7 惑星ロペにて
惑星ロペにて。
「なんで、アンタまでいるの?」
シンがアレンを睨みつけている。
シンには、ロウさんから連絡を入れてもらってあるから、アレンが来るのは最初からわかっていたはずだ。ビッグマザーに私とアレンを乗船させてくれるよう、お願いしてもらっていたのだけれど。私もアレンもプーランク軍に籍があったし、ビッグマザー計画のこともあるし、乗船を拒否される可能性は覚悟していた。
「小鳥ちゃんだけでよかったのに」
敵意丸出しのシンに、アレンは苦笑している。
「ミア、目の色変えたんだな」
ジーンさんもシンと一緒にロペまで迎えにきてくれた。
迎えにというよりは、アレンや私をビッグマザーに連れて行くかどうか見極めるために来たのだろう。
「アレン・シーモア中佐ですね。ジーン・グラントです」
「アレン・シーモアです。もう軍を辞めたので中佐ではありませんが」
アレンとジーンさんは握手しながら、互いを真っ直ぐみている。
「そうでしたね。でも、あなたの退職をよくゴドウィン・シーモアが許しましたね」
「…叔父とは縁を切りました。切られた、ともいうかな」
アレンの言葉に胸がズキリとする。
「軍人一族のあなたが? そう簡単にいくものですか?」
アレンを見あげると、真剣な表情でジーンさんを見ていた。
「もちろん簡単ではないし、それだけの事情がありました。でも、もう決めたことです。グラントさん、あなただって昔はプーランク軍にいたのではないですか?」
「私はあなたのような名家の生まれでもないし、エリートでもなかったですからね。はっきりいうと、ミアを受け入れる準備はあるが、アレン・シーモアさん、あなたのような大物は迷惑です。あなたは根っからのプーランク軍人だ。同郷のお仲間も、もうすぐ攻めてくる。お仲間と戦えるんですか?」
ジーンさんは試すようなことをいう。
「ミアと戦うよりはマシだ」
呻くように、アレンが答えた。
「民間の軍隊はどうです? あなたほどの名前があれば、どこでも歓迎されるでしょう」
「当然それも考えた。だが、ミアは死亡したことになっていて、国籍も無ければ、難民登録すら無い。他国に入国するのも、どこかの軍隊へ入隊するのもミアを連れていけない。それに、ミアはビッグマザーに戻る事を望んでいる。逆に聞くが、ビッグマザーをプーランク軍が襲うと仮定して、あなた達に勝ち目はあるのか? 勝てる自信があると?」
「真っ向勝負なら負けるでしょう。だが、勝負はそれだけではない。それとも、あなたを受け入れれば勝てるのか?」
「装備や人材を見なければハッキリしたことはわからないが、プーランクにいたときの断片的な情報から判断すれば、私が指揮をとれば負けることはない」
「ほう? あなたが指揮をとり、プーランク軍と戦うと?」
ジーンさんは意地悪な顔でいう。
私は見ていられなくて、アレンの腕を引っ張った。
「もういい。もういいよ、アレン。アレンがプーランクと戦う理由なんて、ないよ。行こう。運び屋だってなんだってできるから。二人で生きていこう?」
けれど、アレンはジーンさんから視線を逸らさなかった。
「ミア、黙っていてくれ。グラントさん、俺はそれだけの覚悟をしてここに来ている」
暫くの沈黙があった。
そして、ジーンさんが頷いて、いった。
「とりあえず、合格。正式な乗船許可は、健康診断と、艦長面接の後になる。明日、ビッグマザーに向けて出発するから、スカイタワーのロビーに8時にきてください」
ホッとしてアレンを見あげたけれど、アレンの表情は変わらなかった。
アレンにしてみれば、ビッグマザーに乗船できたところで、戦う相手が私から今までの仲間に変わっただけなのだ。
思わずうつむいた私の頭を、大きな手が撫でる。
「ミア、よかったな」
優しいアレンの声に泣きたくなった。