第一章 第二幕
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アーサー達は足早に路地裏の古びたビルに向かっていた。そこは現在『梟』の事務所として使われているのだがーーー
「おいニコラス、お前が先行けよ」
「え!?こんな時間まで遅れたの、お前があの変な奴に銃弾ぶちこんだ後『タイムセールだと!?これは見逃せん…』とか言って別の店に寄ろうとしたからじゃん!!何で俺が先なんだよ」
「結局買えなかったしな···何なんだあのおばちゃん達の闘争心は、命の危機を感じたぞ」
「リアルに傭兵やってるお前が言うと洒落にならねえよ。…そろそろ現実逃避やめて入るか」
そんな感じでなんとも情けなく傭兵とその専属技師(戦歴12年)がドアを開けると
「遅いっ!!!!!」
皆さんは刑事ドラマを見ることがあるだろうか?そういったドラマには大抵署長や警察庁官といった重役が出てくるものだ。そしてそういう人物は豪華な木製のでかい机に座っているだろう。
買い物から帰ってきたばかりの両手が塞がったアーサー達に投げつけられた(·······)のはそれだった。
アーサーは辛うじて不意打ち気味のその攻撃(結構速かった)を避けたのだが、技術屋のニコラスはその限りではなく
「ぐごあっ!?」
「ニコラス!うわ、仕事はできるように怪我させてる!?あんたとことん社員をこきつかうつもりですねボス!!」
「当然だ、私のために馬車馬のごとく働けよ奴れ…社員」
「今絶対奴隷っていいかけましたよねぇ!?」
そんなこんなで『梟』のボス登場。海島流衣、これでも日本人の女性である。
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「えっと…ここ、よね?」
そんな声をあげて路地裏の古びたビルの前に立ったのは西織夕香、アーサーが買い物帰りに助けた(?)少女である。
お礼を言う為…などではない。彼女は何でも屋『梟』ーーーもっと言えばアーサーに依頼があって来たのだ。
今現在、彼女は先ほどの男の仲間に追われている。このままでは遠からず捕まるだろう。
そうなればほぼ間違いなく殺される。
もっとも、もう逃げ続けるのは限界だ。ここを頼って無理ならもう諦めて捕まるしかない。
そんな覚悟で『梟』を訪ねた彼女は
「さーて、お前はまだ罰を受けてないわけだし私特製の新作尋問でも試してみるか?安心しろ、死ぬことはないから、たぶん」
「いやいやいや何でそこでたぶんって、あ、何か変な道具が出てきダメ、すいませんでした謝るからアーーーーーーーッ!!」
豪華な机に押し潰された外人男の隣で、筋肉質な肉体の女性にウィンウィンと音をたてる謎の道具を耳に突っ込まれている男を見た。
というか彼女を助けた男だった。
「ん?お客さんかな?ちょっと待ってくれすぐ終わるから」
「止めてくださいボス!このままだと耳から出ちゃいけないものが!!」
西織は本気で帰ろうかと思った。
「で、ここに来たということは何かの依頼でしょう?話を訊かせてくれる?」
「あ、はい」
あのあと何とか場の収拾をして、今は話を聞いているところである。(机の直撃を食らったニコラスは脳震盪を起こしていたので別室で寝ている)
「あの、私今追われていて、殺されそうになってるんです。そこの···」
「アーサーだ」
「アーサーさんは私を追っていた男を見たと思うんですが。そいつの組織に追われてて···」
「映画みたいな話ねぇ。追ってる奴らについて何かわかる?」
「プロメテウスって名乗ってました」
何の気無しに答えた瞬間、西織は天井を向いていた。訳もわからず起き上がろうとして、喉にヒヤリとした感触を覚える。
「え···?」
「質問だ。嘘をついたら殺す。誠心誠意正直に答えろ。もし嘘をついたら」
アーサーが告げながら片手を西織の右肩におく。
直後、ゴギンッという音と共に西織の肩が外れた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!???」
経験したことのない激痛に全身を震わせるが、重心を押さえて組伏せられている上に、喉元の冷たい感触が西織の体を強張らせる。
「今のを全身の関節でやる。では最初の質問だ『結社』『魔術』『魔法』これらの単語に聞き覚えは?」
「···ッく、あり、ます」
「具体的な説明は出来るか?」
「は、い」
「やってみせろ」
「結社は魔術師が作る様々な規模の組織です。魔術師が扱う技術は魔法と魔術の二種類があります。
魔術は『概念強化』であり、付与した魔力量に応じて刀の切れ味を上げたり物の強度を上げたりすることができます。
魔法は魔術と違い一種類の事象しか起こせませんが、魔術と異なり物理法則を大きく越えた現象を起こせます。魔法は魔術師ごとに異なり、魔力が情報構築体から人の精神を通じて現界するため、その人間の精神の有りようによって魔法が決定されると言われています。」
「お前は魔術師か?」
「は、はい」
「では次の質問だ…お前はどこの結社の人間だ?」
「…私は父の結社の人間でしたが、潰されました」
「プロメテウスにか?」
西織は頷いた。
「プロメテウスは何のためにそんなことを?」
「父は魔術師でしたが優秀な科学者でもありました」
「西織博士、ノーベル科学賞受賞者、日本を代表する科学者で一人娘の西織夕香がいる。そして一週間程前に失踪してる。科学技術は応用すれば魔法の応用性がグンと増す。プロメテウスの狙いは新種の科学技術とかかな。その子は人質でしょ」
海島がキーボードを叩きながら言う。
「それでは最後の質問だ。お前の魔法は、一体なんだ?」
「私の、魔法は···」
ここで西織は口ごもった。先ほど西織が言ったように魔法というものは魔術師の精神によって決定される。
つまりその人間の心の一番奥底にある欲望を反映するのだ。己の魔法を教えると言うのは魔術師にとって、その心のうちをさらけ出すことに等しい。
が、アーサーにとってそんなことは知ったことではない。
容赦なく左肩を外した。
「ッああぁぁッ!!」
「早く答えろ。それとも今度は脚を外すか?」
「···っは。時間を、巻き戻す力です」
「タイムリープか、成る程、後悔してばかりといった顔をしている」
そう言ってアーサーは西織の上からどきーーー両肩を勢いよくはめ直した。
「いっーーーーーーーーーーーーーーーーぎっ」
外された時以上の激痛が走り、せっかく解放されたのに痛みで立ち上がれなくなってしまう。蹲って体を震わせていると
「悪いわねぇ、うちはいろんな結社から恨まれてるし、プロメテウスみたいな大物結社ともなると警戒せざるを得ないのよ」
まったく悪いと思ってなさそうな顔で、笑いながら海島が言う。
ヨロヨロと西織が席にもたれるように座ると
「で、依頼は護衛任務でいいわけ?なら今日からうちで匿うけど」
「断るとは、思わないんですか」
「そんな余裕あるの?」
ニヤリ、と悪魔のように笑って海島は手を差し出す。
「握手で契約成立よ。依頼するなら握りなさい」
西織は少し肩の痛みに耐えるように目をつむり、握手をした。
こうして契約は成立した。
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