第一章 第三幕
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あの後一通り契約内容を煮詰めると、海島はアーサーに部屋の案内をさせた。このビルは五階建てになっているのだが、ビルごと買い上げた『梟』によって勝手に改装されており、迷路じみた通路と大量の罠が仕掛けられているため初めて入った人間にはいささか以上に危険なのだ。
アーサーに先導されながら西織が両肩の調子を確かめていると
「あまり動かさない方がいい、自分でやっておいて何だが、一度関節が抜けるとその後も抜けやすくなるからな」
「えっ?はい、ありがとうございます」
カンカン、と音をたてて階段を昇っていくと
「落ち着いているな」
「え?」
「さっき自分を組伏せて尋問した人間と一緒にいるのに、随分と冷静だなと思ってな」
「いえ、違う結社に助けを求めるなんて、本当は殺されたって文句は言えませんから」
「ならなおさらだろう。敵の本丸のど真ん中に居るようなものだぞ?」
「私はもうどこの結社にも属してませんし···それに傭兵と言うのは信用商売でしょう?依頼人を簡単に殺すような人間は雇って貰えないでしょうし、ましてや私は護衛任務を頼んだわけですから、簡単には殺されませんよ。ここに来るまでに何人かに話を聞いておいたから行方不明になれば騒ぎになりますしね」
「···ボンヤリしているようで抜け目ないな君は。それでプロメテウスに見つかるとは思わないのか?」
「もう見つかってるとは思いますけど···どうも捜索系の魔法の使い手がいるみたいですから隠れても無駄です。真っ正面から守り続けられるだけの力がないと無理ですから、ここで試してみようかと」
「戦うのは俺たちなんだが?」
「私を助けたとき躊躇なくあの男を撃ったでしょう?後ろに誰がついているのかわからない状況であんなことをするのは大抵の相手なら力ずくでねじ伏せたり、逃げ切ったりする自信が無くちゃ出来ないことです。海島さんがプロメテウスを大物といったわりに、すんなり護衛任務何ていう難しい依頼を受けて、しかも逃げないところを見ると、相当戦闘に自信があるんでしょうね」
「全て計算ずくか···俺たちが魔術結社だってのにも気付いてたのか?」
「まさか、そこまではわかりませんよ。ですがまぁ結果的にはラッキーでしたね。結社には結社を、これで最初考えてたより有利になりました。それを考えれば両肩脱臼なんて安いものです」
「俺の回りにはどうしてこうもたくましい女性ばかり集まるんだ···」
アーサーが嘆息するが、当然それで御淑やかで儚げな女性が出てくるはずもなく
「まぁ安心しな。今夜はゆっくり眠るといい、俺たちがあんたを守るからさ」
「長い付き合いになりそうですし、西織で結構です」
「なら俺もアーサーで良い。宜しくな西織」
「ええ、こちらこそ」
そう言って二人は握手を交わした。
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二人の様子を窓の外から望遠カメラで覗き見る影があった。
「こちらα1コードネーム『CC』確認しました」
「こちらα2『CC』の滞在先は『梟』と判明」
「『梟』!?戦闘系ではトップの結社だぞ!?」
「サーモグラフィーによると『梟』メンバーと思われる人影はおよそ3、こちらの突入班の人数は30です」
「足りんな···本部から応援と装備を取り寄せろ。現状は引き続き監視を行う」
「α1了解」
「α2了解」
(本部から応援が届くまでおよそ二日間···軽い下準備も済ませておくか)
人影はビルの上を軽々と飛び回り、町中に拡散していく。
夜の街に魔術師達が暗躍し、来るべき戦いに向けて己の牙を研いでいく。
あと一話おいてバトルです