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4 紅茶

「ミア。おーい。」

耳元で怒鳴られて私は飛び起きた。

ルーク傭兵隊長だ。

起きた拍子に何かがバサリ、と落ちた。

拾い上げると軍服だった。


「シーモア少佐の軍服じゃん。階級章のついた服を置き去りにするなんて、減給モノだな」

ルークはいう。

軍人は階級を大切にする。

なるほど、階級章を失くすと大変そうだ。

階級章を失くすと減給で、戦闘で命を失くせば恩給がもらえるシステムはよくわからないけど。

何故、少佐が大切な階級章つき軍服を置きっぱなしにするのか理解に苦しむ。


「飯いかないか? 今日は客船の連中も来ているから、食堂混むよ。早めにいこう」

ルークはそういったけど、私は食欲がなかった。いつものことだけど。

「うん。その前にこの服返してくる。先行ってて」

私がそういうと、ルークは頷いた。

「わかった」

ルークは私がドラッグを使った後、必ず食堂の食事に誘う。ドラッグを使った後は食欲が落ち、食事を抜いてしまう事を知っているのだ。いつも私が食べ終わるまで、見張るようにみている。


少佐の居住スペースは私達傭兵の居住スペースと違う。

フロアも違う。

身分証がないと廊下にも入れない。

床にわざわざ綺麗な絨毯まで敷いてある。

コーヒーをこぼしたらどうするんだろう、と私はどうでもいいことを考えた。


「少佐、服返しに来ました。階級章、大切でしょ」

モニターごしに服をみせた。

すぐにドアロックが解除され、少佐が部屋から出てきた。

「ああ、ありがとう。入って」

少佐はいつもとは違う私服で、ラフな格好をしていた。

白のシャツを一枚さらりと羽織っている。

私は一瞬躊躇したが、VIP待遇の人の部屋がどうなっているのか興味がわいて、入ってしまった。

私の部屋と全く違う。

私の部屋は部屋というよりはカプセルに近い。ほとんど、寝る場所しかない。それでもカプセルの個人用の寝床があるだけで感謝だ。複数雑魚寝で寝場所の陣取りあい、早くイビキをかいたものの勝ち、みたいな空母にいたこともある。

少佐の部屋は落ち着いた内装にベッド、テーブルに本棚、簡単なキッチンまである。もう一人住めそうなクローゼット。このクローゼットの方が私の部屋より大きいかもしれない。

あまりの違いに驚いた。同じ人間の住むスペースの違いに。


良い香りがして、目の前に紅茶が置かれた。

「・・・」

こんな香りは初めてだった。

お茶といえば、お湯に色さえつけばいいと思っていた。

で、なければアルコール。

でも私はアルコールは飲めない。

ドラッグを多用しているせいか、酔いが早い上にものすごく気分が悪くなってしまう。


私はコップを包み込むようにして持つと匂いをかいだ。

そっと口をつける。

静かな時間だ。

香りだけで時が経つなんて、生まれて初めて知った。


コップから顔を上げると少佐が笑ってこっちをみていた。

見たことが無いような柔らかな笑顔。


「紅茶が気に入った? 気に入ったなら茶葉を持っていくといい」

そういわれても、私の部屋には優雅にお茶を入れるスペースなんて無い。

私は首を横に振る。


「ごちそうさまです。服を持ってきただけなので失礼します」


私が立ち上がると、少佐も立ち上がった。


「よければ一緒に食事をしよう。今日は一般の食堂は混んでいるだろう。上階にある食堂にいこう」


少佐はそういったが、私は一般人なので、と、断った。


「ドラッグは止めろ。戦闘ごとに戦闘薬、睡眠導入剤はどう考えても多すぎる。体に負担が大きすぎる」

麗しく、無駄なお説教。


「戦闘薬を使わずに宇宙に出たら、パニックを起こして撃墜されます。私に死ねというんですか」


私はそのまま部屋を出た。


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