第二章 最終幕
二章はこれで終了です。
アーサーは魔力を振り絞り、オーディンの前と自分の背後、二つの場所に手榴弾を生成する。
前者は『必滅神槍』を防ぐため。
後者は己の勝利のために。
(まだ、俺は死ねない)
アーサーは目蓋を閉じる。
この瞑目が、勝利への布石となる。
(姉さんとの約束を果たしていないのに死ぬわけにはいかない!!)
そして爆発までの僅かな猶予が過ぎ、
閃光弾が破裂する。
「なにっ!?」
背後で起爆し、しかもあらかじめ目を瞑っていたアーサーは閃光弾に目を灼かれる事はなかった。
しかし、オーディンは直前に発見した閃光弾に目を奪われ、凝視してしまっていた。
結果、
(目が…ッ)
見えない。
視界はハレーションを起こしたように霞み、真っ白になってしまっている。
(まずいッこれでは『必滅神槍』が…)
『必滅神槍』
極めて強力な魔法だが、僅かながら制限も存在する。
その一つが相手を視界内におさめ、照準を合わせないと『必当』の効果がでないということだ。
今、この状態では、発射することはできても、超高速の攻撃はできない。
そして、
純白の視界の中、ガシャリ、とアーサーが重火器を構えた音がする。
「く、そおおぉぉぉっ」
音を頼りに持てる魔力でできる限りの『必滅神槍』を生成、射出する。
しかし、それは通常の投げ槍程度の速度しか出せず、
「遅いな」
冷徹なアーサーの声が響く、
「じゃあな、神様もどき」
頭を吹き飛ばされる前、オーディンが最後に見たのは真っ暗な砲口だった。
◇◇◇
「いやー、今回も大変だったわね」
ソファーでだらりと寛ぎながら海島は絶賛労働中の奴隷三名を眺めていた。
「ほら、そこの男三人衆。今回はあんたらのせいでこんな面倒臭いことになったんだから、キリキリ働きなさい」
「ボス、俺はあんま悪くない気が…」
「ニコラスはノリで働けば?」
「あっれ…?おっかしいな…俺トールとかとすんごい頑張って戦ったんだけどな…」
ニコラスはトールとの戦いを終え、ぐったりしていたところを『アースガルズ』の残党に『仇をとってやる!!』的なノリで襲われ、ぼろ雑巾のようになって戻ってきた。(戻ってくるまで誰もニコラスが居ないことに気が付かなかった)
「そういえばジークは何でここにいるんですか?」
「あ、どうもジークの姉です」
「姉弟揃ってなぜ?」
「最初からジークは不死だっていうから今回の報酬として、新薬の治験(新しい薬物を投与し、効果を確かめること)を報酬として貰うことになってたんだけどね。『アースガルズ』が潰れて居場所が無くなったから、ウチで預かって宿代替わりに働いて貰うことになったのよ」
「そういうことなんで、お願いしますね、先輩!」
輝くような笑顔のジーク。
この笑顔が海島のしごきによって死んだ魚のような目に変わるのだな、と思うとアーサーの目から光が消えた。
「おおおおお?先輩…!何て良い響きなんだ…!」
ニコラスは妙に喜んでいる。初めて出来た後輩にテンションをあげているのだろうか。どうせ皆同じような扱いに落ち着くのだろうが、何も最初から絶望させる事はないので、そっとしておく事にする。
ジークとその姉、ブリュンヒルデ(海島の鶴の一声で愛称がヒルデに決定)が顔を見合わせて笑い、和やかな雰囲気が漂う。
だからアーサーは若干の緊張をもってジークに訊いた。
「ジーク、俺はお前たちを救えたかな?」
それを聞いて、ジークは一瞬きょとんとした顔をしたが、
「何を当たり前のこと言ってるんですか。救われましたよ、もちろん」
にっこりと、笑った。
「…そうか」
なら、良かった。
アーサーの頭の中で、カウンターが動き、数字が2つ減っていく。
残り、2641。
(あと、2641人、か)
姉との約束を果たすまではまだまだ長い。
アーサーはジークとヒルデを眺め、胸に浮かぶ哀切をそっと押し隠す。
自分はこうはなれなかった、笑い合う姉弟の声を聞きながら見上げた北欧の空は、アーサーの気持ちなど気にも留めずに何処までも蒼く澄みわたっていた。
第二章、了
後書きなど連続して投稿します。