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9 ビッグマザーにて

アレンの視点です

ようやくビッグマザーに着いた。

シンはあいさつ程度はしてくれるようになり、ジーンとはかなり打ち解けることができた。


思った以上に大きな船だ。

そして、プーランクがこの船を欲しがる理由がよくわかる。

空母として使うのに申し分のない船だ。


でかいサルが突然現れた。

俺を押しのけ、嬉しそうにミアの手をにぎる。


「ウー太っていうの。私の友達なの。ウー太、この人は私の旦那様のアレンだよ」


サルは俺の方を向くと歯をむきだしてシシシと笑った。


友好的な笑い…ではないことが、なぜかわかる。

背を向けたとたん、頭突きされた。


「小鳥ちゃんがいなくなった後、ウー太は毎日毎日小鳥ちゃんを探し回って大変だったんだよ」


頭突きされた俺を満足げに見ながらシンがいう。

このサルもミアが大好きらしい。



シンの不機嫌な健康診断を受け、艦長と防衛総括と会うことになった。


赤毛の美女が悠然と座っていた。

その横で頬杖をついている男は…死んだはずの撃墜王ではないのか? 彼の撃墜記録はいまだ誰にも破られていない。


「ようこそビッグマザーへ。私が艦長のカーラだ。ミア、最高の人材スカウトご苦労さん」


美女はニヤリと笑ってそういい、横の撃墜王をつっつく。


「大将、シーモア中佐だ。どうする? この男、絶対使えるぞ」


「おう、そうだな! んじゃ、防衛総括はアレン・シーモアに決定。ミア、ダンナに艦内案内してあげてね。あー、仕事が減って楽になるなあ。もう、万年人手不足でさ」


『大将』とよばれた撃墜王は陽気に呑気にそういった。


目が点になる。…いいのか、それで?


尋問まがいの面接を想像していたので、拍子抜けする。


ミアは当たり前のような顔をして俺の腕をひっぱる。

「すっごいマニアックな戦闘機とかあるから! みにいこ!」

はしゃいだ声でいい、ずんずんと歩いていくので、慌てて後を追った。


ビッグマザーは軍事設備も充実しているし、戦闘機などの整備も完璧だが、やる気がないというのか、なんというのか…。廊下に玉ねぎの入った袋が積んであったり、滑走路が一本荷物でつぶされていたり、ひどい有様だった。機械整備室では、それはお前の趣味のオモチャを作っているのだろうとしかいえないヘンテコなロボットが置いてあったり、本来監視モニターのはずのそれには意味不明のパンダが踊る画像が映し出されていたりした。


「全部片付けろ! 通路をふさぐな! 監視モニターを元にもどせ!」


思わず叫んでいた。



「いやあ、さっそくヤル気満々だね。頼もしいなあ」


いつの間にか後ろに立ち、のんびりという大将にキレそうになる。緊迫感がないにも程がある。


『大将』から簡単に防衛関連の説明を聞いていたが、あまりにも酷い。


「なんなんだ、その激ヌルな防衛体制は!」


また、思わず叫んでいた。

どれだけの人間が、どういう能力をもっているのかすら、ハッキリしない。


「すまないが、防衛管轄の人間を集めてください」


そういうと、大将は頭をかいた。


「誰ってハッキリきめていないんだよ。まあ、戦闘機乗りの訓練したやつと、軍にいたことがあるヤツをみんな集めてみるか。あ、整備士は優秀なのが揃っているんだよ」


気が遠くなった。茫然とする。いい加減すぎる。


ピンポンパンポーン♪

「おーい、宇宙防衛隊入隊希望者全員集合」

レトロかつ間抜けな感じに『大将』の声が艦内にこだまする。


…こんなので本当に大丈夫なのか?

絶対に大丈夫じゃない。光速で自分の問いに答えが出た。 



「あー、張り切っているところ、申し訳ないけど、宇宙防衛隊必要なくなったかも」


シンがひょっこりと顔を出した。


「…どういうことだ?」


「ロウから情報が届いたんだ。ビッグマザー計画、中止になりそうだよ。プーランク宙軍のエースで要のアレン・シーモアがビッグマザー側についたって情報が流れたみたいだね。ただでさえ、エースが突然辞めて混乱しているところに、そんな情報が流れちゃったら、士気も落ちるよね。おまけに、プーランクのビッグマザー計画の内容が漏れて、あちこちでニュースになっている。プーランクは民間船を乗っ取って軍事利用しようとしているって、帝都国や他の国が大げさに叩いてくれている。ロウがうまいこと情報操作してくれたみたいだね。 えーと、今回の料金は10万ルオか。ロウは相変わらずぼったくりだな。ねえ、アレン、退職金出た?」


シンがニヤニヤ笑っている。


「出るわけないだろ。叔父を二度も殴って首になったんだから」



・・・・・・・・・


ミアは元気になった。

農場で働いたり、戦闘機に乗ったり、トレーニングをしたり。

しっかり食事をとり、ぐっすりねむる。

心なしか、最近ちょっとふっくらしたように思う。

プーランクにいた頃は、笑顔でもどこか影があった。

寂しそうな、心細い笑顔だった。

それが、こんなに変わるものなのか。

食事をもりもり食べるときも、俺にくっついて眠るときもミアは幸せそうだ。

幸せそうなミアをみていると、温かな気持ちになる。


自分自身も変わったと思う。

プーランクの空母アースにいた頃は、私室にいても気が休まることはなかった。

あくまで、休憩をとることも寝ることも食事も仕事の一環だった。

そして、プーランクの首都にある自分の家も、仕事と仕事の間をつなぐ空間でしかなかった。

ここにいると、時間や空間が一つ一つ切り替わる。激ヌルな防衛体制を立て直している時間、ミアと上手い飯を食う時間、仲間と将来の計画を練る時間、ミアと眠る時間・・・。生活を楽しむ自分がいることに驚く。


ビッグマザー計画は幸い今のところ中止になったようだが、先はわからない。

防衛体制の甘さは目に余るので、防衛総括として、やることは本当にたくさんある。万年人手不足、といっていた『大将』の言葉に嘘はないらしい。あれこれ動き回るうちに、いつの間にかビッグマザーの一員として馴染んでいた。


そういえば、この前、マッド博士が乗船してきてミアの目の色を元に戻していた。

博士はトレーラー爆破のときに怪我を負い、片足義足だという。ミアそっくりのアンドロイドN209を連れていた。彼女も爆破に巻き込まれたため、莫大な費用をかけて再生させたそうだ。もっとも、完全に再生させたつもりでも、全てが元に戻るわけではなく、少し違った人格?になってしまうらしい。思えば、マッド博士がいなければ、俺がビッグマザーに来ることもなかったかもしれない。


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