西織夕香じゃない!!そいつとお前は違うだろうが!」

「それは…っ」

気圧され、言葉につまる西織を無視して、アーサーは勢いよく海島の方を向いて指を指す。

「お前もだ海島流衣(・・・・)!俺達の知ってるボスとは違う!!この時間を生きてた、この瞬間にいるはずだった海島流衣を塗り潰しやがったな!!!」

「アー…サー…」

「俺は今、この時の人間だ!未来なんて知ったことか!!未来のボスがどう思ったか、何て関係ない!!お前らの都合に、勝手に俺を組み込むな!!!」

「同感だな」

スッとニコラスが西織の前に立つ。

「アーサー、西織は俺が全力で守る。お前はそこにいる海島流衣を殺して、俺達の仲間を助けろ」

「ニコラスさん!?」

ギュルリとエレベーターシャフトが渦巻き、西織とニコラスを中に隔離する。

「死ぬなよアーサー」

「当然だ」

「やめて…っ!離して…っ!」

外に残されたジークとヒルデは、

「僕達は全力でここを守ります」

「私の友達の夕香を、絶対に殺させはしません」

しっかりと足を踏みしめ、変形したシャフトの前に立ち塞がる。

「…どうして?」

ホロリと、目から涙を溢しながら海島は言う。

「どうしてわかってくれないの?これが、これだけがあんたたちを救う、たったひとつの方法なのに」

「認められるわけ、無いだろう」

アーサーは躊躇わない。

真っ正直に海島に向き合い、真っ正面から立ち向かう。


「未来なんて関係ない。俺らが生きてるのは、今、この瞬間なんだから」


「…そう」

海島の纏う空気が。

変わる。

「分かった。分かったわ。ええ分かったわ。分かりました。あんたたちとは、もう絶対に分かり合えないのね」

「こちらは元よりそのつもりだ」

「ええ、そう。OK理解したわ。それならアーサー」

世界が変わる。

その身より溢れ出す、濃密と言うのも生温い殺気によって。

「誇りも、名誉も、整合性もない、そんな」


「殺し合いを、しましょう」


直後、世界最高の戦闘系魔術結社、『梟』同士が激突した。


〔PM01:02 Timelimit 0hour 0minute Battle Start〕

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