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10 死の知らせ

アレン視点です

「アース」を降りるため、地上勤務の希望を出した。

もちろん、異動希望が通るとはかぎらないし、異動できるとしても半年以上先になるだろう。最近、帝都国の領空侵犯が頻繁になっている。こんなときに異動希望など、出すべきではなかったかもしれない。国を守らなければ、ミアを守ることなどできないのだから。


ミアのことを気にかけながらも、「アース」での任務に忙殺されていた。


そんなとき、業務のため、プーランク本土に戻っていたハラウェイから緊急の電話が入った。



「どうした? 何かあったのか?」



俺の問いに一瞬の重い沈黙があった。

その沈黙で、何かまずいことが起こったことがわかった。




「ミアちゃんが」



ゾッとする。

何か、一番嫌な事が起こっている。




「亡くなった」


電話の向こうでハラウェイはそういった。




「・・・待ってくれ。いったい、どういう・・・」


ミアが?


「アンドロイド工場爆発の事件は知っているか? あの爆発に巻き込まれて亡くなったそうだ」



「・・・それは、本当なのか?」


アンドロイド工場とミアに何の関連があるというのだ?


「アンドロイド工場にマッド博士というアンドロイドの世界権威が来ていて、ミアちゃんも同行していたらしい」


「ミアが・・・? 聞いていない」


ミアとマッド博士の接点が全く思い浮かばない。

何かの講演会を聞きに行くという話は聞いていたが。



「何かの間違いじゃないのか?」



ハラウェイの話を聞いても信じられなかった。


「俺もそう思いたいが、ミアちゃんの個人認識チップの位置を照合しても間違いないそうだ。遺体は・・・損傷が激しくて回収できなかったらしい。マッド博士は大怪我をしたが、命は助かったそうだ」


正規軍人は体内に個人情報を記載したチップを埋め込んでいる。

ミアも正規軍人となり、チップを埋め込む処理をした。

個人認識チップを確認したということは・・・。



そんな、馬鹿な。

ミアの安全を願ってアースから降ろし、退職届も書かせたのに、なぜ・・・。


「爆発って、いったいどうして・・・」


「狂信的なアンドロイド排除団体がいくつかあるのは知っているだろ? アンドロイドを世界から撲滅させようとしている団体。マッド博士もアンドロイド工場も恒常的に脅迫されていたそうだ。そいつらが爆発物を仕掛けたとみられているらしい。ミアちゃんはマッド博士と一緒にいたせいで巻き込まれた可能性が高い」



どうしても、信じられなかった。

プーランク行のシャトルを無理に出してもらい、プーランク本土の空港から軍用ヘリをチャーターしてその現場に向かった。ハラウェイが全て手配してくれていた。



視界に奇妙な光景が広がっていた。

微かな違和感があった。

アンドロイド工場が爆発したと聞いていたが、アンドロイド工場自体は無傷で、駐車スペースにあるトレーラーらしきものが大きく破損し、めちゃくちゃになっていた。



この中にミアがいるというのか?


嘘だ。

個人認識用チップの位置は軍のヘリのレーダーにも映し出されていた。

ミアに埋め込まれた個人認識チップの位置は界下の破損したトレーラーを指している。

ミアがここに、この瓦礫の中にいるというのか。


嘘だといってほしい。


ミアは悪運が強い。

こんなことで死ぬはずが、ない。


ヘリを降りたところで状況は何一つかわらなかった。

トレーラーは、前半分が大破し、後ろ半分は何とか四角い形を保っている。これでは、マッド博士が生きていたことが奇跡のようだ。

マッド博士は、大怪我をおい、治療のため面会謝絶らしい。

ハンドモニターには、ミアの個人認識チップの位置が示されていた。

チップの示す場所には焼け焦げた何かの形のものが折り重なっている。

そこには、人間と思われる姿形のものは残ってはいなかった。




花嫁姿で微笑んでいたのはついこの間のことではなかったのか。

アレンの腕の中は安心できるから好き、といっていたのは、束の間、宇宙から戻ってミアを腕に抱いたときだった。

まだ数える程しか腕に抱いていない。

奪うように籍を入れ、ミアをプーランクに閉じ込めてしまった。

ミアと一緒にいるために、ミアを守るためにアースを降りる決意をしたばかりだというのに、どうしてこんな・・・。




「アレン」


ハラウェイに肩に手を置かれ、ようやく我に返る。

ずい分長い間、立ちつくしていたらしい。


「そろそろヘリを戻さないと。・・・いこう。本部の人間が話をしたいといっている」

ハラウェイはヘリの方をふり返って言った。

ヘリを急きょ無理やり出させた。

そろそろ戻らなければならないのはわかる。


なぜ、ミアはアンドロイド工場などにいたのか。

もしどこかへ出かけるならいつもは連絡ぐらいはくれる。

それなのに、移動の連絡も何もなかった。

ミアは俺が帰るのを心待ちにしていた。

俺が帰ると子犬のように飛んできて飛びついてくる。

アレン、淋しかった。

おかえりなさい。

ミアの笑顔。

それから、キス。

それから・・・。


「アレン。聞いているのか」


モニターが示すチップの位置にはミアの気配すらない。

だがヘリに戻ったところで、話をきいたところで、ミアはいない。

何の意味もなかった。


「・・・わかった。お前はヘリで戻ってくれ。俺はもう少しここにいる」


ミアのチップの居場所。

そこには何もなかった。

それでも、もう少しだけそばにいたかった。




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