1 作戦
プーランク工科大学の駐車場に止めてあるトレーラーの中で、マッド博士と私は悩んでいた。プーランク軍がビッグマザーを狙っていることを、なんとか遠く離れたビッグマザーのみんなに伝えたい。
「伝えるの自体はメール便一つでものすごく簡単にできるんだけどなあ。ビッグマザー関連のメール便はプーランク軍が絶対監視しているだろうし、危ないよな」
万が一、軍の機密をもらしたのがバレたら大変なことになる。
妻が軍事裁判にかけられるようなことになれば、アレンにも迷惑がかかるだろう。
どうしたものか。
「通信とか情報関係に強いロウって友人がいるにはいるけれど、生憎プーランクにはいない。隣国のセビリャに住んでいる。ロウに直接頼んでみるかい? 彼なら力になってくれるし、いろいろな情報も持っている」
マッド博士が顔をあげていう。
セビリャと聞いてがっかりした。セビリャは距離的には近いが外国だ。
正規軍人が国外へ出るには、軍に理由を書いた届を出す義務がある。許可が下りなければ出られない。私が突然国を出るのはかなり不自然だ。私は正規軍人になったとき個人認識チップを体内に埋め込んでいる。軍には私の正確な居場所がわかってしまう。通常からモニタリングしているわけではないが、出入国の際にはチェックされるだろう。それを伝えると博士はうーん、とうなった。
「レトロに郵便のお手紙でお願いするって手もあるか。でも、ロウは届いた小包を机の横に積んでおいて、そのまま忘れているようなヤツだからなあ。万が一、郵便物が人手に渡ると証拠になっちゃうし、やっぱり直接会って頼みたいところだな。僕かN209が行ければいいけれど、明日にはアンドロイド工場に行ってN209の修理をしなければならないしなあ」
マッド博士はN209をみていう。
「マッド博士だって、いろいろ大変なんでしょ。そういえば、N209の出入国って、どうなっているの?」
外国人のプーランク出入国は結構手間がかかるはずだ。
「アンドロイドの人権が認められている国は少ないからね。プーランクもセビリャもアンドロイドは貨物扱い。輸送会社に頼めばペットと同じように運んでくれるし、一緒に同行したいときは手荷物扱いになる。工場の出荷伝票と商品証明がついていれば、国境はフリーパスだよ。きちんとした商品証明があれば、検疫もスルー」
博士はそういった後、突然ポンッと手を打った。
「そうだ! ミアを出荷しちゃえばいいよ」
「は?」
「工場名義でミアをアンドロイドとしてロウに輸送しよう。このトレーラーには工場から診察や検査のためにアンドロイドがよく送られてくるんだよ。ここでアンドロイドの最終検査をして持ち主へ送ることもあるから、工場の商品証明もここで作れるし、出荷伝票も作れる。ミアを箱に入れて送っちゃえばいいよ」
「そんな、いい加減な」
「高速便で送れば、ここからロウのとこまで国境超えても半日で配達してもらえるはずだよ。下手に危険を冒して通信したり、国境超えするより、よっぽど楽だよ」
「でも、バレない?」
「基本的に貨物は危険物かどうかをチェックするだけだし、商品証明書をつければ、検疫もないから、いちいち箱を開けて見ないよ。見たとしたって、本物のベビードールを間近で見たことがあるやつなんて、めったにいないんだ。こういうものかと思うだけさ。それで、ロウのところに着いたら、用事を伝えて、それからまた送り返してもらえばいい。アンドロイド工場宛てにして」
「でも、私の個人認識チップはどうなるの? 体内に埋め込まれているんだよ。国境を超えるときにチェックされないかな? 貨物なら大丈夫なのかな」
「ああ、首の後ろに埋め込んであるドッグタグね。とってあげるよ。首の後ろ、ナイフでほじればすぐとれるから。送り返してもらったところで、また埋め込んであげる。一応目の色も変えておこうか。グリーンアイズがベビードールの標準だから、グリーンのカラーレンズをつけてあげる。それから、服もそれっぽいのに変えて、髪型も」
マッド博士はこころなしか楽しそうにいった。
「・・・大丈夫かな」
「ミアは悪運が強いから、大丈夫」
マッド博士は無責任な発言をして、ニッコリした。




