第四章 第二幕
〔AM06:32 Timelimit 4hour 2minute〕
意識が覚醒する。
先程まで仕事場にいた西織は、気が付くと『梟』の拠点の中の自室でベッドに入っていた。
今朝、起きてすぐに『セーブポイント』を設定した瞬間の時間であることを確認する。
西織の記憶によると、アレ(・・)が起こったのは午前10時34分。西織自身の行動によって、未来は変動するため、実際には未来がずれることが予想されるが、おおよその目安にはなる。
(後、4時間2分)
限られた時間の中でまずすべき事は、
「アーサーさん!!」
◇◇◇
〔AM06:41 Timelimit 3hour 51minute〕
「未来で俺が殺された!?」
「はい!誰に殺されたかまでは見てないんですけど…」
「いや、それでいい。恐らく相対すれば西織は魔法を使って巻き戻るまでもなく死んでいる。時間を戻してやり直せる選択肢を選んだのは正解だ」
慌てふためく西織を宥めてアーサーは思考を巡らせる。
単純に『アーサーを殺せる』魔術師ならば、『暴走魔力』や、『多重斬撃』『致死病魔』に『投身自殺』等が考えられるが、どれの殺し方とも違う。
魔術師の四肢を引きちぎるとなると巨大な運動エネルギーを生み出す、あるいは操作する魔法なのかもしれないが、その程度でアーサーを殺せるとも思えない。そもそもアーサーの魔法はオールレンジで戦えるが、中、遠距離主体だ。そんな相手に自分が接近を許すとも思えない。
「取りあえずボスたちに報告しよう。拠点に攻めこまれるとなったら俺たちだけの問題じゃない」
◇◇◇
〔AM07:35 Timelimit 2hour 57minute〕
「…と、いうこと何ですが…」
「でもこのビルは俺が作った特別製だぜ?物理的にも技術的にも侵入はかなり難しい。ましてや西織が気付くまで警報もならないなんて…」
ニコラスが作り上げたこのビルは、建物そのものが要塞と化している。物理面ではミサイルをブチ込まれても揺るがず。技術面では静脈認証を用いて、パスワードの暗号化には特製のオリジナル言語を用いているのだ。既存の言語学から完全に逸脱したそれを解析するには、完全にゼロの状態から解析をするしかない。参考にすることができる言語も存在しないため、スパコンを用いても年単位の時間が必要なので、ニコラスが懐疑的になるのももっともなのだが…。
「ま、疑ってはいねえけどな。西織は仲間だし」
「え、あ、ありがとうございます…」
アーサーが殺された時刻まで残り2時間57分。相手が計画的に進行してきたのならば、襲撃の目安にはなるだろう。
それまでに対策を練らなければならない。
「ボス、ひとまず指示を」
アーサーが水を向けると、海島はふむ、と考えて、
「西織と北欧姉弟はPCルームでこちらの防衛網を突破できる相手について調査しなさい。ニコラスは建物全体の構造のチェックと強化。私とアーサーは内部の警戒をするわ。気を付けなさい、不意打ちであれなんであれ、アーサーを殺せるレベルの敵なんだから」
ピリッと『梟』メンバーに緊張が走り、全員が頷いた。
◇◇◇
〔AM08:06 Timelimit 2hour 26minute〕
アーサーと海島は連れだって建物構内を歩いていた。
「ボス、その機械何ですか?」
「ああ、これ?ニコラスに造らせてたちょっとしたオモチャよ。まぁ、こんな状況じゃあ使い道はないわね。私の部屋に寄るわよ?これ置いておきたいし」
Irisionと側面に刻印されたその機械を置いて、二人は通路を見回っていく。
「………………」
「………………」
建物内を歩いて見回る。
「………………」
「………………」
歩いて見回る。
「………………」
「………………」
見回る。
「………………」
「………………ねぇ、アーサー。今気が付いたんだけど、もしかして私たちって暇なんじゃないかしら」
「…まぁ薄々気がついてましたが、俺たちやることないですね」
ハァ、と二人してため息をつく。
「だって私相手倒すの専門だし、武器使う訳じゃないから整備とかも必要ないし」
「俺も武器は作れば完全新品準備万端ですからね」
「……暇ね」
「……暇ですね」
「一応あと数時間であんた殺されんのよ?」
「そう言われても実感は湧きませんし」
緊迫感皆無だった。
「…あ、見回り終わっちゃった」
「本格的にやることがないわけですが」
「……あ!ちょっと待ってて!」
海島が自分の部屋に走って行き、持ってきたのは、
「あんた知ってる?この『Kill Time』っていうゲーム」
いわゆるFPSのアクションゲームらしい。開発したのはアメリカのとある大学の工科学生。『Kill Time|(暇潰し)』の名の通り、製作者本人の暇潰しのために造られたゲームだそうだ。
プレイヤーは難易度に応じて階層の数が変わる地下研究所から脱出しようとする。しかし研究所には遺伝子操作で産み出されたという設定のモンスターが野放しになっていて、研究所の各所に隠された銃器を使ってモンスターを倒しつつ、脱出しなければいけない。
また、研究所はセキュリティによって管理コンピュータの電源が切れると自爆するようになっており、脱出しながらバッテリーを探して、各所の接続コンセントに繋がなければ研究所は爆発、ゲームオーバーとなる。
限られたヒットポイントと弾薬、制限時間をいかに活用するかが問題となるゲームであり、かなりの人気を誇っているらしい。
「ま、アーサーは未経験者だし?この私が特別に胸を貸してあげましょうか?」
その言葉がアーサーに火を付けた。
「ほぅ?この俺に銃ゲーで挑むとは、些か俺を嘗めてませんか?」
そんなことを言われては、当然海島も黙っておらず、
「へぇ?トーシロが随分大きく出たものね?」
バチバチと二人の間に火花が飛び散る。
ボタンを連打する音が響いた。
◇◇◇
あいつら、本気で遊んでやがる…
モニタで建物内を監視していた西織とニコラスが脱力して突っ伏したのは、言うまでもない。
どうにもスランプ気味で筆(いや打鍵ですが)が進まん。
書くことは楽しいのに、ままならないものですね。