3 手紙
マッド博士は大丈夫だろうか。
N209も。
ロウさんの家で、私は膝を抱えて座っていた。
アンドロイド工場宛てに送り返してもらう予定だったけれど、こんな状況じゃ無理だ。ポツポツと今までの経緯をロウさんに話しながら、そのまま三日目の夜を迎えてしまった。
アレン、きっとすごく心配してる。
心配っていうより、死んじゃったって思ってるんだよね。
どうしよう・・・。
「ロウさん、アレンに私は無事って、連絡できない?」
ロウさんはごそごそと端末をいじっていたが、顔をあげないままいった。
「・・・アンタの旦那に? 連絡はできるけれど、アンタ死んだことになってるんだよ? 生きていることを証明すると軍の規則破ったことバレるし、アンタもマッドも、エリートの旦那も困ったことになるんじゃない?」
「でも、私が生きてることだけでも…」
「伝えてどうするの? 伝えた後どうするつもりなの? それをよく考えてからにした方がいいよ」
「………」
「アンタさあ、もうビッグマザーに戻れば? 確かにビッグマザーはプーランク軍に狙われているけど、逃げるなり隠れるなり何か手をうつと思うよ。あそこの連中だって馬鹿じゃないし。アンタの話を聞く限り、ビッグマザーに戻るのが一番マシだと思う」
シンからもらった手紙にもビッグマザーに帰ってこいと書いてあった。
プーランクと帝都国の紛争の可能性や、私が戦闘機乗りとして駆り出されることを心配していた。永世中立惑星ロペから連絡をすれば、何とかするから、と手紙にはかかれていた。
丁寧にロペまでいける航宙チケットまで同封されていた。
「でも、アレンが…」
言いかける私にロウさんは微かに同情するような目を向ける。
「アレンねえ。確かにイイ男だけど、あのタイプの男は軍人としてしか生きられないと思うよ。決してアンタの物にはならない。アンタがあの男の物になるしかなかったのに、それができないからこんなことになっちゃったんでしょ。アンタに振り回されていたら、あのタイプの男はダメになっちゃうよ」
ダメになっちゃう、という言葉が酷く重く響いた。
エリート軍人として生きてきたアレンの汚点かもしれない自分。
もうすでに、さんざん迷惑をかけているような気がする。
私が生きていることを知ったら、アレンはどうするだろう?
やっぱり、黙ってプーランクを出た方がいいのだろうか。
正直、プーランクには何の思い入れもない。
国家同士の戦争も、宇宙船どうしの小競り合いも、私にはずっと飯の種でしかなかった。
危険あるところ、需要あり。
戦いあるところ、飯あり。
それだけだった。
唯一、自分の意志で戦ったのが、DDDだ。
それでも、今はアレンがいる。
アレンに何も告げないまま、ビッグマザーへ?
ずっと一緒の約束をしたのに?
そのまま一生会えない可能性だって…ある。
そう思うとゾッとした。
「もしビッグマザーに行くつもりなら早くした方がいいよ。アンタを手荷物扱いにして、アンドロイドとして永世中立惑星ロペまで送ってあげるよ。アンタはアンタの人生を歩んだ方がいいと思う」
ロウさんはキッパリとそういった。