第三章 第九幕
PV7500突破!
ヒャッハー!!
「そ、んな」
呆然とパトリックが呟く。
「…全滅か」
アーサーたちの前に広がったのは無惨な光景だった。
アーサーたちの後続部隊、述べ300名ーーーその全てが死亡していた。
それどころか地形まで変わっている。ここには戦場ゆえにもう人はいないが、市街があったはずなのに。
「こ、こんなことはあり得ない。戦車三台でここまでの破壊なんて…」
「何かがあったんだ。戦車以外に、もっと何か」
「何かってなんですか!?こんなことが起こせる兵器を、どうやってあの戦車の狭い車内に入れるって言うんですか!?」
「よせ、パトリック。少尉どのに当たっても…」
新兵にはやはりこの戦場はキツすぎたのか、半ば恐慌状態のパトリックをアイザックが諭そうとした時、
「あレ?あれあれあっレー?おっかしいなぁ、雑魚は全員ぶっ殺した筈なんだけどナー」
ふざけた口調の男がいつの間にか真っ正面に立っていた。
しかし、
(いつから居た!?)
まるで気配を感じなかった。
アーサー含め、三人ともが男を認識できなかったのだ。
だが三人の驚愕を気にした様子もなく、男が一歩、こちらに踏み出して、
ゾクリ、と悪寒を感じたアーサーがライフル弾を叩き込む。
「少尉どの!?」
「気を付けろ!!恐らくこいつが件の『虐殺兵器』だ!!」
フルオートで弾幕を張り、必死に反動を流しながらアーサーが叫び、
「痛ぇなァ」
無傷。
平然と、弾幕が雨粒かなにかであったかのように男は悠然とこちらに歩いてくる。
「でもざぁんねぇン!!俺、魔☆術☆師だからそんな程度じゃ死なないんだなァ!!」
ド!!と急激に男が踏み込んだ。
アーサーが目で追えたのはそこまで。
魔術師特有の圧倒的な身体能力に、鍛えているとはいえ所詮人間のアーサーが拮抗できようはずもない。
乗用車に撥ね飛ばされたような勢いで、アーサーの身体が吹っ飛ばされた。
「ごっ…ばぁぁあっ!!!???」
「アハッアハヒャギャッハハハハハハハ!!おいおいおいおい、人間なんだからさぁ、そぉんな無様に転がってないで、立派な足で立ったらどうですかァ?」
言いながらサッカーボールの様にアーサーを男は蹴飛ばす。
血反吐を盛大に口から吐き散らしながら転がるアーサーに、男は容赦なく追撃を加えようとして、
ゴン!!と男の頭が横にはねた。
「………」
無言で、ゆっくりと男が弾の飛んできた方を向くと、震えながらライフルを構えるアイザックがいた。
「しょ、少尉どのにそれ以上触れるな、それ以上やるようならお前を殺す」
嘘だった。至近距離からライフル弾を頭にくらって軽く血を流す程度の化け物相手に、現実的な殺害方法など欠片も思い浮かんでいなかった。
それでもアイザックは言葉を絞り出す。
「しょ、少尉どのは」
「…ウゼェ」
ゾクン、と背中に鋭い氷柱を差し込まれたような冷気をアイザックは味わった。
「言ったよなァ?俺でもライフルは痛ぇんだヨ。死にはしねーけど、死ななきゃなにしても良いって訳じゃねぇだろォ?なぁ、俺のいってること間違ってるかなァ?」
これは、ダメだ。
アイザックは選択肢を間違えた。
無数の結果を産み出す、無限の選択肢があったのに。
目の前の化け物を挑発し、ただそれしか意味のない、最悪の選択肢を選んでしまった事をアイザックは自覚した。
「あーウゼェ。もういいや」
死ネ。と男は投げやりに呟いて、
グッシャアッ!!!!!とアイザックの身体が捻り潰された。
もしその場に誰か魔術師がいたら、それこそがこの男の魔法なのだと理解しただろう。
同時に、あらゆる物を捻り潰す等という魔法を発現させた、嗜虐性に満ちた男の精神をも看破しただろう。
もっとも、
後者は既に骨身に染みて理解させられているが。
「さぁテ。そっちのなーんか殺し馴れてなさそうなお前は新兵かなーン?」
「ヒッ、ヒイィィィッ!!」
「そーんな怖がるなよォ。こう見えても俺優しいんだぜェ?」
言葉とは裏腹なサディスティックな笑みを浮かべながら、魔術師は哀れな人間に歩み寄る。
これが魔術師。これが魔法。
世界の理から外れてしまったーーー人外にして埒外の化け物。
パトリックは股間が熱い液体で濡れるのを感じた。
遅まきながら悟る。きっとこの場所で死んだ300人も同じように扱われたのだ。
嬲られ、存分に追い詰められ、抵抗する気力を奪われ、絶望の淵に叩き落とされて殺される。
身体が震え、歯がカチカチと鳴る。当たり前だ。
思考が止まり、頭の中が真っ白になる。当然だ。
目の前の化け物相手に、今この状況で立ち向かえる人類など居るわけがない。
だから、
アーサーが跳ね起き、男を後ろから組敷いたとき、パトリックは心臓が止まるかと思った。
「ぐっ…ガッ!?なんでただの人間が、魔術師を組敷けル…ッ?」
「どんなに、身体が、強くたって、所詮、人間の、体だろう」
息も絶え絶えだが、アーサーはキツく魔術師の腕を捻りあげ、体勢をより、アーサーに有利なように変えていく。
「人体には、構造上どうあがいても、力を入れられない姿勢ってものが存在する。お前がどんな怪力を持ってようが関係ない。お前が人としての骨格を持っている限り、絶対に俺の拘束からは逃げ出せない」
言われながらも男はもがくが、
(くそガ。マジではねのけられねェ。魔法で殺そうにも俺の魔法は『対象が視界内にいる』ことが条件ダ…ッ!地面に押し倒されてんじゃあ使えねェ…ッ!!)
「ッ…が、デ?テメェどうすんだヨ?何時までもこのままじゃいらんねえゼ?」
(俺を殺すためになんかアクションを起こせ!その瞬間振り切って殺してやる!!)
しかしアーサーはそんな愚は侵さなかった。
「心配ご無用だ」
「アァ?」
「こっちにはお前と違って優秀な仲間がいるんでね」
アーサーの視線の先、半ば平原と化したこの場所で、唯一の狙撃ポイントがある。
ならばいるだろう、あいつが。五年間共に戦ってきた、あいつが。
信頼を込めてアーサーはそちらを向く。
刹那、
ジョン・ハドソンが放った弾頭が、過たずに魔術師の頭部を撃ち抜いた。
着弾の余波で撥ね飛ばされ、仰向けになったアーサーは右手を宙に突きだし、サムズアップの形を作る。
答えるように、遅れてやってきた発射音が木霊した。
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