6 大切な気持ち
ルークの部屋は、私の部屋の隣の隣だ。
私の隣の部屋は空き部屋になっているけれど、みんなが持ち寄ったガラクタ置き場になっていて、無人フリーマーケット状態になっている。
「ルーク、タオルもらってきたよ」
私もルークも荷物がほとんどない。
タオルや服など、中古がもらえた。重宝する。
「ありがとう」
ルークが荷物整理をするというので手伝いにいったけれど、もう終わっていた。
ルークはベッドに腰を下ろして、のんびりしていた。「アース」にいた頃はどこか荒んだ感じがしたけれど、今は余裕を感じる。
たぶん私の部屋と同じ大きさのベッドなんだろうけど、ルークが座ると小さくみえる。
ルークの部屋は、潔い青と白をベースにした青空に浮かぶ島みたいな部屋。
タオルを小さな洗面台の横の棚に入れる。
一部屋毎にちゃんと洗面台が付いている。すごい、と思う。
棚の中まできちんと色が塗ってあり、細々した小物の絵が描いてある。
コップとか、タオルとか。
きっと、あのだまし絵好きの人が描いたに違いない。
「ミア」
いつの間にか、すぐ後ろにルークが立っていた。
「なに?」
私は聞いたけれど、ルークは無言で後ろから柔らかく抱きしめてきた。
しばらく、ずっとそうしていた。
ルークの体温が心地よい。
「大将が教えてくれたけれど、家族用の部屋もあるんだって」
ルークは後ろから抱きしめたまま、いう。
「うん・・・?」
「一緒に、住もうか」
ルークと一緒に住める。
信じられない。
夢みたいだ。
「うん! 住む!」
私は即答した。
ずっと昔、ひどい空母にいた。
女部屋に複数雑魚寝。
しょっちゅう警報が鳴り、ボロい戦闘機で宇宙に出た。
ルークも同じ空母に雇われていた。
ドラッグはもらえたけれど、給金はスズメの涙だった。
でも、そのスズメの涙から、金魚の涙くらいの貯金をしていた。
いつか、お部屋を借りて、一緒に住もうね。
ルークと約束して、2人でお金を貯めた。
貯めた所で、2人で住める場所なんてあるとは思えないけれど、信じていた。
いつか。
でも、せっかく貯めた金魚の涙くらいの貯金も、貨幣価値がかわり、消えた。
それ以来、あきらめてしまっていた。
今も毎日働いてはいる。
私はまだ満足な働き手とはいえないけれど、艦内の人の衣食住くらいはどうにかなるらしい。
右も左もわからないけれど、ウー太と一緒に教えてもらいながら、鶏の世話をしたり、掃除をしたり。
鶏のつかまえかたも覚えた。
足の付け根を2本一緒につかんで即、さかさまにする。
そうすれば、つっつかれない。
この前は鶏に注射をした。
毎日体を動かして、ご飯がおいしくて、眠れる場所があって。
その上、ルークと一緒に暮らせるのだろうか。
本当に、夢みたいだ。
ルークは私の頭にキスをした。
「じゃあ、一緒に住もう。・・・さすがにまだ、俺も艦の中のこともわからないし、仕事もまだだから落ち着いたら、きっと」
私は向きを変えて、正面からルークと向き合った。
ルークは真っ直ぐに私を見てくれている。
前みたいに、私を通して、昔を、もう無い故郷をみているんじゃない。
そう思うと、嬉しかった。
ルークの首に腕をまわし、キスをする。
「ルーク大好き」
そういうと、ルークは微笑んでいった。
「家族になろう」
故郷と故郷。
思い出と思い出。
わずかな希望とわずかな希望。
たくさんのものをお互いの中だけに共有してきた。
もう、家族よりずっとずっと近い存在だった。
でも、あまりに近い存在というのは、恋人のそれとは大きく違ってしまっていたのかもしれない。
それが何をもたらすのか、そのときはまだ気付けなかった。