表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第三章 憎しみの先は
38/53

第三章 第十幕

危なかったな、とジョン・ハドソンは胸を撫で下ろした。

アーサー含む歩兵部隊のサポートとして後方に配属され、戦車隊出現の一報を聞いてすぐさま撤退したのは正解だった。狙撃手として通常の歩兵から離れた場所に布陣していたのも幸運だったろう。

お陰でアーサーを殺させずにすんだ。

(あー、マジラッキーだったなぁ)

ガコン、と新しい弾頭を装填しながら遠目に戦場を確認する。

衛生兵も到着し、アーサー達は治療を受けているようだった。

「俺も移動するかね」

と、立ち上がりかけたジョンの背後でザリッ、という足音がした。

ピタリとジョンの動きが止まる。

ジョンは単独行動で活動している。付近に味方兵がいないのは確認済みだし、近づいてくる理由もない。

敵国側の人間だ。

「…よう、挨拶位しろよ」

返事は突き出された銃だった。


◇◇◇


「っつ…」

「アーサー、一旦基地に戻った方がいいわ。全身の骨が骨折してるのよ」

あの男を倒した後、すぐに衛生兵部隊が駆けつけてきた。

今は死体の中にまだ生きている兵がいるか確認しているようだがーーー結果は芳しくないだろう。

アーサーとパトリックはエルに治療されていた。

「確かにね。クソ、これ以上は無理か」

「受け身はとってたみたいだけど…その程度でどうにかなる衝撃じゃなかったのね」

「少尉どの、なんだったんでしょうか、アイツ」

「さぁな、魔術師なんていってたが…少なくとも現代の科学力じゃあ絶対に再現できないだろう」

「まさか、ホントに魔法とか…?」

「絶対にない、とは言い切れないのかな…。本物を見てるわけだし」

あの身体能力に加え、手を触れることすらなくアイザックを捻り潰したチカラ。

あんな存在がこの世にいて、戦場で猛威を振るう。

悪夢だな、とアーサーは一人ごちた。

(倒せたからよかったもののーーー)

と、まだジョンに連絡を済ませていなかった事を思いだし、アーサーは無線機のスイッチを入れる。

軍用品だけあってか、あれだけアーサーが蹴飛ばされた後であっても、通信機能は生きているようだった。

ザザッ、と軽いノイズが走った後に、ジョンの通信機と繋がる。

「こちらアーサー・レッドフィールド。先程は援護感謝する」

『………』

無言。

「こちらアーサー・レッドフィールド。応答求む」


『………助けてくれ』


その言葉を最後に、ガツン、と通信機を地面に叩きつけたような音と共に、通信が途切れた。

じっとりと、アーサーの背中が嫌な汗で湿っていく。

「……ジョン!!!」

焦りからか、アドレナリンが吹き出し、身体が俊敏に動く。

そこからはコマ送りのように時間が流れた。

アーサーが跳ね起きて、遮蔽物のない路上へ躍り出た。

エルが次いで飛び出し、アーサーの体を押し退けた。


アーサーが倒れ、エルを見ると、狙撃ライフル弾を食らったエルの右腕が肩口から千切れ飛んだ。


◇◇◇


「外れました、再度照準を」

「分かってるよ」

ガコン、とジョン・ハドソンは今まで敵対していた国家の最新式狙撃銃のコッキングレバーを引いた。

スコープを覗き、弾頭を叩き込むべく狙うのはアーサー・レッドフィールドとエル・レッドフィールドの二人だ。

本来初撃でアーサーの頭を弾き、その後エルを殺すつもりだったが、

(エルに気付かれた、か。まぁ冷静に考えりゃあ俺が救援要請を出す余裕があるって時点でおかしいけど)

アーサーはあれで優しいところがある。姉のエルは本当にアーサーしか眼中になかったが、アーサーは自分や、部下に対しても人間として接しているし、時に自分のような人間の事を友人だと思っていた節があった。

それ故に、アーサーは第四十二番施設において、失敗作と見なされていた。

実力はある。施設全体において、アーサー程生存能力と作戦実行力に優れた人間は居なかっただろう。

だが、あの施設が作ろうとしたのは兵士ではない。兵器としての人間こそが、あの施設では求められた。

第四十二番施設の最強にして最悪の失敗作。

それが、アーサー・レッドフィールドという人間だった。

「頑張ってくださいね。アーサー・レッドフィールドとエル・レッドフィールドの殺害に成功すれば、貴方は我が国に亡命出来るのですから」

全く応援などしてなさそうな声色で、手元の銃を渡してきた男が言う。

簡単な話、ジョン・ハドソンという人間は逃げることを決めたのだ。

いつ死ぬかもわからない戦場などゴメンである。前々から根回しを済まし、アーサーの眼前で調達屋などと下手な言い訳までしてこの交渉を続けてきた。

先程あわやアーサーが妙な男に殺されかかった時にはどうしようかと思ったが、何とか退けられたのは僥倖としか言いようがない。

ジョン自身がアーサーを殺さなければ恐らく亡命は認められないだろう。それどころか隣の男のただならぬ雰囲気から考えるとジョンが殺されることすらあり得る。

アーサーを殺しかけた男を殺したのはかなりグレーゾーンな行動だったが、もとより相手国に長居するつもりはない。さっさとこの国から逃げて、その後は南米等に高跳びすれば十分だ。

(まぁそう言うことだから、さ)

「死んでくれよ、アーサー」

引き金を絞る。

巨大な弾頭が宙を裂いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ