8 逢瀬
アレンの視点です
ミアの様子がおかしい。
電話では、何がどうしたかよくわからないが、叔父がミアに何か酷いことをしたのだろうと見当はついた。あの後電話をしても、ミアは大丈夫の一点張りで、何があったか話そうとはしなかった。
子供のいない叔父夫婦に、俺は随分と目をかけられてきた。叔父と同じ士官学校を卒業し、同じ宙軍を選んだ事を本当に喜んでいた。叔父がやり手で情け容赦のない人間であることは知っていたが、その牙が自分に向く事は今まで無かった。俺は常に叔父の自慢の甥だったのだ。
叔父が用意した縁談を断るまでは。
家に帰るため、無理やり本土にあるプーランク本部に用事を作り、アースを降りた。
本部で用事を済ませ、家へ向かう。
ドアを開けるなり、ミアが子犬のように飛びついてきた。
「アレン、淋しかった。おかえりなさい」
ミアの潤んだ目をみて、胸を突かれる。
「遅くなって悪かった」
ミアを抱きしめると、嬉しそうに首に手をまわし、キスしてくる。
ミアの小さな唇。
小さな体。
柔らかな白い髪。
ミアの輪郭を確かめながら、ソファへ移動する。
ミアを抱きしめながら、また、ミアが少し痩せたことに気付く。
私達、ずっと一緒だよね?
ミアが俺を見あげていった。
不安そうな眼差しに胸が痛む。
大丈夫だよ。ずっと一緒だ。
そう答えると、ミアは微笑んで目を閉じ、俺の胸に耳を押し当てる。
アレンの腕の中は安心できるから、好き。
ミアがつぶやくのが聞こえた。
タワーの赤い点滅がガラスの向こうに見えた。
ミアは俺の腕の中で、すやすやと眠っている。
喉が渇き、ミアを起さないよう、そっとベッドを抜け出した。
キッチンの水道の横に見慣れない小さな箱を見つけ、愕然とする。
睡眠薬の類の箱だった。ミアはいつから薬を常用しているのだろう?
傭兵の頃、ミアは戦闘薬と一緒に睡眠導入剤も使っていた。
眠っているミアは、小さく、頼りなく、あどけなかった。
宙軍パイロットになるために、ずっと子供の頃から努力してきた。
宇宙を飛ぶのが好きだった。
立派な軍人になるために、生きてきた。
それが、当たり前だった。
だが、そろそろ地上に戻るときが来たのかもしれない。
地上でもやることはたくさんあるはずだ。
地上勤務なら、もっとミアのそばにいてやれる。
タワーの赤い点滅が消え、窓から明るい陽射しが差し込んでくる。
俺は「アース」を降りることを決めた。