4 仕事2
「ビッグマザー回収プロジェクト?」
嫌な予感がする。
「ミアちゃんが捕虜として捕まっていたビッグマザーには、プーランクからいろいろな軍事技術を持ち逃げしたやつらが沢山いてね。それらを取り返すのが今回の任務なんだ」
シンは、ビッグマザーには亡命した人や脱獄した人、ヤバい組織から追われている人が乗っているといっていた。プーランクから亡命した人々もいたはずだ。レントン博士はプーランクで兵器関連の研究をさせられていた、と聞いたことがある。
「亡命した人を連れ戻すということですか?」
私がきくと、ハラウェイは呆れた顔をした。
「亡命? プーランク側からすれば、軍の金で研究しておいて、嫌になったら技術を持って逃げだすやつなんか、略奪、横領をしているのと変わらないよ。しかも、やつらはビッグマザーの中に研究施設まで作って、パトロンから金を受け取って研究を続けているらしいじゃないか。どちらにしろ、ビッグマザーにはプーランクの軍関係の技術、情報が蓄積されている。ビッグマザーごと取り返すしかないんだよ」
ハラウェイは当たり前のようにいう。
「ビッグマザーごとって、プーランク軍に関係ない人がたくさん乗っているのに?」
私がきくと、ハラウェイは肩をすくめた。
ビッグマザーにプーランク軍関係から逃げてきた人が乗船しているのは確かだが、ビッグマザーの船自体はプーランクとは何のかかわりもないはずだ。それをビッグマザーごと取り返すというのは、略奪と大差ないのではないのだろうか。
「そんなことまで構っちゃいられないよ。ビッグマザーは空母としての利用価値が高い。空母が手に入るなら、それに越したことはないさ。それにビッグマザーはどの国にも属していない。ビッグマザーがどうなろうと、誰も文句はいわないよ」
簡単にサラリといってのけるハラウェイに、言葉が出なかった。
「ただ、理由も無しにビッグマザーをいきなり『回収』するわけにもいかないからね。とりあえず、軍の技術・情報を持ち出してビッグマザーに逃げ込んだ連中のリストが必要なんだ。ミアちゃんはビッグマザーにしばらくいただろう? リストの照合を手伝ってほしい」
自分の背を嫌な汗が伝うのを感じる。
こんなはずじゃなかった。
私はアレンと一緒にいたかっただけで。
「今回のプロジェクトは所属、階級関係なくメンバーを集めている。おいおい他のメンバーも紹介するよ。ミアちゃんは「アース」に長い間いたから、艦内の案内はいらないよね。あと、プロジェクト期間中は「アース」に常駐してもらうから、アレンと一緒に住めるよ。えーと、今日はこんなところかな。あ、そうそう、新しい身分証もらってきておいて。じゃあ、あした1階F-2室に9時集合ね」
ハラウェイはそういうと、ひらひら手を振って行ってしまった。
どうしていいか、わからなかった。
その夜、アレンの部屋に入れてもらった。
「移動時間が長かったから、疲れただろう?」
元気の無い私を、移動の疲れとアレンは解釈したらしい。
アレンに優しく抱きしめられる。
いつもなら安心するはずの腕の中なのに、私はいつまでも眠れなかった。