3 少佐2
ミアは俺の腕を振り払うと、あてつけのように娯楽ルームの一番端のソファにゴロリと横になり、目をつぶってしまった。
ミアの白い髪が額にかかる。
長いまつげは黒い。
ミアに初めて会ったときのことを思い出す。
戦闘機から降りてきた少女。
防護スーツを着ていなかった。
無造作に白い髪をかきあげ、別の戦闘機から降りてきた男に無邪気に手をふっていた。
事務処理に手間取り、深夜3時にラウンジの前を通ったとき。
ミアは灯りの消えたラウンジで窓に背を向けて座っていた。
ボンヤリと頬杖をついて宙をみていた。
寂しそうな背中だった。
ミアがセクサロイドに似ている、とからかわれているのは知っている。
だが、ミアをみていると性的な生々しさよりも、無機的な寂しさを感じるのは何故だろう?
ハッと気が付くと、周りの連中が面白そうにみている。
自分の上着を脱いで連中の視線を遮るようにミアにかけ、娯楽ルームを出た。
娯楽ルームを出て「保健室」に向かう。
「あら、少佐。どこか悪いのかしら?」
女医のルーナがクッキリとした赤い唇で笑う。
白衣、香水の匂い、美貌、微笑み、長く綺麗な脚。彼女の信者はたくさんいる。
「俺じゃない。少し聞きたいことがある」
ぶっきらぼうにいうと、ルーナは少し首をすくめるしぐさをした。
「はいはい。座ってくださいな。コーヒーでも淹れるわ」
「いや、いい。あまり時間が無い。傭兵に渡しているドラッグのリストがほしい」
ルーナは苦手だ。
綺麗で頭も良いが、笑顔からため息まで、全てが演出のようにみえる。
「一応個人情報なんですけど」
ルーナは俺のいうことは無視してコーヒーを淹れ、前に置く。
「部下の健康を管理するのも仕事の内だ」
ルーナは仕事が早い。
俺の言葉には答えず、一瞬でデータをモニターに映し出す。
「戦闘機乗りの傭兵の分でいいのね。・・・これだけよ」
簡単に薬の種類を説明してくれる。
モニターに映し出された数字の多さに絶句する。
戦闘薬に睡眠薬、鎮痛剤に避妊薬。
戦闘薬の量は半端ない。
「ドラッグを使用していないのは傭兵では隊長のルークだけよ。私の所に薬を取りにくる奴はまだマシよ。非合法のドラッグを使っている奴も多いわ。・・・監査か何かあるの?」
「・・・え?」
「経費調査かなにかあるの、って聞いてるの。薬品代が高い、ってよくいわれるから。でも、安いと思わない? 戦闘でパニクったら戦闘機が一機ダメになるのよ? 戦闘機代の事を考えれば、ドラッグ代なんて安いものだわ」
ルーナは俺の前で長い脚を組んでそういった。