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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第四章 殺し合いを、しましょう
44/53

第四章 第三幕

〔AM09:12 Timelimit 1hour 20minute〕

ゲームは時間を消費する

今アーサーと海島がいるのは、『梟』の拠点の五階だ。この建物は特殊な構造をしており、厚さ70cmものチタン合金製装甲板で覆われたエレベーターシャフトを鉄筋コンクリートで出来た各部屋で包むようにして建造されている。

シャフトの入り口は最上階、五階の一部のみ。シャフトは直通で地下のシェルターに繋がり、そこにはコンピューターや、貴重な資材などが保管されている。

西織と北欧姉弟は今そこでハッキングを活用して調査を行っているはずだ。

ゲームの対戦モードで激しい戦いを繰り広げ、最終的にネット通信モードで世界ランカーにタッグバトルを挑んだりしていた二人は、

「お腹すいたわね…そういえば朝御飯食べてなかったわ」

「何か適当なものでも腹に入れますか?」

そこに運悪く通りかかったのは、作業の小休止をしていたニコラスで、

「ニコラス、ゴー!」

「犬じゃねんだぞ!?」

ブチブチ文句をいいながらもサンドイッチを作ってくるニコラス。やっぱりお人好しだな、とアーサーは思った。

もっしゃもっしゃと三人でBLTサンドを頬張りながら、海島はアーサーに問う。

「アーサー、今回の襲撃者についてどう思う?」

そうですね、とアーサーは一拍おいて、

「悔しい、と」

「悔しい?」

「はい、ただ悔しいと、そう思います」

「…そう」

沈黙。

「ニコラス、何か面白い話しなさいよ」

「うっわ最悪の振り!その時点でもう大抵の話は面白くなくなるじゃん!」

「それじゃ、雑談でもしましょうか?」

「まぁかまいませんが。で、何を話すんですか?」

「思い出話なんてどう?」

「あぁ、初対面で名前を呼ばれて、ついナイフで殺そうとしましたね」

「精神衰弱してるのはわかってたから反応できたけど結構危なかったわよ?」

「お前らそんな殺伐とした出会いだったのかよ…」

「ボスの手下になって、二人で『梟』を作り上げて」

「ニコラスは『梟』ができてから一年後くらいに来たんだっけ」

「ああ、そんな時期かぁ…」

「あの時は大変でしたね。厨二病発症したニコラスを伸して自分は雑魚だと気がつかせて」

「その言い方酷くない?まぁ、戦闘向きの魔法じゃないけどさ」

「おいバカ止めろ。あの頃の俺の話しはするな」

「『俺に触れて、殺せないやつは…いない(ドヤァ…)』だっけ」

「ホントマジやめてください。お願いします」

「現実的には遠距離から一方的に殴られ続けるだけなんで、そんな強くないんですけどね」

「まぁね」

「うう、もうあの時は思い出したくない…」

「それから二年後くらいに『多重斬撃(マルチブレイド)』と会ったんでしたか」

「ちょっと、あの女のこと話さないでよね。嫌いなのよ、あいつ。それに女と話しているときに他の女の話をするのはマナー違反よ」

「どちらも女なんて言えるような生易しい人間じゃねーじゃん」

「あぁ?」

そして、

「半年くらい前に西織と出会ったわけですね」

「思えば早いわねぇ。ジークたちに至っては三ヶ月くらいよ?」

「三人を、どう思いますか?」

「仲間よ」

海島は、

そっと胸元ーーー梟の意匠のペンダントを撫ぜて、

「三人とも、大切な仲間だし、決して失いたくないーーー家族みたいなものだから」

「家族…」

「西織も、ジークも、ヒルデも、ニコラスも、勿論アーサー、あんただって」

そこで海島は一呼吸おき、

「世界とあんたたちのどちらかを選べと言われたら、迷わずあんたたちを選ぶ程度には、私はあんたたちを愛してるわ」

アーサーは、視線を下に落として、

「俺は正直、そこまで皆を好きではないと思います。勿論全員を大切に思っています。愛していると、そう言っていい」

でも、

「俺の基準は、姉さんなんです。きっと俺は姉さんを生き返らせることができるなら、躊躇わずに皆を殺すでしょうね」

「そして泣くんだろ?」

ニコラスは言う。

「もしそんなことになれば、俺達を殺して、自分の姉ちゃんと笑いあって、そして誰も見ていないところで泣くんだろ?」

「………」

「お前はは優しい、いい奴だよ。ただ、姉ちゃんの存在が大きすぎるだけだ。そうじゃなきゃ、俺達はここまでお前を好いちゃいない」

海島は口を出さなかった。

自分の言いたいことはニコラスが言ってくれていた。

「………好かれてる、か」

「あんたが自分をどんな風に思ってるのか、私は知らないし、理解できるとも思えない。人は孤独だもの。他人を理解しようなんて、思い上がりも甚だしい。でも、そんなの知ったことじゃないわ」

海島の声には芯がある。

己の心の内にある言葉を発するがゆえに。

「私たちはあんたが好きだから一緒にいるし、そこにあんたの意思は関係ない。あんたが自分をどう思ってようが、私たちは勝手にあんたを好きになる。だから家族みたいなもんだっていってるのよ」

「…ありがとうございます」

「分かれば良し」

もうサンドイッチも食べ終わっている。時間も残り一時間をきったか。

「あと少しで時間ですね」

「そうね」

「それじゃあそろそろ、確認でもしていいですか」

「…ええ」


確認します。


◇◇◇


(手がかり、ゼロ)

キーボードを打鍵するのをやめ、西織は焦りのこもった溜め息を吐く。

(このままじゃ全然対策が練れない。もしアーサーさんが死ぬようなことがあれば…)

繰り返すだろう。

自分は魔法を幾度も使い、世界を何度も繰り返すだろう。

(それはもう嫌)

これ以上世界を繰り返し、時間の牢獄にとらわれるのだけは、

(それだけは、絶対に嫌)

と、そこでモニターの一つから声が漏れてきた。

調査に使用していたものではない。建物内を映し出す監視カメラに接続されたモニターだ。

『確認します』

漏れ出てきたのはアーサーの声で、


『俺を殺した、あるいはこれから殺すのは、ボス、あなたですね』


「…え?」

西織の思考が凍りついた。

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