8 ビッグマザーへ
アレンの視点です
高速シャトルをいくつか乗り継ぎ、ビッグマザーへ向かう。
シン・ジルフィードという男は、俺とは目を合わせようともせず、そっぽを向いてすわっている。
完全に嫌われているらしい。
医科大学を卒業して製薬会社で働いていたというから、飛び級しているにしても二十歳はすぎているはずだが、まるで少年のように見える。
反対に、ジーン・グラントは気さくだ。
かなりの男前で、三十代半ばといったところだろうか。
ミアは俺にもたれてうたた寝している。
アレンと一緒だと良く眠れるの。ミアはそういって、俺を枕代わりにしてよく眠る。
安心しきって俺に頭を預けている。
それにしても、ずいぶん遠くまできてしまった。
「シーモアさん、プーランクを守ってきたあなたが本当にビッグマザー計画を止めてくれるのですか?」
ミアの寝顔を見つめていると、ジーン・グラントが不意に話しかけてきた。
まだ俺を疑っている。
無理もない。
俺だって祖国を裏切るような真似は、できればしたくはない。
「確かに俺は国防のためならどのようなミッションもこなしてきたが、ビッグマザー計画はどう考えても侵略行為だ。ここへ来る前にマクバガン議員を通して、計画の見直しの嘆願はしてきたが、動き出した計画は止められないだろう。プーランクは帝都国との開戦に戦々恐々としているが、実際の相手は帝都国だけではない。あなたもご存じのように、宙域の航海の盛んな要所要所がプーランクの領域となっている。プーランクが宇宙開発を他国に先駆けて行った結果だが、他国の宇宙開発が追いついてきた今、プーランク領域を公海として開放しろという声が大きい。帝都国が領空侵犯を繰り返す背景には、他国の願望や後押しがある。帝都国と開戦してしまえば、他国との関係にも影響する。政治的にも出口の見えない戦争になる。政治的な先行きが見えないまま開戦することになれば、泥沼になり、無駄な殺戮を重ねるだけになる。ビッグマザー計画が成功してしまえば、開戦を見直すことなく、泥沼に突き進むことになる。止めるだけの意味はあると思っている」
「…優等生な答えだ」
「ミアがいればそれでいい、と答えた方がよかったか?」
俺が言うと、ジーンはもう何も言わなかった。
ジーンはもっとおっさんです