1 疫病
シンが難しい表情をして、大将とカーラ艦長と話をしている。
どうしたんだろう、と私は足を止めた。
「次に寄港するハズレの星では、人の出入りを極力制限してください。ハズレの星や周辺コロニーで疫病が流行っています。病原が特定できていない上、感染ルートもハッキリしません。感染力は非常に強くて、子供や体力の無い老人は結構死んでいます。万が一艦内に病気を持ち込んだらどうなるか、大将ならわかるでしょう?」
シンの声は小さくても良く通る。
「しかし、ハズレの星から乗船してきた人をいちいち3日間も隔離するのか?」
カーラ艦長の困惑気味な声。
「はい。感染しているかどうかわかるのに3日かかるので、3日間隔離します。かなり強力に空気感染することがわかっています。ダクトを伝わって、一気に感染する恐れがあります。空調も全艦循環型から各ブース独立型に切り替えたい。「ビッグマザー」の設計図を用意させてください。それから空調整備やっているヤツをすぐに集めてください。」
シンの真剣な声には有無をいわせない強さがあった。
つぎに「ビッグマザー」が向かう星はハズレの星、という変な名前の星だ。
未開風亜熱帯の開拓惑星で、一時人気の観光地にもなっていたらしい。
今は第一次産業が盛んな星の一つで、「ビッグマザー」も取引している。
私も今度の星で鶏を卸すための準備で忙しい。
「そんなにヤバイ星かなあ。なんか南の島風で観光地のイメージが強いけれど。今度の星でバカンスの計画立てていたヤツらから苦情がきそうだなあ」
大将はノンビリした口調でいい、それが更にシンの神経を逆なでしている。
「封鎖を恐れて、どこのコロニーや星も情報を出さないけど、もうかなり広まっている。わかったら、つべこべ言わず、さっさと動いてください」
シンは結構いい性格していると思う。
大将を平気でこき使うし、カーラ艦長にも遠慮しない。
カーラ艦長は頷くと、許可を出した。
「艦内の設備調整の総括、ジーンを呼ぼう」
艦内設備の調整の総括をしているジーンさんという男が呼ばれた。
ジーンさんには初めて会うけれど、つなぎの作業服を着て、癖のある髪を肩まで無造作に伸ばした妙にセクシーなオッサンだった。マッチョで、濃い。
シンは「ビッグマザー」の設計図を手にとると、簡潔に説明した。私もついでに一緒に話を聞いていた。
これから行く予定の「ハズレの星」及びその周辺コロニーで原因不明の疫病が流行っていること。感染力が強く、空気感染の恐れがあり、致死率も高いらしいこと。「ビッグマザー」の乗組員は無菌状態に慣れていて病気に弱いこと。病原が特定できていないため、治療の目途がたたず、病気の持ち込みを阻止するしかないこと。
「オレはどうすればいい?」
設備調整の総括をしているジーンさんが「ビッグマザー」の設計図を確認しながらいう。
「空調整備を全艦循環型から各ブース独立型に切り替えたいのです。それから、病人が出たときに隔離できる部屋と、ハズレの星から乗ってきた人が入れる部屋をいくつか作りたい。ハズレの星に着く1週間の内にお願いしたい」
シンがいうと、ジーンさんは苦笑した。
「できないことはないけれど、艦内の設備を大幅に動かすことになるな。ちょっと誰かに手伝ってもらわないと・・・」
そういいながらジーンさんは私をみると無駄に色気のある笑みを浮かべた。