4 対面
アレン少佐視点です
ハラウェイから電話があった後、ルーナ女医(今はもう医者ではなく政治家だが)に連絡をとり、ミアの収容された病院へ向かう。ミアは、緊急冷凍の覚醒技術があるプーランクの軍の病院に収容されていた。
案内されたフロアは他のフロアと違ってガランとしていた。
長い廊下を、落ち着かない気持ちで歩く。
曇りガラスで仕切られた病室にミアは寝かされていた。
白すぎるシーツに包まれて眠るミアは、まるでセクサロイドの「ベビードール」のように見える。
せっかく桃色でふっくらしていたほおも元通りになってしまっていた。
長い睫が濃い影をおとしている。
こんなことになるのなら、あのとき無理やりにでも連れ帰ればよかった。
そっとほおに触れてみる。
「大丈夫、健康体よ。この子、本当に悪運が強いわね」
ルーナがミアの寝顔をのぞきこんでいう。
「さっき、ドクターと話をしたの。なんでも冷凍ガス保存された状態で漂流していたんですって。旧式の船にはよくある装備らしいけど、緊急時にクルーを冷凍保存して漂流させ、SOS信号を出して仲間に拾ってもらうの。 まあよく無事だったわよね。とりあえず体は異常なく覚醒したそうよ。さっきドクターが全部調べたっていっていたわ。覚醒に失敗すると体が腐っちゃうし、最近は絶対にやらないらしいけど。うまくいってよかったわよ。後は彼女の処遇だけれど、あっちで話しましょう」
ルーナは病院内に設置されたセルフ式の小さなカフェを指さし、長い脚で歩いていく。
今日は白衣ではなく、颯爽としたスーツだ。
今は医者ではなく、政治家としての活動を始めている。
そのせいか、髪型もクールなショートボブになっていた。
そんな多忙な彼女へ、ミアの処遇のことで無理にお願いをしたのだ。
議員の両親を持ち、自身も政治家として動き始めた彼女の発言権は更に強まっている。
「相変わらずあの子に甘いのね。あの子、傭兵隊長のルークと駆け落ちしたのかと思っていたわ」
クッキリと紅い唇で彼女はいう。
「あの子が不利にならないよう、プーランクの「アース」所属の傭兵として、DDDから荷を奪還した、というシナリオを軍部にゴリ押ししておいたわ。DDDから奪還した荷物は国宝級のモノらしいし、勲章ものの功績になりそうよ。ついでに功績を理由に、あの子がプーランクの国籍を取得できるよう、軍部に働きかけておいたわ。居住歴の無い外国人がプーランクに帰化した場合、一年間は身元引受人が必要というきまりがあるの。だから、あなたがあの子の身元引受人になるといいわ。また一つ貸しね。」
ニッコリ笑って言う彼女は、前のような挑発的な笑みではなく、絶対的な笑みへと変わっていた。