表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/61

7 終わり

毎日、忙しかった。

ルークも私も忙しくて、ちょっとしか顔を会わせていなかった。

別々の場所で働いていたし、行動時間がずれていた。

そんなことは今までにだってよくあった。


でも、体を動かして、美味しいごはんを食べて、ぐっすり眠れる。

私には天国だった。


農場での作業を終え、くたくたになって食堂に行く。

体を動かすとお腹が減る。


「よぉ、大将、食事か?」


大将が立っていた。


「はい。」


朝昼晩と食堂で食事が出る。

簡易キッチンもあるので、自炊している人もいるけれど、私は全食、食堂で食べている。食堂の食材の生鮮食品のほとんどは艦内で作られている。

私が一生懸命世話している鶏さんたちも、そのうちオカズになっちゃうのだ。あーめん。


大将と並び、食堂のテーブルにつく。

少し遅い時間なのでわりと空いている。


「ミアはちっこいのによく食うな」


大将は感心したように私を見るけれど、大将のような大食漢に言われたくない。


ふと、大将が眉間に皺を寄せて離れたテーブル席を見ているのに気づく。


「?」


ルークがいた。

すぐ隣には、女の人がいた。

2人は資料を広げ、話し合っている。


「ルークが技術指導をしているマーガレット・ハニガンだ」


大将は説明するようにつぶやく。


「技術指導?」


「ああ。ルークはどんな戦闘機でもすぐに乗りこなせるから、若手の指導をお願いしている。マーガレットは戦闘機の操縦はまだ半人前だから、ルークに指導を頼んだんだ」


大将は「ビッグマザー」の自衛・警備の総括をしている。

ルークも大将の元で、戦闘機乗りとして働いている。

今は特に危険な状況もなく、戦闘機が出動するような事態にはない。

大将がルークにマーガレットの指導を頼んだ、ということなら2人が一緒に食堂にいるのは不思議なことではない。

けれど、大将の眉間の皺は、おそらくルークとマーガレットの距離が異様に近いことにあるのだろう。

2人を見たときに、一瞬違和感を感じた。

今までのルークには無い、親密な空気。

大将も同じことを感じたのだろう。


大将の視線に気が付いたのか、ルークが顔を上げ、手をあげた。

女の人、マーガレット・ハニガンさんも顔をあげてニコっと笑った。


私とルークも、戦闘機の乗り方の技術指導の生徒と先生だった。

私はもう戦闘機には乗れない。

ルークは真面目で良い人だ。

技術指導も丁寧に、真剣にやるはずだ。


自分ではどうしようもできない時間が、経っていくのがわかった。


次に見たときも、その次に見たときも、2人は一緒にいた。

一緒にいる、というよりは、寄り添っている、といった方が正しいような。


自分達が一緒にいたときとはまるで違っていた。

自分達は生き抜くための同志だった。

ただただ、生き抜くために互いの存在を拠り所にしていた、とでもいうのか。

ほとんど分身ともいえる相手に憧れとか、そういったものを抱くことはない。

恋愛は未来を想う気持ちだと思う。

憧れや未知も未来だと思う。

明るい未来を思い描ける環境の中で、お互いを知りあっていけるのか、

絶望に押しつぶされそうな中で、お互いの何もかもを共有してしまったのか。

その差は大きかったのかもしれない。

誰より大切な相手だけれども、恋愛には必要な何かをどこかで壊してしまったのかもしれない。

そして、新しい恋はやっぱり、同志愛などよりも勢いがあるし、強いのだ。


いろいろな何かが壊れていくのを目の当たりにしても、何もできなかった。

大将はときおり、心配そうに私をみたけれど、何もいえなかった。

ルークはもう、一緒に家族部屋に移ろうとはいわなかった。


カードが揃えば、物事は簡単に変わっていく。


それから、ある日、突然にルークからいわれた。

彼女が、マーガレット・ハニガンさんが妊娠していて、結婚するつもりだと。

とっくの昔に2人は公認の恋人で、私はかやの外だった。

ごめん、と謝られたけれど、それはおめでとうと返すことしかできなかった。



艦内の明るい雰囲気の中、ルークとマーガレット・ハニガンさんの結婚が伝えられ、家族部屋へのお引っ越しがあり、お祝い会があった。

今まで会ったことの無い戦闘機乗り達が、大騒ぎしながら2人を祝福していた。


ある程度の事情を知っているのは、大将と、カーラ艦長と、シンだけだ。

面接に参加していたレントン博士もだけれど、博士はいちいちそんなこと覚えていないだろう。今日のお祝い会も最初の乾杯に顔を出して、後はいなくなっていた。

大将は、自分がマーガレットさんの指導をルークに頼んでしまった事を気にしていたけれど、そんなことをいっていたら、キリがない。

カーラ艦長は生きていればいろんなことがあるさ、とつぶやいた。きっと、すっごくいろんなことがあったんだと思う。

シンは何もいわなかった。

ウー太はいつもと変わらず、ご機嫌でバナナを食べていた。


マーガレットさんはルークの隣で綺麗だった。女らしい魅力的な体型をしている。

私は自分の体を見下ろす。

成長期にドラッグを常用していたせいだろう。

子供のような体形だ。

たぶん、この先もそう変わらないだろう。


だらだら続くお祝い会を抜け出し、自分の部屋のベッドの上で膝を抱えて座っていた。

とても静かだった。

ルークのことを大切に思っている。

でも。

ルークはこれからはマーガレットさんを大切に守っていくのだろう。


ルークの中にあった自分の存在意義が消えてしまい、自分を見失いそうになる。


行くべき場所も、帰る場所もないけれど、立ち止まれる場所もない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ